攻略の前に
鄴を完全に包囲した曹昂軍は軍議を開いた。
上座に座る曹昂が軍議の場に集まった者達を見て、凄い顔ぶれだと思っていた。
(まぁ、色々と頑張ったからな。苦労したけど・・・)
改めて頑張ったなぁと思い頷く曹昂。
「殿? どうかしましたか?」
趙儼が曹昂が突然、頷くのを見て不思議に思い訊ねてきた。
「いや、何でもない。では、軍議を行う」
曹昂がそう宣言すると、軍議に集まった者達は身を正した。
すると、劉巴が兵に指示すると、兵は手に持っている丸まった紙を曹昂達の足場で広げた。
広げられた紙は鄴近辺を記した地図であった。
「現在、我が軍は鄴を包囲しております。南門は高順将軍。西門は鮑信将軍。東門は史渙将軍が指揮する部隊がおります。北門には兵は置いておりません」
劉巴が現在の状況を簡単に説明した後、曹昂は地図を見ていた。
「敵の内応はどうなっている?」
「はっ。審栄と馮礼がこちらに降るそうです。既に返事を貰っております」
「そうか。後はこちらの指示に従ってもらおうか」
内応が上手くいったので、曹昂は内心で良しと思いつつ、此処からが大変だと思い気を引き締める。
「して、殿。何時頃攻撃をするのですか?」
張燕が攻撃は何時するのか訊ねると、曹昂は手を振った。
「今は攻撃はしない。というよりも、敵がある事をするまで待機だ」
「待機ですか?」
「そのある事とは?」
史渙が訊ねると、曹昂は指を唇に当てた。
「それはまだ秘密だ。敵がそうするとは限らないかも知れないのでな。まぁ、そうなった場合も考えて策は練っているのでご安心を」
曹昂が自信ありげに言うので、他の者達も敵がどんな事をするのか気になっていた。
「承知した。曹昂殿がその様な考えであれば、我らは何も訊きません。ですが、これだけはお聞かせいただきたい」
張郃は曹昂という者を詳しくは知らなかった。
その為、その人となりを聞こうと思い訊ねてきた。
「何をお聞きしたいので?」
「曹昂殿が考えている策でこの鄴を落す事が出来るのですか?」
「勿論。そのつもりだ」
張郃の問いかけに曹昂は即返答した。
その返答を聞いて、張郃の心中には一抹の不安が宿っていた。
(戦が思い通りにいくとは限らないと思うのだが。しかし、丞相の息子で戦に出れば負けなしと言われる名将と聞いている。恐らくは大丈夫であろう)
張郃は不安こそあるものの、この状況から考えても其処まで危機に陥る事は無いと判断した。
「承知しました。無礼な事を聞いた事をお許しを」
「別に気にしていませんので。貴殿と高覧殿は父に仕えて日が浅いのだから、仕方がない事でしょう」
曹昂は気にした素振りなど見せずに言う。
「まぁ、これを機にわたしを知ってもらえると嬉しく思います」
「はっ」
張郃の返事を聞いた後、曹昂はまた地図を見て心の中でこちらの策が上手く行きますようにと祈っていた。
(立てた策が全て上手くいくとは限らないからな。十分に用心しなければ)
以前、徐州で張飛達を撃退できると思った策が思わぬ伏兵で瓦解された事が曹昂にとって衝撃であった。
今回もそうなるかどうか分からないが、注意だけはしておこうと思う曹昂。