来なくても良かったかも
曹丕の命を受けた荀衍が中心となり籠城の準備が行われてから三日後。
付近の偵察に出していた騎兵が、不審な武装集団を発見したと報告した。
その集団は旗は掲げていなかったが少なく見積もっても数千以上おり、山賊や盗賊などに比べて武具などが整っているとも告げていた。
兵の報告を訊いた荀衍は直ぐに高幹が差し向けた軍だという事を察した。
荀衍は直ぐに兵に守りを固める様に命じた。
城壁に多くの兵が詰め、矢と石を大量に用意されていた。
声をあげて向かって来る敵兵を威嚇していた。
「ぬうっ、気付かれたかっ⁈」
鄴の守備隊の喊声を聞いて、その軍を指揮する部将は奇襲に失敗したと悟った。
「だとしても、このままおめおめと逃げられん‼ 全軍攻撃開始‼」
部将は指揮する軍に攻撃を命じた。
兵達は喊声をあげて鄴の西門へと突撃した。
手には梯子、弓、槍などを持ちながら突撃するが、城壁から放たれる矢が突き刺さり大地に倒れていった。
多数の犠牲を出しながらも、兵達は城壁に着くと梯子を掛けて登って行った。
城壁を上がる兵とは別に、衝車の代わりなのか木材で作られた槌を数人がかりで持って城門に攻撃もしていた。
衝車では進軍の足が遅くなる為、木材で作った槌で用意された様だ。
「城門を守れっ。矢を放てっ、石を落せっ」
荀衍は城門を攻撃されているのを見て兵達に石を落すように指示した。
命を受けた兵が城門を攻撃している者達に矢を放ち石を落すが、敵軍の兵達は倒れても代わりに誰かが槌を持って城門を攻撃し続けていた。
槌が門を叩く度に、轟音と共に城壁全体が揺さぶられている。
門扉も穴が開きそうであった。
「荀校尉。このままでは城門がっ」
「分かっておる! 騎兵部隊の出撃準備は⁉」
「間もなく整うそうです!」
荀衍と部下は喊声と轟音で掻き消されない程の大声で話し合っていた。
其処に別の兵が駆け込んで来た。
「申し上げます! 騎兵部隊の出撃準備が整いました!」
「良し‼ 南門から騎兵部隊を出陣させよ‼ 敵軍を横撃せよ‼」
「はっ!」
荀衍がそう命じると、報告しに来た兵はその命を伝えるべく駆けて行った。
暫くすると、南門から騎兵部隊が出陣し西門を攻撃する敵軍に突撃した。
攻城しているさなかに騎兵部隊の突撃を受けて、敵軍は混乱状態となった。
梯子を登っていた兵も慌てて迎撃に走った。
「西門だけを攻撃しているからこうなったのだ。馬鹿め」
混乱している敵軍を見て毒づく荀衍。
やがて、城壁の揺れが収まった。
城門の方を見ると、槌が地面に置かれているのが見えた。
騎兵部隊が突撃してくるのを見て城門を攻撃している兵達は慌てて、城門の攻撃を止めて騎兵の迎撃に向かった様だ。
敵軍の部将が命じた訳では無い。というよりも、部将は騎兵部隊の対応で精一杯でそんな命令を出せなかったと言うのが正しかった。
「今が好機ぞ! 全軍、討って出よ!」
荀衍が攻撃を命じると、城壁に居た兵達は喊声をあげて城門へと向かい、門を開けると敵軍に向かって行った。
騎兵部隊の対応で手が一杯な所に城内に居る兵からの攻撃を受けた敵軍は瓦解した。
指揮していた部将などは討ち取られ、残った兵も討ち取られるか捕縛されるかのどちらかであった。
そして、戦闘が終わると兵達は略奪を始めだした。
倒れている敵軍の兵達が持っている武具、貨幣、物などを容赦なく奪っていく。
着ている服を残して全て奪われた敵兵の屍は後で埋める為か、適当に放置されていった。
略奪を終えた兵達は手にした戦利品を見せ合い笑っていた。
そんな兵達が楽しんでいる所に、軍勢が近づいて来た。
その軍の先頭に居る者が兵達が略奪しているのを見て零した。
「あれ? もう終わっている? てっきり、まだ戦闘が続いていると思ったが」
そう零したのは曹昂であった。
略奪をしていた兵達は曹昂の後ろにいる軍勢が曹の字の旗を掲げているのを見て歓声をあげて迎えてくれた。