帰って来たが
年を越えて、建安八年。
鄴で年越しをした曹昂は陳留に帰る為に曹操へ挨拶に向かった。
「陳留に帰るか」
「はい。折りをみては、妻や孫を連れて参ります」
「そうか。まぁ、何かと呼び出すかも知れんがな」
出来れば、夫婦間の問題で呼び出さないで欲しいなと思いつつ苦笑いする曹昂。
曹操への挨拶を終えると、ほかの家族に挨拶をしていく。
それが終わると、家臣達と共に鄴を後にした。
十数日後。
鄴を出立した曹昂達は陳留が見える所まで来た。
前触れを出していた為、呂範を含めた家臣達が出迎えの列を作っていた。
(・・・・・・何か、久しぶりに会った気がする)
家臣にしたのはいいものの、陳留の留守を預かって貰った為、久しく会う事が無かった。
不満を抱いてはいないかなと思いつつも、列がある所へと向かった。
曹昂の一団を見えると、呂範が手を掲げると、楽隊が楽器を鳴らしだした。
音楽を背に聞きながら呂範は曹昂の下へと向かった。
「殿。御帰還嬉しく思います。また、兗州州牧就任。おめでとうございます」
「うむ。わたしが居ない間、良く陳留を守ってくれた。感謝するぞ」
「いえ、臣下として当然の務めにございます」
曹昂が馬上から降りて呂範を労うと、どうという事がない顔をするのであった。
良い部下を持ったなと思いつつ、他にも話したい事はあるが、此処で話す事ではないので城内に入る事にした。
最初に家族と会い挨拶を交わし話に興じた後、家臣達が待つ大広間へと向かった。
城内にある大広間。
其処で呂範が知らない者達の紹介と来た経緯を簡単に話した。
「成程。しかし、流石は殿ですな。まさか、鳳雛と言われる龐士元殿を配下にするとは」
「鮑信殿のお陰もあるが、運が良かったと言えるだろうな」
曹昂としても、此処まで大物が来るとは思いもしなかったので、来たという報告を訊いた時は茶を噴き出すほど驚いていた。
その分、大事に扱わないとなと思っていた。
「文官も多くいるので、政務は問題なく行えるだろう」
兗州にある陳留郡以外の郡には太守が居るので、異動させる事はせずそのまま委任させておき、陳留郡にある県には配下の者達を県令として送り込むか、代行を立てて治めさせて手元に置き意見を聞く事にした。
どの県に誰を送り込むか、もしくは代行を立てるか話し合いが行われた。
一刻ほど掛ったがようやくまとまった。
話が終わり、皆大広間から出て行く中、呂範が曹昂に近付いて来た。
「殿。ご報告が」
「何だ?」
「実は今城内に華雄殿が居るのです」
「華雄が?」
何故、此処に居る?という顔をしていた。
華雄は隣の郡である済陰郡内にある定陶県の県令になっていた。
お蔭で、呂布が兗州に侵攻して来た時に迎撃し、呂布を兗州から追い出すのに一役買ってくれた。
「董白に会いに来たのか?」
「はい。董白様は董卓の孫ですからね。亡き主の孫娘という事で、暇を見つけては会いに来るのです。御子にも会えて嬉しそうな顔をしておりましたよ」
「そうか。それは良いが」
「ええ、殿の御懸念の通りです。呂布と会えば、問題が起こるやもしれません」
「だよな・・・・・・」
謀略に掛けられたとはいえ、董卓を殺した呂布。
その呂布を前にして華雄が平静でいられるかどうか気になるのは無理なかった。
「腕を斬り落とした関羽は丞相の直臣になりましたので、会う事はそうそうないと思うのですが、呂布は殿の家臣ですから顔を合わせる事が多くなると思います」
「流石にいきなり切り掛かるという事はしないと思うが、注意はした方が良いな」
「はい。わたしの方も気に掛けておきます」
呂範は話すべき事を終えると、一礼し離れて行った。
曹昂は息を吐いた後、私室へと向かった。
私室に入ると、使用人に茶の用意をする様に命じた後、椅子に座り窓から外を見ていた。
流れる雲を見ながら、呂布と華雄はどうしようかなと思っていると、部屋の外に居る護衛の孫礼が入って来た。
「失礼します。劉夫人が参られました」
「公主様が?」
劉吉が来たと聞いて、何の用だと思いながら通すように命じた。
孫礼は直ぐに劉吉を連れて戻ってくると一礼し部屋を出て行った。
「吉や。どうかしたのか?」
「はい。先日、弟の下に参ったのです」
「陛下は息災で?」
此処の所、顔を見せていないなと思いつつも、流石に会いたくはないかと思ってしまった。
(・・・・・・奥さんが子供を産むまで処刑を延ばす為に、忠臣を裏切ったのだから恨まれても仕方がないよな)
恨んでるだろうなと思いつつ、劉吉の話を聞いた。
「はい。元気ではありました。伏皇后にも会いましたが元気そうでした」
「そうか。それは良かった」
「はい。其処で問題があったのです」
「問題?」
「実は」
劉吉は困った事だなと思いつつ、献帝から聞いた話を話し出した。