また来た⁉
数日後。
許昌に来た顧徽が献帝と謁見していた。
貢物の目録を与えると、献帝から労いの言葉を掛けられた。
「時に、丞相はどちらに?」
顔をあげた顧徽は目だけ動かして、曹操を探したが居ないのでたずねた。
「丞相は今、冀州の視察に出向いており、此処にはおりません」
荀彧が此処に居ない理由を述べると、顧徽は成程だと思い頷いていた。
「そうでしたか・・・・・・」
その後、顧徽は口を開かなかった。
謁見が終わると、顧雍は顧徽と曹昂を会わせる為一席を設けた。
「揚州から来たそうで、遠くから良く来られましたな」
「いえいえ、それほど遠いとは思いません」
茶を飲みながら話し合う二人。
「元歎殿。此度は弟君と会わせてくれて感謝する」
「いえいえ、この程度の事でお礼など無用です」
「そうか。しかし、弟君はどうして孫権に仕えているのだ?」
気になったので訊ねると、顧雍は苦笑いした。
「いえ、蔡邕様が朝廷に仕えていると聞いて仕える事にしましたが、思っていた所と違っていた場合に備えて、弟には孫権に仕えさせたのです」
「成程な」
もし、職を辞めた時、弟に口利きして仕えさせて貰う為に、孫権に仕えさせたのだと分かった。
「それは頼もしい事だな」
「まぁ、孫家では文官が少ないので重用されております」
顧徽が笑いながら言うと、引き抜きしたからそうなるよなと思う曹昂。
「仕えている以上は報告しなければなりません。丞相は今冀州に居るという事は報告してもよろしいですな」
「それは構わない。それよりも、孫権は朝廷に使者を送ったのは、何の為なのだ?」
「内情を調査しろとだけ言われましたが、それ以上は」
「成程な・・・・・・」
これは、孫権はまた何かしでかすなと察した。
話し合いが終わると、曹昂は人を呼んだ。
「これを父上に」
「はっ。承知しました」
文を渡された者は一礼してその場を離れて行った。
数日後。
鄴にいる曹操に文が届けられた。
曹昂からの文と聞いて、最初今度は宮殿修繕費用の無心にでも来たかと思い、文を広げた。
「・・・・・・孫権の使者が朝廷に来た。何か不穏な気配がありだと?」
文を読み終えると、孫権がまた侵攻してくるのか?と思ったが、直ぐにそれは無いかと悟る。
以前、徐州に侵攻して来た時、陳登に手痛く撃退されたのに、また侵攻してくるなど無謀というよりも、愚かとしか言えなかった。
(あの孫堅の息子だからな。其処まで愚かだとは思えん。だとすれば・・・・・・)
徐州の侵攻は無いと言えたが、曹操の支配下に江南を狙うかもしれないと思った。
「江南に誰か送らねばな・・・・・・」
前々から誰か送ろうと思っていたのだが、袁紹との戦い、河北平定などが忙しい為後回しにしていた。
これは誰か送らないと駄目かも知れないなと思い、周りにいる家臣達に声を掛けた。
「揚州の孫権が怪しい動きをし始めている。わたしが冀州に居る事を良い事に、攻め込んでくるかもしれん。徐州は陳登が守っているからいいとして、江南の方は誰も居ない。誰か赴きたいという者は居るか?」
問い掛けられた家臣達は互いの顔を見ていた。
そんな中で、一人前に出た。
「丞相。わたしが参ります」
「劉馥か」
前に出たのは曹操にとって義理の弟で曹昂の叔父である劉馥であった。
「わたしは揚州に居た事がありました。少し土地勘があります。丞相の期待に応え、江南を孫権からも劉表からも守りぬきます」
「そうか。では、お主に任せた」
即日、朝廷に劉馥を揚州刺史へ推挙した。
暫くすると、朝廷の使者が来て劉馥は揚州刺史となり、即日発った。
十数日後。
曹操の下に徐州の陳登が驚くべき報告が齎らした。
揚州の孫権が徐州へ侵攻したと。