ちょっと実験するか
法正達を歓待し数日が経った。
曹昂は鄴近くの河に来ていた。
護衛として孫礼の他に兵士が数十人程いた。
兵達は銅で出来た線、銅の円盤、木材を持っていた。
他にも黒い板の様な物もあった。
「殿。此処で何をするのですか?」
「う~ん。実験?」
皆は何の実験をするのだろうと思いながら、曹昂の指示を待った。
「ええっと、とりあえずこれを見ながら作ってもらおうか」
そう言って自分の袖の中に手を入れて、何かを探しだした。
少しすると、一枚の紙を出した。
その紙を広げて、兵達に見せると、兵達は紙に書かれているものを不思議そうに見ていた。
数刻後。
河の近くにある物が出来ていた。
水の流れに合わせて、車輪が回っていた。
回る車の中央には棒が刺さっており、回る動きに合わせて動いていた。
その動きに合わせて木で作られた歯車も回っていた。
回る歯車が動く事で、別の歯車を動かしていった。
歯車が動き出す事で銅の円盤も動き始めた。
二つある円盤を挟むように黒い板の様があった。
円盤を支える部分には銅で出来た線が繋がっていた。
「これで良いと思うのだがな・・・」
前世で見たアラゴーの円板の原理で作られた発電所を、この時代の材料で再現した。
曹昂はこれで良い筈だと思いながら見ていたが、孫礼たちからしたら、何だこれは?という思いで見ていた。
「殿。これはいったい、何ですか?」
「・・・・・・」
孫礼にそう訊ねられて、答えに困っていた。
発電所のような物と言っても、発電所とはなにという所から話す事になる。
加えて言えば、電気という話になる。
(電気を詳しく説明しろと言われても、流石に無理がある)
説明が出来ないからどう言うべきか悩んでいると、兵の一人が銅線に近付いた。
「これは何なのだろうな? ・・・・・・あびゃああああっっっ」
銅線の先端を掴むなり悲鳴をあげだした。
悲鳴をあげると、その場を飛び退いた。
「な、ななな、なんだ、これはっ」
兵は身体が痺れている事に驚きつつ、何が起こったのか分からかった。
「大丈夫か⁉」
「悲鳴をあげていたが、どうしたんだ?」
「わ、分からねえ。でも、何か突然、身体が痺れだしたんだ」
兵が周りにいる同僚にそう話すのを聞いて、他の兵達は怯えて作った発電機から離れて行った。
「ああ、済まない。先端に触れると痺れると言うのを忘れていたな。他の部分は触っても問題ないぞ。漆を塗っているから」
「は、はぁ・・・うん。確かに」
孫礼が本当かどうかの確認の為に線の部分に触れると、痺れる事は無かった。
痺れないと分かると、銅線を掴んだ。
漆は絶縁体の役割を持っているので、電気を通す事は無かった。
「殿。これは新兵器ですか?」
孫礼は自分の主が兵器を開発する事が出来ると聞いていたので、これも新兵器なのだろうと思い訊ねた。
「・・・・・・新兵器に使う為の材料? という所かな」
「材料。成程。しかし、どうやって、痺れさせる事が出来るのです?」
「あの黒い板のような物があるだろう。あれは、慈石だ。あれに銅盤を近づける事で痺れさせる力を生み出すのだ」
とりあえず、分かりやすい説明をしたが、曹昂は分かるかなという思いで周りに居る者達を見た。
孫礼は分かった様な分からない様な顔をしていた。
「・・・・・・まぁ、この機械のお蔭で痺れさせる力を生み出す事が出来ると思えば良い」
「はぁ、これがどんな兵器になるのでしょうな」
これは動力なんだがなと思いつつも、曹昂は指示を出した。
「とりあえず、これでこの機械は作れると分かった。陳留に戻った後で本格的に製造するとしよう」
「はっ。分かりました。ところで、この機械は解体するのですか?」
「ああ、そうだな」
電気が出来る事が分かったので、もうこの機械を此処に置く必要は無かった。
置いておけば悪用される可能性もあったので、解体を指示した。
解体は製作よりも早く終わり、曹昂達は鄴へと帰還した。
数日後。
鄴の城内にある一室で曹昂は国の地図を見ていた。
地図には河北と中原一帯を赤く色づけされていた。
涼州、荊州、益州、揚州は色付けされていなかったが、交州は黄色に色付けされていた。
この赤い色は曹操の勢力範囲を示しており、荊州、揚州は敵対勢力という事で色付けせず、敵か味方なのか分からない交州には黄色に色付けされていた。
「・・・・・・この国の殆どは父上の支配下に治まった。残る所は二つ、いや三つか」
益州は何もしなくても降伏すると予想できたので、残るは涼州と荊州と揚州の三つだと予想した。
「荊州と揚州は勿論だが、涼州も怪しいんだよな」
史実でも赤壁の戦いで、涼州の馬騰が都を狙っているという流言が飛び交っていた。
実際そんな事は無かったのだが、曹昂は馬騰が後顧の憂いになると思っていた。
「南征の前に馬騰を取り除くか、こちらに取り込みたいな」
問題はそれらの手段をどうするかであった。
暫し考えたが、良い案は浮かばなかった。
(陳留に戻ってから、落ち着いたら劉巴達に相談するか)
龐統も居るので、何か良い案が浮かぶだろうと思い、曹昂は地図を仕舞った。
其処に部屋の外に居る孫礼が入って来た。
「失礼します。殿、丞相からの使者が参り、これを」
孫礼が封に入った紙を掲げるので受け取ると、封を解き中に入っている紙を広げた。
「・・・・・・そうか。父上がそろそろ帰還するか」
一読するなり、丁薔にこの事を報告する為、部屋を出て行った。