帰って来ると
彭城を後にした曹昂軍は問題なく陳留の帰還の途に着いていた。
途中、偶然にも鄴の使者と合流する事が出来た。
使者は出撃準備が整ったので、直ぐにでも出撃すると述べたが、もう終わったのでしなくて良いと伝えた。
そう伝える様に述べると、使者は一礼して来た道を引き返して行った。
十数日後。
曹昂は陳留に到達した。
陳留に着くと出迎えなのか刑螂が居た。
「殿。御無事のお戻りを嬉しく思います」
「ああ、わたしの留守中に何かあったか?」
何処かに攻められたのであれば、何かしらの連絡が来る事になっているが、そういった連絡は無かったので、特に何も無かったのだろうと思っていた。
「つい先ほど、例の天師教の者達が参りました。今、一席を設けて歓待しております」
「思っていたよりも早く来たな」
もう少し時間が掛かると思っていたので、曹昂は軍の事は司馬懿に任せて、天師教の者達と会う準備をした。
数刻後。
城内にある大広間にて、曹昂は天師教の者達と会談を行っていた。
「益州から良く来てくれた。歓迎するぞ」
「はっ」
法正達を連れて来た天師教の者が頭を下げると、後ろに控えている者達も頭を下げた。
控えている者達は三人ほど居た。
その中の一人が堂々とゆったりとして優雅な佇まいをしていた。
見ただけでは年齢は分からないが、口の周りに髭を生やしているので成人という事は分かった。
鋭い刃の様な切れ目を持ち利口ぶった顔立ちであった。
その者を見た曹昂は、何となくだがこいつが孟達では?と思っていた。
とは言え、紹介されるまで断定するのは早いと思ったのか、使者との話を続けた。
「わたしが居ない間、何か問題はあったかな?」
「いえいえ、何の問題ありません。むしろ、此処まで歓待して頂き感謝します」
「そうか。それは良かった」
少し雑談を交えた後、本題を振った。
「後ろに控えているのが、今回連れて来た者達か?」
「はい。今回は右から孟達子慶。鄧芝伯苗。鄧賢の三人にございます」
「三人共、顔を見せよ」
そう言われ、三人は良く見える様に顔を上げた。
「・・・三人共、良い顔をしている」
曹昂が称えると、孟達が恭しく答えた。
「有り難きお言葉いございます。先に仕えている我が友の法正ともどもご期待に背かない働きを致します」
自信満々に言うので、肝は太そうだなと思っていた
其処に兵が入って来た。
「司馬懿様がお会いしたいとの事です」
「分かった。通せ」
通して良いと言うと、兵は一礼しその場を離れると司馬懿を連れて戻って来た。
「失礼いたします。会談中と聞いておりましたが・・・」
兵が離れて行き、司馬懿は一礼し頭を上げるなり、孟達を見て僅かに眉が動いた。
孟達は司馬懿の視線を受けて、首を傾げていた。
「どうかしたか?」
「ああ、いえ。命令された事は問題なく行えました。それと、先程朝廷からの使者が文を届けに来ましたので、お持ちしました」
「それはご苦労であったな。ああ、司馬懿。紹介しておく。新しく家臣となった者達だ。右から孟達子慶。鄧芝伯苗。鄧賢の三人だ」
「司馬懿仲達と申します」
紹介されたので司馬懿も名乗り頭を下げた。
「今日の所は三人は休んで構わない。明日から才に見合った仕事を当てるのでそのつもりで」
「「「はっ」」」
曹昂が手で下がる様に振ると、孟達達は一礼し立ち上がりその場を後にした。
三人が下がり、部屋から出て行くと司馬懿が手に持っている文を直接曹昂に渡す為に歩き前まで来た。
そして、文を渡す際、司馬懿は口を開いた。
「鄧芝と鄧賢という者達は何の問題も無いと思います。ただ、あの孟達という者にはご注意を」
「何を注意すれば良いのだ?」
「いずれ謀反を起こすやもしれません。あの者の顔を見るとそう感じました」
司馬懿は一目で孟達を危険な男と看破した様だ。
(ふ~む。何か通じるものがあるのかな?)
曹昂には分からなかったが、司馬懿がそう言うのでそうなのかもしれないなと思いつつ、渡された文を広げた。
「・・・・・・荀彧先生からの文か」
書かれている内容を一読すると、直ぐに曹操へ文を送る事にした。