良きにはからえ
曹操の推薦により、兗州州牧に選ばれた曹昂の下に人がやって来た。
「天師教の使者と聞いたが、何用か?」
前々から何かと援助してくれている天師教の者が来るので、何か有ったかと思いつつ訊ねた。
「この度は兗州州牧の就任した事にお喜び申し上げます」
「もう聞いたのか。耳が早いな」
黄巾の乱の時も朝廷に黄巾党の信者がいたのだから、天師教の信者が居てもおかしくなかった。
その信者から兗州州牧の就任の報告を訊いたのだろう直ぐに分かった。
「そのお祝いではありませんが。前々から言われていた益州で劉璋に仕えていた者達の中に子脩様の申し出に応える者達の名簿を持って参りました」
天師教の使者はそう言って懐から一枚の紙を取り出した。
その紙を見た曹昂は傍にいる趙儼に目で持ってくるように指示した。
趙儼は一礼した後、使者から文を受け取り曹昂に渡した。
「さて、どんな者が応じたのかな?」
曹昂は楽しそうに呟きながら文を広げた。
龐羲。
鄧芝伯苗。
張粛君矯。
張松子喬。
鄭度。
鄧賢。
孟達子敬。
彭羕永言。
法正孝直。
張裔君嗣。
「おお、思っていたよりも多いな」
何人か、誰この人?と思う者は居たが、殆ど前世の知識の中にある名前ばかりであった。
「今の所は、その名簿に書かれている者達だけですが。もう少しお時間頂ければ、増やす事が出来ると思います」
「いや、これだけでも十分だ。確認だが、この者達は声を掛けたら、朝廷に来るのだな?」
「はい。本人達の意思を確認したので、間違いなく来ます」
確認をすると、力強く返事をしてきた。
これなら大丈夫だと判断できた。
「では、鄴に来るように手配を。方法はそちらにお任せする」
「はっ。お任せを。師君様も必ず要望に応えると申しておりました」
使者がそう言うのを聞いた曹昂は気になって訊ねた。
「そう言えば、盧夫人はお元気か?」
張魯が漢中郡で独立を果たした際、怒った劉璋が張魯の弟を捕まえて処刑したが、その時盧夫人だけは逃げる事が出来たので、どうなっているのかなと思い訊ねた。
「はっ。御母堂様も変わりなく。それと、子脩様に会えた時は『あの時の助言で助かりました』と伝えて欲しいと言われました」
漢中に居た頃は世話になったのでそのお礼に教えただけなので、其処まで有り難がらなくてもいいのに曹昂は思いつつ答えた。
「まぁ、世話になったからお礼をしただけだ」
「師君様も感謝すると申しておりました」
使者は曹昂に感謝しながらその場を後にした。
同じ頃。
城内にある一室。
曹操は郭嘉と話し合っていた。
「高幹の下に呂曠と呂翔の二人を送るだと?」
「はい。并州は順調に制圧しておりますが、高幹が壺関県に籠っております。この地は要害だそうです。其処を落すにしても時間と兵を消耗するでしょう」
「そうだな。それで二人を送ると?」
「はい。埋伏の計にございます」
「ふむ。呂曠達は応じるかもしれんが、高幹は二人を受け入れるか?」
袁尚に仕えていたが、辛毗の説得により袁譚に仕えた後、曹操に仕えるという呂布顔負けの不忠を働いている呂曠達は家中から裏切り者という目で見られていた。
それを払拭する為には功績を立てるしかなかった。
なので、二人は曹操が命じれば応じるだろう。
「高幹は応じると思います。何せ、方々に使者を放っても断られているのです。今は誰でも味方になる者が欲しいと思っている筈です。二人を送りこみ、時が来たら城門を開けさせるのです」
「分かった。お主に任せる」
「はっ」
曹操から一任された郭嘉は一礼した後、呂曠達に伝える為その場を離れた。