流石に連れて来て良いのか?
鄴の占領が完了した曹昂は直ぐに許昌に居る父へ文を送った。
それが終わると、鄴の内政に取り掛かった。
「城内にいる民達の反応は?」
「皆、怯えている様です。後、義勇兵の者達に不満が渦巻いているとの事です」
「不満?」
曹昂が訊ねると、趙儼が頷いた。
「鄴を落したと言うのに、略奪を禁じられた為、何の褒美も無い事に憤っているそうです」
側にいる趙儼の報告を訊いて曹昂は息を吐いた。
「この地で略奪をすれば、後で恨まれると思うが?」
曹昂は義勇兵が故郷で略奪したい理由が分からず首を傾げていた。
「例え、恨まれたとしても自分の生活を潤えば良いと思う者が居るのでしょう。まして、城内に居る民は全て袁尚軍の兵の家族という事で、追い出される事を免れた者達です。義勇兵達からしたら恨みを抱いても仕方がないでしょうな」
趙儼の推察を聞いて曹昂は納得する事が出来た。
「であれば、どうするべきだと思う?」
「義勇兵を解散させて城内に戻せば、住んでいた者達と諍いを起こす事でしょう。正式に我が軍の兵と編制するのです」
「傷が深い者はどうする? 報告では数千人はいると聞いているが?」
「傷が浅い者は治療して連れて行けばいいでしょう。戦場に連れて行けない程の傷を負った者は金を渡して城に戻しても良いと思います」
「それが良いか」
城内に戻して争いの火種になるのであれば、連れて行った方が良いかと判断する曹昂。
「そっちはそれで良いとしよう。袁煕と高幹には文を送ったか?」
「はっ。使者は既に発ちました。袁煕達は大人しく降伏するでしょうか?」
鄴を落した曹昂は内政をしつつ、袁煕達に使者を送っていた。
使者には降伏すれば命と地位は保証するという文を持たせていた。
その返答次第で、今後の方針が決まると言えた。
「冀州が我らの手に落ちた以上、袁煕と高幹も身の振り方を考えるだろう」
「素直に降伏すれば良し。しなければ」
「その時は攻めるだけだ」
曹昂の答えを聞いて趙儼は頷いていた。
義勇兵の問題を片付けた後は、戦で破壊された城内の建設や袁尚軍の兵達で死んだ者達の遺族に布や当座の生活に困らない様に施しや、畑の開墾を兵に命じた行わせる等を行った。
袁尚ではしなかった事をするので、鄴内の民達から曹昂の評判は右肩上がりとなった。
曹昂が精力的に活動していると、亡き袁紹が政務を行う為の政庁にある一室にてある文箱を見つけられた。
その文箱を見つけるなり曹昂は直ぐに持ってくるように命じた。
持って来られた文箱が目の前に来ると、曹昂は蓋を開けて中を見ると幾つも書簡が入っていた。
幾つかの書簡を手に取り中を確認した曹昂は直ぐに書簡を文箱に戻して、文箱に錠を掛けた。
「この文箱の中身に関しては、父上に相談してから決めるとしよう」
曹昂はそう言って文箱の錠を開ける為の鍵は紐を通して自分の懐に入れた。
錠が掛かった文箱は倉庫に運ばれていった。
数日後。
政務を行っている曹昂の下に文が届いた。
「ふむ。父上が来るか」
文には曹操が兵と共に鄴に来ると書かれていた。
何の目的で来たのか分からず、曹昂は分からなかったがとりあえず出迎えの準備をしないとなと思いつつ、部下達に命じた。
それから更に十数日後。
曹操率いる十万の兵が鄴に到達した。
南門にて出迎える曹昂達。
楽隊が鳴らす音楽が鳴り響く中、曹昂達は歓声をあげていた。
歓声を聞きながら進む一台の馬車。
その馬車を見て、曹昂が近づいていく。
馬車が足を止めると、馬車から曹操が降りて来た。
と同時に曹操の子供で曹昂の異母弟に当たる曹丕、曹彰、曹植の三人も一緒に降りて来た。
「父上。お待ちしておりました」
「うむ。よくぞ、我が期待に応え鄴を落した。見事だ」
「有り難きお言葉。ところで」
曹操と話していた曹昂は曹操の後ろに居る曹丕達を見た。
「丕達が居るのは何故でしょうか?」
「うむ。そろそろ、こ奴らにも戦場という者を経験させた方が良いと思ってな。連れて来たのだ」
「はぁ、丕は分かります。彰と植は少々早いと思います」
彰はまだ良いが、植は早すぎると思う曹昂。
と話していると、少し遅れて卞蓮も馬車から降りて来た。
「これは卞夫人。此度も付いて来たのですね」
「ええ、旦那様の世話は他の者には大変でしょうから」
卞蓮はチラリと曹操を見ながら告げた。
それを聞いた曹昂は内心でお目付け役かと思った。
「そうでしたか。しかし、卞夫人。彰と植を連れて来るのは早いと思うのですが」
「その内、経験するのだから早い方が良いと思って旦那様に無理を言って連れて来て貰ったのよ」
「はぁ、しかし戦場に出るのですから、命の保証は出来ませんよ」
「最前線に出なければ大丈夫よ」
卞蓮は大丈夫だと言わんばかりに笑っていた。
(・・・・・・まぁ、親が認めているのなら良いか)
曹昂は溜め息を吐いた後、両親公認ならこれ以上言っても無駄だと判断し口を閉ざした。