当分の間は監視付きにするか
数日後。
彭城に徐盛が韓綜を連れて来た。
大広間にて謁見する事にした。
「お初にお目に掛かります。自分は徐盛。字を文嚮と申します」
挨拶をしてくる徐盛を曹昂はジッと見た。
年齢は三十代前半で顎髭を生やし、精悍な顔立ちに力強い眉を持っていた。
その眉に負けない程に強い意思を宿した瞳を持ち大柄で鍛えられた肉体を持っていた。
「此度の周瑜の水軍を張子の城で撃退したと聞いている。見事な智謀だな」
「いえ、孫家には水軍があると聞きましたので、水軍で攻め込んでくるのかも知れないと思い備えただけの事です」
称賛の言葉を聞いても徐盛は備えるのは当たり前の事という顔をしていた。
その反応を見て、中々の人物と見ていた。
頷いた曹昂は徐盛の後ろに控えている人物を見た。
見た所、二十代前半ぐらいで顎に少し髭を生やし日に焼けた肌をしていた。
鍛えられた身体を持ち、大柄であった。
「お主が韓当の息子の韓綜か?」
「はっ。その通りにございます」
問いかけられると、頭を下げて肯定した。
「歳は幾つか?」
「今年で二十三歳となります」
「そうか。お主はこちらに降伏したと聞いているが、何故降伏する事になったのか教えて貰えたい」
「はっ。承知しました」
韓綜は顔を上げると、熱弁を始めた。
そして、話を聞き終えると、曹昂は指でひじ掛けを叩いていた。
(孫権に呼び出されて、忠義を疑う様な事を言われた為、恥辱を感じて屋敷に戻るなり韓当が自害したと。それが許せず、兵と共に降伏して来たか。・・・・・・ちょっと思い込みが強すぎない?)
話を聞いていて、そう思ってしまった。
だが、それでこちらに降伏してくれたので悪いとは言えなかった。
「・・・・・・降伏を受け入れる。官位については後日、使者を送るので。それまでの間、彭城に居る様に」
「はっ。ありがとうございます。必ずやご恩に報いるお働きを致しますっ」
韓綜は深く頭を上げて礼を述べた。
そして、二人は下がって行くと、曹昂は傍にいる劉巴を手招きした。
「韓綜に三毒の者を送り見張らせろ。敵の埋伏の計かもしれないからな」
「承知しました。直ぐにそのように致します」
劉巴が一礼してその場を離れて行った。
後日。
韓当の棺は韓一族の者達の手で故郷の幽州遼西郡令支県へと運ばれる事となった。
韓綜だけは彭城に残る事となった。
連れて来た兵も今は徐盛が預かっていた。
その数日後。
琅邪国に居る臧覇が彭城にやって来た。
「丞相の命により、李整の後任に選ばれました。これが任命書と印綬にございます」
臧覇が任命書と印綬を見せて来たので、陳登に今まで世話になった挨拶に来たのだと分かった。
「陳登殿の病状は?」
「それは先生に聞かぬと。誰か、華佗先生を呼んで参れ」
曹昂は華佗を連れて来るように命じた。
少しすると、華佗が二人の前に姿を見せた。
パッと見ただけでは年齢は分からなかったが、少なくとも前髪が無く、額が広いのでそれなりの歳だという事は分かった。
口髭と顎髭を生やし鼻すじの通った丸い顔をしていた。
「お召しにより参りました」
「ああ、先生。陳登の調子はどうかと思いまして」
「それでしたら、ご安心を。後数日程すれば床払いが出来ます」
「おお、そうか。今すぐに話をしたいのだが、出来るか?」
「問題ありません」
「そうか。では、わたしはこれで」
臧覇が一礼しその場を後にすると、華佗も一礼して離れようとしたが。
「先生。御話しがあるのですが」
「話ですか?」
何だろうという顔をしながら、華佗は曹昂を見た。
「陳登の治療はもう終わるのでしょう。どうです、その医術を天下の為に使うつもりはありませんか?」
「ふむ。つまり、朝廷に仕えよという事ですかな?」
「ええ、その通りです。待遇については、わたしが保証致しますので」
曹昂は自分の胸を叩いた。
華佗は直ぐに返事をせず暫し考えた。
「・・・・・・御話しは分かりました。もう少々お待ちを。陳登殿の治療が終わりましたら、仕える事と致します」
「おお、そうですか」
すんなりと話を聞いてくれたので、曹昂は安堵した。
そして、陳登の容体が良くなるとその下に赴き、徐盛を配下に欲しいのでくれないかと頼んだ。
陳登は後任が見つかるまで待って欲しいと答えた。
太守なので仕方が無いと思い、後任を見つけたら配下に来るように声を掛けてくれと頼んだ後、曹昂は率いて来た軍勢と共に彭城を後にした。
本作では韓綜の生年は180年とします。