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疑ってしまった為に

 訂正 張昭× →秦松

    張紘× →全柔

 確認不足をしてしまい申し訳ありませんでした。

 上座に座る孫権は困った顔をしながら、文官武官に分かれて口論している列の間に居る韓当を見ていた。

 こうなった経緯は少し時を遡る。

 孫権が広陵郡の切り取りの為に出陣したが、城を一つも落とす事が出来ずにいる所に、黄射が攻め込んできた為、程普に殿を命じて豫章郡へと向かったが、孫権軍が来る事を知ったのか、黄射は戦う事なく兵を退いた。

 黄射が兵を退いた事を、豫章郡に入ってから知った孫権は怒りで拳を握り締めた。

 仕方が無く、襲撃を受けた県の城の修復や再度襲撃を受けても守れる程の兵を残した後、曲阿へと帰還した。

 孫権が曲阿に戻り暫くすると、程普が帰還して来た。

 その程普の口から殿を韓当に任せたが、帰還している途中で曹軍の襲撃を受けて、率いていた兵の半数を失ったと報告した。

「馬鹿な⁉ では、韓当はどうしたのだ?」

「わたしが襲撃を受けたという事は、恐らく軍が壊滅したという事でしょう」

 程普は自分の推察を述べると、孫権は目を瞑りながら天井を見上げた。

「韓当・・・・・・どうか、無事でいてくれ」

 父の代から仕えている忠臣の無事を天に祈っていた。

 それから少しすると、周瑜率いる水軍が嵐に遭い、呉郡の東の海岸まで流されたという事が分かった。

 孫権はそれで何時まで経っても連絡が来なかった事に納得できた。

 周瑜の無事を祈りつつ続報を待った。

 そう祈っていると、韓当が軍勢を率いて帰還して来た。しかも、率いて来た兵が一人も失う事なく。

 殿なのに兵を失う事が無く帰還してきた事に文官達は疑惑を抱いた。

 そして、韓当にどうしてそうなったのか事の経緯を報告させたが、その報告を訊くなり秦松が述べた。

「殿。程公が率いていた軍は曹軍の襲撃を受けて、兵の半数を失ったと言うのに、韓当の軍は無傷の帰還とはあまりに不可解ではありませんか?」

「確かに、そうではあるな・・・」

 秦松の言葉に孫権もそう答える事しか出来なかった。

「なっ、程公の軍が襲撃を受けたと⁉」

 今初めて聞いたのか韓当は目を剥いていた。

「そうだ。だが、何故、お主が率いていた軍は被害が無いのだ?」

「それは、私には分かりません。敵は攻撃する様子が無かったので」

 韓当の話を聞いて、秦松の側にいた全柔が疑わしい目で見て来た。

「それはおかしな事ですな。そう言えば、前回攻め込んで来た時も陳登は伏兵で撤退する我が軍を大打撃を与えましたな」

「は、はぁ、そうですな」

 何でそんな話をするのか分からず韓当は首を傾げながら答えた。

「私は前々から、陳登がどうやって我らの退路を知る事が出来たのか不思議に思っていましたが、此度の殿を任された韓将軍では無く程公が敵の襲撃を受けたと聞いて、こう思ったのです。もしや、この場に居る我らの中に曹操と与する裏切者が居るのではと」

「なっ、それはわたしだと言いたいのか⁉」

 全柔の話しぶりから、韓当が敵と内通していると言っている様なので激昂した。

「では、何故、曹軍は貴殿の軍に攻撃しなかったのです?」

「成程。話を聞けば納得できるな」

「それであれば、程公の軍が襲撃を受けるのも分かりますな」

「ですな。程公軍の退路を知らせれば、曹軍は簡単に襲う事が出来ますからな」

「それならば、韓将軍の軍が無傷で帰還で来た理由が納得できますな」

 文官達は頭から韓当が曹操と内通していると決めつけていた。

 其処に全柔が火に油を注ぐような事を述べた。

「そう言えば聞いたのですが、韓当殿は以前曹操の下に居たそうですね」

「確かにそうだ。だが、その時は孫策様が仕えていたから、わたしと程普と黄蓋も仕えていただけの事」

「ですが。その縁で曹操と知り合う事が出来たと言う事になりますな」

 全柔は得意げな顔をすると、韓当は言葉を詰まらせた。

「待てい! 韓当は大殿(孫堅)の頃から孫家に仕えている忠臣ぞ。そんな者が敵と内通する訳が無かろうっ」

「そうだ。程公が敵の襲撃を受けたからと言って、韓当を内通者と断定するとは無礼にもほどがある!」

 程普と黄蓋が韓当を弁護した。

「韓将軍は忠実に任務を行ったにすぎんっ」

「そうだっ、無傷に帰還できたのも、敵の策略かも知れんっ」

「忠臣の韓将軍が敵と内通する訳が無い!」

 武官達も声高に韓当は無実だと叫んだ。

 そして、今文官と武官に分かれて激論を交わしてだした。

(これは不味い事になった・・・・・・)

 孫権は頭を抱えたくなった。

 文官達は此度の出兵も反対していた。

 そして、成果も出さずに撤退してきた為、自分達の影響力と発言力を増す為に韓当を槍玉に挙げていた。

 武官達は同僚を守るために弁護を続けていた。

 だが、守れば守る程に自分達の立場が追い詰められていく事には気付いていなかった。

 特に程普と黄蓋などは、韓当と同じく実は曹操と繋がっているのではという目で見られていた。

 だが、どれだけ激論を交わしても韓当の処罰は決まらなかった。

 仕方がないので、孫権は韓当に謹慎を命じた。

 韓当は頭を下げて命令に従い、その場を離れて行った。


 数日後。


 孫権は私室にある人物を呼んでいた。

 護衛の者がその人物が来たと聞くなり、部屋に通すように命じた。

 少しすると、護衛の者がある人物を連れて来た。

 その人物は韓当であった。

「良く来てくれた。韓当」

「いえ、殿の御呼びですので」

 頭を下げる韓当に孫権は優しく声を掛けた

 そして、護衛の者に「わたしが呼ぶまで、部屋から離れていよ」と人払いを命じた。

 その命令を聞いて部屋の外にいた全ての者達は部屋から離れて行った。

 部屋の外には一人もおらず、部屋の中には孫権と韓当の二人だけとなった。

「これで、誰も聞き耳を立てる事はなかろう。韓当、座るが良い」

「はっ」

 孫権に促されて、韓当は用意されている座席に座った。

 孫権も対面の座席に座ったが、何も言わなかった。

 どう話したらいいのか分からず、口を開けては閉じてを繰り返していた。

「・・・・・・殿。わたしの処分はどうなりました?」

 韓当は孫権の様子を見るなり訊ねた。

「あ、ああ、それはだな」

 孫権は渋々と語りだした。

 今になっても結論が出ずにおり、程普と黄蓋が弁明しても、庇う所を見ると怪しいとばかりに追及されていた。

 そんな文官達に武官達は憤っていた。

 このままでは、分裂するのではと思える程に険悪になっていた。

「・・・此処に周瑜が居れば、直ぐに終わったであろうな」

 孫権は憂鬱そうな顔をしていた。

 その周瑜は病気に掛かり療養中という文が届いた。

 ちなみに、魯粛は水軍を陸路で曲阿に帰還している最中であった。

「殿。わたしの所為で申し訳ありません」

「良い。だが、もう少しだけ待ってくれ」

 韓当に暫く耐える様に言うが、孫権は内心で韓当を疑っていた。

 何せ、殿の筈なのに、無傷で帰還してきたのだ。敵と内通していると思っても不思議では無かった。

 と思いつつも、父の代から仕えている宿臣ではあるので内通はしないのではとも思っていた。

 半信半疑な為、もう少し調べてから処分を決める事にした。

「・・・・・・承知しました」

 孫権の目を見て、韓当は頭を下げた。

 頭を下げた為、孫権の方からは見えなかったが、韓当は何かを決めた顔をしていた。

 孫堅に一礼しその場を後にした韓当は屋敷に戻ると、私室に入るなり筆を手に取り、紙に何か書いていた。

 書き終えると壁にある刀掛けに掛けている愛刀を鞘から抜いて、刀身を見た後、首に当てた。

「大殿。孫策様。不忠をお許しを」

 そう言った後、韓当は刀を引いて自分の首を斬った。

 切り口から赤い血が噴水の様に噴き出した。

 韓当は赤い池の中に倒れ込んだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] いっそ本当に曹操に付いてしまえばよかった…… また食べ物の派閥でわちゃわちゃして欲しかった。
[一言] ここで韓当が脱落するということは、赤壁の戦いで黄蓋は死ぬのかな?
[一言] ほんま曹昂の親父勝りの人材刈り取りが派手に効いているw張昭らとくらべて落ちる文官に、ベテラン頼りの武官。そして何の成果もない北伐でそこに生贄の羊(韓当)投げ込めばそらそうなるわ。孫策なら韓当…
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