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汾水の戦い

後退する郭援軍は平陽県へと進軍していた。

 急ぎはするが、兵馬は疲れない様に適度に休憩を挟みながら進んでいく郭援軍。

 やがて、汾水へと至ったのだが、対岸には馬と鍾の字が書かれた旗を掲げられていた。

「なっ、なんだと‼」

 対岸に見える旗を見て郭援は信じられないとばかりに叫んだ。

 見間違いではないのかと、目を擦ってみたが旗が消える訳では無かった。

 これでは平陽に戻る事が出来ないと分かり、郭援は直ぐに配下の者達を軍議を開くので集まる様に命を下した。

 

 配下の武将達が本陣に集まると、郭援は声高に叫んだ。

「このまま睨み合っていては勝つ事も出来ん。それどころか、反乱を起こした殿の知人達が鎮圧されてしまい、敵が援軍として来るかもしれん。早々に勝負を着けるべきであろう‼」

 郭援の発言を聞いて、側近で参謀でもある祝奥は、もしかしてという顔をしつつ訊ねた。

「それは、渡河して敵軍を攻撃するという事ですか?」

「そうだ‼ 密偵の報告では敵は二万程しか居ないと聞いている。我が軍は三万。数に任せて攻めれば勝てるっ」

 郭援は勝利間違いなしとばかりにいうが、他の者達はと言うと。

「それは無謀にございますっ」

「数は我らが多いですが。渡河の最中に攻撃されれば、数の多さなど関係なくなります」

「此処は呼廚泉に援軍を送る様に使者を向かわせるべきです」

 と言い、皆攻撃は止めるように進言して来た。

「馬鹿者‼ そもそも絳邑県を落す事が出来なかったのは呼廚泉が援軍として来なかったから落す事が出来なかったのだぞっ。今も援軍に来る気配を見せぬ奴に頼る事が出来るか!」

「そうかも知れませんが。流石に渡河するのは」

「敵の総大将の鍾繇は我が叔父ぞ。叔父上の事はわたしが一番分かっている。だからこそ、攻撃すべきだと言っているのだ!」

 その後、祝奥を含めた配下の武将達は渡河は止めようと諫めたが郭援は聞き入れる事は無かった。


 翌日。

 郭援軍は昨日の内に、探して見つけた汾水の浅瀬を渡り始めた。

 その様子を対岸に居る鍾繇と馬超の二人は見ていた。

「敵軍が近くにいるのに渡河するとは、敵は何を考えているのだ?」

「恐らく、我らを侮っているのでしょう」

 敵軍が渡河しているとう報を聞いて馬超は敵の意図が分からなかったが、鍾繇はポツリと零した。

「甥の郭援は強情で無鉄砲な所がありまして、恐らく我が軍が自軍よりも少ない事と、わたしが兵を率いている事に侮ってるのでしょう」

「いや、しかし侮るにしてもこれは」

 馬超からしたら河を渡る時は兵を進ませる時で尤も慎重にしなければならない事だと知っているからだ。

 何故ならば、渡河している最中に攻撃を受ければ陣形を取る事も出来ず防ぐ手立てが無かった。

「孟起殿。敵軍の半分が渡った所で攻撃する様に兵に伝えて下され」

「承知した。だが、良いのか?」

 馬超は鍾繇に確認を取った。

 敵軍を率いるのは甥である以上、誰かが殺すかも知れないので、攻撃しても良いのかという意味で訊ねた様だ。

「・・・甥は、いえ郭援は朝廷に逆らう逆賊に与する者です。敵にございます」

「・・・承知した」

 鍾繇の口から郭援は敵という言質を取った馬超は気兼ねなく攻撃する事が出来ると思い、命令を伝える為に駆けた。

 命令が兵達に伝わった時、郭援軍の半分が河を渡り切った所で、馬超が槍を掲げた。

「攻撃せよ‼」

 その一言で兵達は矢を番えて放った。

 弧を描きながら雨の様に降り注ぐ矢は渡河を終えた郭援軍を襲った。

 矢を防ぐ事が出来ず、多くの兵が悲鳴と共に倒れて行く。

「わたしに続け‼ 敵軍を一掃するぞ!」

 馬超が駆け出すと、兵達もその後に続き矢の攻撃を受けた郭援軍に襲い掛かった。

 渡河を終えた自軍が襲われるのを見た、まだ渡河していない郭援軍は慌てて渡河するか、別の浅瀬から渡河しだした。

 勿論、その渡河する所にも兵が置かれていた。

「突撃せよ‼ 敵に我ら涼州兵の力を見せつけよ!」

 龐徳は率いる兵を鼓舞しつつ突撃した。

 汾水にて両軍が激突した。兵数はそれほど差は無い為か直ぐに乱戦となった。

 

 河では両軍の兵がぶつかりあい命を取り合いをしていた。

 敗れた者は河に倒れ赤い血を流し河を赤くしていった。

 乱戦なので互いに兵は相手を倒しても、別の者に襲われ倒れるという事の繰り返しであった。

 両軍が入り乱れる中で馬超は郭援の側近で参謀の祝奥を見つけると、勝負を挑んだが一突きで終わってしまった。

「ぐあっ」

「たわいもない。敵将祝奥を討ち取ったぞ!」

 胸を突かれた祝奥は馬上から落ちて河に着ちた後、動かない事を確認した後宣言した。

 その宣言を聞いて自軍の兵は歓声をあげた。

「くそっ、これでも喰らえっ」

 郭援軍の兵の士気は落ちたが、その兵の一人が怒りに任せて矢を番えて馬超に向けて放った。

 放たれた矢は馬超の足に命中した。

「むっ」

「ああ、将軍‼」

 矢が刺さった馬超を見て兵達は馬超の側に来た。

「大事ない。この程度」

 そう言った馬超は弓袋を取り出した。

 そして、足に刺さった矢を抜き取り出した弓袋に包んだ。

「これでよい。敵は怯んでるぞ! この勢いに乗って攻めよ!」

『おおおおおっっっ』

 馬超が手当てをして鼓舞すると、兵達は喊声をあげて郭援軍の兵に襲い掛かった。

 馬超も先頭を駆けていき、敵兵を薙ぎ倒していく。

 その勇猛に押されてか、郭援軍は押され始めた。

 郭援軍が押され始めたのを見て、龐徳は兵と共に敵軍へ深く切り込んでいった。

 そうして、進み続けていくと敵将の郭援を見つけた。

「其処に居るのは敵総大将の郭援と見たっ。この龐令明と勝負っ」

「ぬうっ、涼州の田舎者が。わたしに勝てると思っているのか?」

 龐徳と郭援は馬を駆けさせて、干戈を交えた。

 郭援も一軍を預かるだけはあって武勇はあった。

 噂では顔良と文醜にも負けない程の武勇を持っていると言われていた。

 だが、それでも龐徳には劣っていた。

 最初は互角に刃を交えていたが、徐々に郭援が押され始めた。

「そらあああっ」

 龐徳の横薙ぎ一閃が郭援の首へと放たれたが、郭援は乗っている馬の腹を蹴り、膝を曲げる様に命じた。

 馬は命令に従い膝を曲げた。

 そのお陰で龐徳の一撃は郭援の首ではなく兜に当たった。

 攻撃を受けた兜は飛ばされ、ついでに髷も斬り落とされた。

「おのれっ」

 髷を切り飛ばされた郭援は怒って得物を振るうが、龐徳は簡単に防いでいた。

「その程度か。この程度の力量では、涼州では生き残る事も出来んわっ」

 攻撃を防いでいた龐徳は郭援の得物を弾き飛ばした後、首に一撃を見舞った。

 今度の攻撃は首に当たり、郭援の首を斬り飛ばした。

「・・・敵総大将郭援はこの龐令明が討ち取ったぞ!」

 龐徳が名乗り上げると、勝敗は決した。

 自軍の兵は歓声をあげて喜び、郭援軍の兵達は衝撃を受けているか逃げ出すか分かれた。

「敵を逃がすな! 追撃せよ‼ 一人も逃がすなっ」

 龐徳が命ずると、自軍の兵達は喊声をあげて郭援軍の兵達を追い駆けて捕縛するか斬り殺していった。

 兵達が追撃している中、龐徳は斬り飛ばした郭援の首を探していた。

「確か、此処だと思ったが。おお、此処だ」

 少し探すと郭援の首を見つけたが、髷が斬り落とされており鞍に結ぶ程なかった。

 仕方がないので龐徳は弓袋に郭援の首の入れて追撃に加わった。

 

 数刻後。

 郭援軍は壊滅した。

 鍾繇と馬超は勝鬨をあげた。

 そして、敵の捕虜と共に陣地に戻った。

 陣地にて論功行賞が行われた。

 馬超が祝奥の首を見せた後、龐徳が持っている弓袋から郭援の首を取り出した。

「敵の総大将の郭援の首にございます。ご見分を」

 龐徳がそう言った後、その場に集まった者達は鍾繇を見た。

「・・・・・・お、おおおおおぉぉぉぉぉぉ‼」

 鍾繇は暫く郭援の首を見た後、人目も憚らず大泣きしだした。

 大泣きする鍾繇を見て龐徳は訳が分からなかったが、馬超がそっと龐徳に近付き郭援と鍾繇の関係を教えた。

 教えられた龐徳は顔を青くした後、その場で額づいた。

「どうか、お許しを」

 龐徳が謝罪すると、鍾繇は袖で涙を拭い答えた。

「貴殿が謝罪する必要はない。郭援は我が甥ではあるが、逆賊だ。討たれて仕方がないのだ」

 鍾繇の答えを聞いて龐徳は許されたと思い安堵した。

 鍾繇も覚悟はしていた様だが、郭援の首を見て思わず涙を止める事が出来なかった様であった。

 その後、戦後処理をした後、未だに反乱を起こしている者達の鎮圧に取り掛かった。

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― 新着の感想 ―
[一言] ヴァモーキが気を使える人や…(失礼 このままホウ徳と仲違いにならずに曹昂配下に来てくれ~恩赦・許したとはいえ、馬一族と曹操パッパでは気まずいだろうからw
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