実は初めて会う
司馬懿が部下となってから数日が経った。
優秀なのは確かだったようで、文句ない働きぶりをしていると報告を受けている。
曹昂としても推挙されるのだから、才はあるのは当然だと思い問題ないだろうと最初から思っていた。
(まぁ、元々司馬懿は簒奪するつもりは無く、孫の司馬炎が簒奪したから悪く言われているという話もあるからな)
そう思いつつも、きっかけがあれば変わるかも知れないと思いながら行動を見続けていた。
それから暫くして。
許昌を発った丁薔一行が鄴に間もなく到着するという報告が入った。
報告を聞くなり曹昂は直ぐに出迎えの準備を整えた。
東門に曹昂の他に孫礼と趙雲といった護衛する者達と兵が数十人程列をなしていた。
肌寒い風が吹く中で待つ事数刻。
護衛の兵に囲まれた馬車の一団が見えた。
(楽隊を用意した方が良かったかな? いや、其処まで大仰にしなくても良いか)
馬車の一団で先頭の一台が近づいて来るのを見つつそう思っていると、馬車の足が止まった。
それを見るなり曹昂は馬車へと歩き始めた。
馬車の箱の扉が開けられると、丁薔が出て来た。
「お久しぶりです。母上」
「子脩。元気そうね」
馬車から出て来た丁薔は近付き頭を下げる曹昂を見て微笑んでいた。
「はい。あまり顔を出す事が出来ず申し訳ないと思うのですが、職務がありましたので」
「朝廷の為に働いているのです。会いに来ないからと言って咎める事はしませんよ」
「はぁ、そう言って頂けると幸いです」
挨拶を交わした後、後ろに続く馬車の一団を見た。
「父上の側室の方々が居るのですか?」
「ええ、そうよ。そう言えば、貴方は秦郎と何晏に会った事が無いから後で挨拶しなさい」
丁薔にそう言われて、そう言えば顔を見た事が無いと思っていた。
これを機に顔を見てみる事にしようと決めた。
「では、母上。城内に案内しますので」
「ええ」
丁薔はそう返事をすると馬車に乗り込んだ。
曹昂は馬車の進路の邪魔をしないように退けつつ、連れて来た馬の所まで向かい鞍に跨り、趙雲達と共に馬車と並走した
城内にある一室。
鄴に居る家族が集まっていた。
其処で曹昂は秦郎と何晏を対面した。
「この子が秦郎ですか」
「はい。その通りです。隣に居るのは弟の秦明にございます」
母親の杜月が答えつつ、足元に居る秦郎を挨拶する様に促した。
「は、初めまして」
「初めまして」
人見知りするのか、たどたどしく挨拶する秦郎。
その隣で元気よく挨拶する秦明。
二人を見て可愛いなと思いつつも、内心である事を思っていた。
(この子達は何と言うか、地味だな)
秦郎と秦明を見て思った事は、二人共、目も鼻も顔立ちも何処を取っても特徴といえるものが無かった。それでいて、双子かと思えるぐらいに似ていた。
あまりに特徴が無いので、二人がどんな顔をしていたと言われても思い出す事が出来ない言えた。
秦郎を父と丕は重用したなと思いつつ、次の何晏を見た。
「お初にお目に掛かります。義兄上。何晏にございます」
如才なく挨拶してくる何晏。
切れ目で女性の様な細い顔立ち。上背があり足も長かった。
着ている衣装が派手に着飾っていた。
内心で派手だなと思いつつ、曹昂は話しかけた。
「父上はお主の事を見所があると言っていたぞ」
「そうですか。義父上にそう思われて頂くとは嬉しく思います」
「うむ。しかし、随分と華やかな服を着ているな」
飾り過ぎな服ではと思いつつ言うと、何晏はほくそ笑んだ。
「ふふ、義兄上。これでも地味な服を選んだのですよ。というよりも、義兄上は少々、飾りが無さすぎます」
何晏は自分の衣装と曹昂の衣装を見比べてからそう述べた。
(・・・・・・これは、わたしが着ている衣装は地味だと言いたいのか? それとも、もっと着飾っても良いのでは? と言っているのだろうか?)
聞き方によっては、ムッとするか助言と取れる言葉なので反応に困っていた。
とりあえず、笑みを浮かべるだけにしたが、曹丕はムッとした顔をしていた。
その後、鄴に来た事を祝って宴を開いた。
その翌日。
曹丕が曹昂の下に訪ねた。
「兄上。何故何晏に怒らなかったのです?」
「別段、怒る事では無いと思うが」
会うなり、曹丕が少し怒りながらそう述べた。
曹昂からしたら、あれは何晏なりの挨拶なのだろうと思い、気にしていなかった。
「養子の分際で、人が着ている服に文句をつけるなど無礼にもほどがありますっ」
「落ち着け。何晏は思った事を口に出すと言う裏表がない性格なのだろう」
「兄上。そんな甘い事を言っておりますと、あいつは調子に乗りますっ」
曹丕の癇癪を起すのを宥めつつ、この二人は相性が悪いなと思っていた。
(そう言えば、史実でも曹丕は何晏を嫌っていたと読んだ事があるな)
馬が合わないのは仕方がないと思いつつも、義理とは言え家族なのだから仲良くする様にと言うが、曹丕は受け入れがたいという顔をしていた。