後任は誰になるのかな
韓当が自害したという報告を訊き、曹昂は息を吐いた。
(こちらとしては、文官と武官との間に溝をつくるぐらいで行った事が、まさか重臣を自害に追い込むとは思いもしなかったな)
想定外ではあったが、これで孫権は当分の間、侵攻するという事も無いと言えた。
最早徐州に居る必要もないと判断して、彭城に居る陳登に挨拶して、徐盛を配下にくれるかどうかの話をする為に向かう事にした。
数日後。
曹昂達は彭城に着き、文官達に出迎えられた。
「陳登の様子はどうなっている?」
「はい。不幸中の幸いと言っても良いのでしょうか。以前治療してくださった華佗様が沛国譙県に帰っておりまして、急いで来てもらい治療に当たって貰い、良くなりました」
「そうか。それは良かった」
文官の報告を訊いて、安堵していた。
何故、華佗が?いるのかと言うと、これは孫策の死が関係していた。
治療している最中に刺客に襲われ命を落としたのだが、その時華佗が傍に居なかった事に、孫家の家中の者達は不審に思っていた。
薬の調合の為に、部屋を離れていたと言うが、あまりに離れる時が良すぎた。
家中の中では、実は刺客を孫策が居た部屋まで案内したのは華佗だったのではと言う者まで居た。
この時代の薬師の地位はかなり低かった。
外科手術など出来る知識も技術もない上に、儒教で身体を傷付けるのは不孝と言われるので、あまり発展しなかった。
その為、祈祷やお札が一般的で、薬は飽くまでも補薬扱いであった。
このままでは友人が殺されるのではと思い虞翻が密かに華佗を逃がしたのであった。
(医術の発展を促そうにも、その知識は流石に持っていないし、儒教が深く浸透しているこの国では無理があるからな)
その方面の発展は無理だと思い、何もしない事にしていた。
文官の案内で曹昂は陳登の見舞いに向かったが、丁度薬を飲んで寝ているところであったので、見舞いは後日という事となった。
そして、陳登が良くなるまでの間、暫く駐屯する事にした。
彭城に駐屯し暫く経ったある日。
広陵郡太守の徐盛から文が届けられた。
「なに? 韓当の息子の韓綜が兵と親族と共に降伏を申し出た?」
「はっ。太守はどうするべきなのか分からず、返事を待っております」
文を届けてくれた使者は曹昂の返事を待っていた。
暫し考えたが、一人で決める事ではないと判断し使者には少し待てと命じて下がらせ、劉巴達を呼んだ。
「死んだ韓当の一族の者達が降伏してきたと?」
「これは思いもよらぬ事ですな」
「この降伏は本当なのか? あるいは偽の降伏かも知れませんな」
「一族の者が何の罪もなく自害したのだ。それを恨んでの事かもしれんぞ」
話を聞いた劉巴達も本当の降伏なのか、それとも偽りの降伏なのか分からなかった。
「殿。此処は殿が決めて下され」
話し合っても無駄だと思ったのか司馬懿が曹昂が決める様に進言した。
「・・・・・・とりあえず、彭城に連れて来るように命じよう。其処で話を聞いてから、判断する」
「承知しました。では、使者にはわたしから申しておきます」
曹昂の決断に劉巴達は従いその場を離れて行った。
部屋に一人になると、窓から外を見つつ思っていた。
(出来れば、本当に降伏してくれると嬉しいな。ほんの一時とは言え韓当は部下であったのだから、その家族が降伏して来たのだ。無下にしては九泉に居る韓当も浮かばれないだろうしな)
本当に降伏してくれるという事を祈っていた。
劉巴が使者に会い、その韓綜を連れて来るように命じると、使者は即日発った。
使者が発った数日後。
曹昂の下に思わぬ報告が舞い込んで来た。
「なにっ、青州を治めていた李整が亡くなった⁉」
「はっ。どうも、身体を壊していたのに政務を行った為に倒れて、そのまま」
「そうか・・・・・・う~ん」
青州はようやく発展しだした所であった。
其処に刺史の李整が倒れたので、また荒れるのではと心配になった。
「誰か後任になれる者は居ないかな・・・・・・」
曹昂は少し考えたが、直ぐに思いつかなかった。