正に袋の鼠
鄴を出陣した曹操軍は北上し続けると、太行山が見えた。
沮授や郭嘉の二人は峻険だが、この山を越えないとかなり遠回りになるので登るべしと進言した。
その進言を聞いて太行山を登る事となった。
いざ、登ってみると坂は曲がりくねっており進むのを困難にしていた。
車の車輪などが曲がり切れずぶつかっていた。
山に登る行軍を見た曹操は何か思いついた顔をしていた。
(太行山に登り・・・・・・う~ん、駄目だな。何か足りないな・・・・・・)
行軍風景を見て詩に出来ないかと思ったが、何か足りなくて出来なかった。
どれだけ唸っても良い詩が思い浮かばなかった。
余談だが、帰りもこの山を通って帰ったのだが、季節が冬になろうとしていた為、寒さで行軍の足が遅遅として進まなかった。
それを見て『苦寒行』が出来たのであった。
峻険な山道を越えた曹操軍は太原郡に入った。李典達へ使者を放ち、西進し慮虒県、陽曲県、盂県を落した。
その後、狼孟県を落した所で李典達が送って来た使者が来た。
後数日で合流出来るという報告を訊き、その県に暫し留まる事にした。
五日後。
李典と楽進率いる二万の兵が狼孟県に到着した。
曹操は李典達が率いる軍を自軍に再編成し、狼孟県を後にした。
狼孟県を後にした曹操軍は順調に南進を続けた。
進路途中の県を落していくのを見て高幹は軍議の席で。
「敵は我らが籠城すると思い込んでいるだろう。此処は、奇襲を仕掛けてみるのは?」
そう提案すると、呂曠と呂翔が首を振った。
「無用。敵は遠征軍です。この城まで引きずり込んで疲れさせるべきです」
「そうです。それに戦が長引けば、劉表や孫権が考えを改めて我らに助力するかもしれません」
と言うので奇襲を止める事となった。
高幹が奇襲を止めると聞いて、呂曠と呂翔の二人はほくそ笑んでいた。
数十日後。
曹操軍は高幹が籠る壺関県に到着した。
「ふむ。中々の城だな」
「近くに河が流れておりますし、山もあります。普通に攻めれば落すのは難しいでしょうな」
「普通であればな」
城を見た曹操と郭嘉はそう話した後、ニヤリと笑っていた。
「呂曠と呂翔の二人には文を送ったか?」
「はっ。既に。返事は貰っております。何時でも城門を開ける準備は出来ていると」
「そうか。全軍に、城を完全に包囲する様に伝えよ。鼠一匹も逃げる事が出来ない様になっ」
「承知しました」
曹操の命令を伝達する為に、郭嘉は一礼してその場を離れて行った。
程なく城の四方を完全に包囲された。
誰も逃げる事は出来ない程の包囲を見ていると、曹仁が話しかけて来た。
「丞相。城を完全に包囲したら、敵は死に物狂いで戦う事になりますよ」
「はっはは、曹仁。その様な事はお主に言われなくても分かっておる。なに、わたしに任せておくが良い」
曹操が自信満々に言うので曹仁は何も言わず、一礼して離れて行った。
「・・・・・・あいつも一端の将になったのだな」
自分に進言する従弟を見て感慨深そうに呟くのであった。
内心で、昔はあんなに荒れていたのにと思いながら曹仁を見送るのであった。