己がした報いを受けろ
城の包囲を始めてから数日が経った。
完全に包囲された事で壺関県に籠る高幹軍の兵達は、どうせ死ぬのであればと思い死に物狂いで戦っていた。
必死の抵抗により、曹操軍の兵の被害も日増しに増えて行った。
その為か、部将達は包囲を緩めないかと進言したが。
「敵は逃げる事も出来ない哀れな鼠にすぎん。多少の損害が出ようとも構わず攻めよ」
「しかし、丞相。窮鼠狸を齧みという言葉もありますぞ」
「そう、心配するな。もう少ししたら、城は落とす事が出来るのだから」
曹操の言葉を聞いて家臣達は引き下がった。
家臣達が下がる中で、郭嘉だけはその場に残っていた。
「郭嘉。呂曠と呂翔の二人に文を送れ。今夜、城門を開けるようにと」
「承知しました」
「それと、今夜夜襲を仕掛けると皆に伝えよ」
「はっ」
その日の夜。
壺関県内にある厩舎。
騎兵が使う馬や畑を耕す牛などが暮らしていた。
夜なので、家畜達も寝静まっていた。
家畜達の寝息だけが聞こえる厩舎に誰かが入って来た。
厩番が家畜の様子を見に来たのかと思われたが、違っていた。
何故ならば、その者は鎧を纏っていたからだ。
「・・・・・・」
その者は曹操に寝返った呂曠であった。
呂曠の手には火打石ともぐさ持っていた。
藁が置かれている所に行くと、火打石を何度も擦り火を生み出していた。
やがて、もぐさに火が着くと藁に置いた。
藁に火が着くと、呂曠は家畜達が入っている房の柵を解き厩舎を後にした。
火は徐々にだが燃え広がって行き、厩舎を火に包んだ。
火の熱さと煙により、家畜達は目を覚ました。
家畜達は自分達がいる房から出て、そのまま厩舎から逃げ出した。
家畜達の悲鳴を聞いて、厩舎に火が着いてる事に気付く兵達。
「火事だ⁉」
「誰か水を持ってこいっ」
厩舎から逃げ出した家畜達が暴れる中で兵達は消火に取り掛かった。
そんな中で、呂曠の配下の兵達は大声をあげた。
「敵が侵入したぞっ」
「武器を取れ‼ 敵を殺せ‼」
消火作業の中でそう聞こえた為、兵達は消火か敵兵を探すかどちらにすべきか分からず混乱していた。
同じ頃。壺関県の南門。
其処は呂翔が居た。
城内から火が見え「敵が侵入した!」という声が響いていた。
その声が合図と知っていた呂翔は部下達に命じた。
「門を開けろ! 城外の者を中に入れるのだ!」
その命令に従い兵達は城門を開けた。
城門が開けられると、南門を攻撃していた夏侯淵が命じた。
「門が開いたぞ! 進め!」
夏侯淵の命令に従い兵達は喊声をあげて城に突撃した。
夏侯淵の部隊が城門に入ると、続いて別の部隊も城内に突入していった。
高幹の下に厩舎が燃えるという報告と共に城門が開かれたという報告が持たらされた。
「誰が城門を開けたのだ!」
「呂翔将軍が門を開けて、敵を引き込んだとの事です」
「な、なんだと‼」
報告を訊いた高幹は身体をわなわなと震わせた。
「報告‼ 呂曠将軍が西門を開門‼ 城外の敵を引き込んでおりますっ」
「ぐ、ぐううう、あやつら‼ わたしの信頼を裏切りおってっ」
最初、呂曠と呂翔の二人を迎える前、家臣達は反対していた。
皆口々に裏切り者を信頼しては危険だと言っていた。
高幹は曹操を裏切ってまで、自分の下に来た二人を見捨てては誰も付いて来なくなると言い、家臣達の進言を退けた。
「おのれ、この手でその首を刎ねてくれる!」
「殿、最早無理です」
「南門と西門は落ち、城内は敵が満ち北門と東門にも敵が迫っており逃げ出す事ができません」
「ぬ、ぬぐうううう」
唸り声を上げるしか出来なかった高幹。
其処に別の兵が報告に駆け込んで来た。
「報告‼ 呂曠と呂翔の両将軍がもう近くまで来ましたっ」
「もうかっ。くそっ。此処には兵はどれだけいる⁉」
高幹はもうすぐそこまで敵が迫っていると聞いて、兵の数を聞いた。
「兵の多くは城内の各所に散っており、今此処に居るのは数十人しかおりません」
「・・・・・・最早、此処までか」
高幹はこの場に居る兵に暫く防ぐように命じた後、自分の家族がいる下に向かった。
家族の下に行くと、最早逃げる事が出来ないと家族に告げた後、腰に佩いている剣を抜き家族に手を掛けて行った。
涙を流しながら剣を振るい、血だまりの中。立っているのが高幹一人だけになると自分の首に剣を当てて首を斬った。
暫くすると、呂曠と呂翔が配下の兵と共に高幹が居る部屋に辿り着くと、高幹達の死体を見つけると、曹操に報告に走らせた。
報告を訊いた曹操は高幹の家族の首を晒し首にしろと命じると、高幹の首は暫しの間晒し首にされた。