流石に哀れだ
袁尚が城を出て呂布達に襲われている頃。
袁尚の命令で審配が城に残り指揮を執っていた。
城に残っている兵達は疲労が溜まっている上に、袁尚が居ないという事で士気が落ちていた。
中には抵抗を止めて降伏する者達も居た。
そんな中でも審配は懸命に指揮を執り続けた。
だが、奮戦むなしく城内全て占領されてしまった。
数刻後。
城内の至る所で戦いの後始末が行われていた。
そんな城の中にある大広間にて、曹昂は審配と対面していた。
大広間にある上座に座る曹昂は目の前で跪いてる審配を見ていた。
(・・・勝手に処刑しても良いのかな? 多分、降伏する様に言っても聞かないだろうしな)
そこの所は如何なのだろうと思いつつ曹昂は傍にいる劉巴を見た。
「父上の承諾なしに処刑しても良いと思うか?」
「大丈夫でしょう。遠征軍の指揮を執っているのは殿なのですから、殿が処刑を命じても丞相も御咎めはしないでしょう」
「そうか。ならば、問題ないか」
劉巴の話を聞いた曹昂は頷いた後、審配を見た。
「審配殿。貴殿の働きは比類なき働きであった。貴殿ほどの才があれば、我が父の下に来ても十分な働きが出来るであろう」
曹昂は降伏すれば命は助け曹操の臣下として迎えると言うが、審配は笑っていた。
「忠臣は二君に仕えず。袁家の臣として仕えた以上、袁家の臣として死ぬだけの事だ。其処に居る張郃や高覧の様に阿諛追従する輩と同じ扱いを受ける等、穢らわしい事この上無し。疾くこの首を刎ねるが良い」
審配は毅然と答えたが、その言葉を聞いて張郃達は頭に血がのぼっていた。
二人が今すぐにでも斬り掛かる怒気を発しているのを見て、曹昂はこれ以上の説得は無理だなと判断した。
「分かった。では、外に連れ出して首を斬れ」
曹昂がそう命じると、審配の後ろに控えていた兵達が審配を無理矢理立たせて、刑場に連れて行こうとした。
其処に別の兵が駆け込んで来た。
「申し上げます。ただいま、呂将軍と張将軍がお戻りになりました」
「そうか。通せ」
兵の報告を訊いた曹昂は直ぐに通すように命じた。
兵が一礼しその場を離れると、少しすると呂布と張燕が共に部屋に入っていた。
呂布の手には血塗れの白い布に包まれた何かを持っていた。
「ただいま戻りました」
「鄴攻略が出来ました事、誠におめでとうございます」
「これも全て、この場に居る将軍達の働きのお陰だ。して、命令した事は果たしたのか?」
「はっ。此処に」
曹昂の問いかけに、呂布が手に持っている包みを掲げた。
掲げた後、その包みを床に置き結びを解いた。
解かれると、布の中から袁尚の首が出て来た。
目が見開き苦痛に歪んだ顔をし、口から血が零れていた。
「張郃殿や高覧殿。この首は間違いなく袁尚顕甫の首であろうか?」
まさか影武者という事はないだろうなと思いつつ曹昂は張郃達に確認をさせた。
張郃達は確認の為に袁尚の生首の下へと向かう。
「・・・・・・間違いない。袁尚の首だ」
「城から逃げたと聞いたが、まさか討ち取られているとはな」
張郃達が本物の袁尚の首だと言うので、曹昂は安堵していた。
「なっ、そ、そんな馬鹿なっ」
張郃達の言葉を聞いた審配はその首を確認しようと前に出ようとしたが。
「勝手に動くなっ」
「暴れるなっ。大人しくしろっ」
「ええい、離せ。殿の、袁尚様の首かどうかを確認しなければっ」
審配を連れて行こうとした兵達に取り押さえられて、審配は袁尚の首の下まで行けなかった。
「・・・情だ。見せてやれ」
「「はっ」」
哀れに思ったのか曹昂は兵達に命じると、審配は袁尚の首の下まで向かった。
そして、その首をじっくりと見た。
「・・・・・・ぉぉぉおおおおおっっっ、殿、何と言う御姿に!」
袁尚の首だと分かった審配は泣き叫びながら四つん這いになり、握り拳を作り床を叩いていた。
袁尚を殺され、自分が生き残っている事に激しく後悔している様であった。
「・・・早く刑場に連れて行け」
「「はっ」」」
曹昂は兵達に審配を連れて行くように命じると、兵達は審配の両脇に手を入れて無理矢理立たせて連れて行く。
「待て! わたしを殺すのは構わない。だが、せめて、殿の首を手厚く葬らせよっ」
「申し訳ないが、袁尚の首は暫くの間晒し首にするので、葬るのはこちらでやらせて貰う。貴殿は大人しく刑場に行くが良い」
「お、おのれええええっっっ」
審配の願いを却下する曹昂。
審配は抵抗するが、兵達に引きずられて行った。
そのまま刑場に着くと斬首され、袁尚の首と並べて晒し首となった。