河北は手に入ったので
鄴の政務に繁忙している曹昂の下に曹操からの文が届いた。
「兗州牧。丞相は何と?」
曹操の命令で鄴に残った崔琰が訊ねて来た。
「父上が高幹を討ち取ったそうだ」
「おお、それは良き知らせですな」
崔琰は顔を綻ばせていた。
これで、河北は袁家の支配から脱却できると思っているようだ。
「だが、并州の治安の改善と安定に時間が掛るので、鄴に戻って来るのはまだ先になるそうだ」
「ですが、これで河北は丞相の手中に収まったという事になるのです。喜ばしい事です」
「まぁ、それはそうだな」
「良い機会です。これを機に野に下った者達を勧誘し、配下に加えるのは如何でしょうか」
「悪くないな」
崔琰の話を聞いて、許昌に居る客人としている者を配下にするかと考えた。
呉の四姓で張家の張允。朱家の朱桓。陸家の陸績と陸遜。
今はまだ客人だが、これを機に配下に加えるのも良いなと思った。
(これを機に司馬懿を麾下に加えるか?)
兗州の統治を行うので、優れた人材が欲しかった。
だが、その中に司馬懿を加えてもいいものかと悩んでいた曹昂。
悩んでいる所に崔琰は声を掛けて来た。
「兗州牧。それとは別にご報告したき事があります」
「何か?」
「弟君の事です」
「弟?」
弟と言われて曹昂は誰だろうと思った。
今、鄴には曹丕、曹彰、曹植の三人がいた。
三人の内の誰かなのか。それとも三人の事を言っているのか分からず首を傾げていた。
「曹丕様の事にございます」
「丕が何か?」
「兗州牧の補佐として残されているというのに、政務の手伝いは殆どせず狩りに熱中しているそうです。兄君である兗州牧から一言申した方が良いと思います」
「ふ~む。そうは言うが、丕はまだ子供なのだから、狩りに夢中になっても仕方が無いと思うのだが」
「気晴らしに行くのは構いません。あまりに行き過ぎなのです。偶には兗州牧の手伝いをしても良いと思います。人伝に聞きましたが、兗州牧が鄴に居なかった時も、政務はおざなりで狩猟に熱中していたそうです」
その報告は初耳なのか、曹昂は苦笑いしていた。
「・・・・・・後でわたしから申しておきます」
「お願い致します。兗州牧がいなければ、わたしが文を送るだけでしたが、兄君であられる州牧が言うのが道理にございますからな」
崔琰に頭を下げて頼まれたので、後で言っておこうと考えていると、ある事を思い出した。
(ああ、そう言えば。父上から文が来たら母上達を呼ぶ様に頼まれたな)
政務が終わった後、頼まれた事を片付けないとなと思いながら政務を行った。
政務に励んでいた曹昂の下にある報告が齎された。
「申し上げます。ご命令で言われた人物を見つけました」
「そうか。良し、此処に連れて参れ」
「はっ」
部下は一礼しその場を離れて行った。
部屋には曹昂だけになると呟いた。
「これで武官が一人手に入ったな。田疇の方は趙雲に任せれば良いとして」
後文官が欲しいなと思いつつ、誰か居たかなと思いだしていた。