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その頃、鄴では

 曹昂率いる十万の兵が北上す。


 その報は直ぐに鄴に居る袁尚の下にも届いた。

「ぬぅ、袁煕をようやく撃退したと思えば、今度は曹操の息子が攻め込んで来るとは」

 袁尚は忌々しいと言わんばかりに顔を顰めていた。

「殿。ご安心を。如何に十万の兵と言えど、この鄴を落す事は出来ません」

「そうだな。袁煕も十万の兵で攻め込んできたが、撃退する事が出来たからな」

 審配に励まされ、袁尚はその通りと頷いた。

「だが、兵糧の方は大丈夫なのか? 去年の畑が燃えた事があったからか。食糧は容易に手に入らぬだろう?」

 袁尚は畑の失火の件は恐らく敵の工作だろうと思っていたが、敵がしたという証拠が見つからなかった。

 その証拠が無い為、城内では大地の神が怒って畑を燃やしたという噂が流れていた。

 袁尚と家臣達はどれだけ違うと言っても、民は信じる事は無かった。

 怒っている神が居る地に居られないと言って城内に居る者達が逃げる者まで出て来た。

 人口の低下は税が下がると分かっている袁尚は捕らえて厳罰に処せと命じた。

 捕らえられた者達は老若男女構わず棒叩きの刑に処され、住んでいた所に帰された。

 市で刑罰を公開しているにも関わらず、逃げ出す者達は後が絶たなかった。

 袁尚は心配そうであったが、審配は問題ないとばかりに手を振る。

「兵糧の方は問題ありません。まぁ、城内に民達の中には飢える者が出るかも知れませんが、勝つために必要な事ですので、此処は我慢してもらいましょう」

 審配はこの時に備えて、城内に居る貧富問わず食べ物か財を供出させていた。

 審配は供出と言うが、実際は半ば無理矢理であった。

 抵抗する者達もいたが、痛い目にあっていた。

 その為、城内では袁尚達には多くの不満が渦巻いていたが、袁尚達は気付いていなかった。

「それに、いよいよとなれば、城門を開けて民達を城外に出して、敵に押し付ければ良いでしょう」

「それでは、皆殺しにされぬか?」

 袁尚の心配を主簿の李孚が口を挟んで来た。

「なに、白旗を持たせて降伏させればいいのです。敵も降伏した者を見殺しにする事は出来ぬでしょう。それで、多くの食糧を使うでしょう。さすれば、敵の兵糧は少なくなり、撤退するかもしれません」

「成程な。よし、それでいこう」

 李孚の言葉に納得した袁尚はこれなら問題ないと頷いていた。

「だが、我らだけでは撃退は無理かもしれん。其処で高幹に使者を送り、援軍を乞うべきだと思う」

 袁尚がそう述べると、審配達は難しい顔をしていた。

「殿。高幹様は何を考えているか分かりません。ですので、使者を送らずとも良いと思います」

 審配が躊躇いがちに言うが、袁尚は問題ないとばかりに言う。

「だが、此度もあ奴も重い腰を上げるであろう。何せ、鄴が落ちれば、次は自分だと分かっているだろうからな」

「そうかも知れませんが・・・」

「あ奴もまさか、自分の伯父の仇である曹操に降ろうとはせんだろう。だから、大丈夫だ」

 袁尚は自信ありげに言うので、審配達は何も言えなかった。

 とりあえず、高幹の下に使者を送る事は決まり、籠城の準備に取り掛かった。

 その準備の最中、審配の甥の審栄と配下の将の馮礼が密談していた。

「見よ。曹操からの密書だ。曹操に寝返れば、地位はそのままだそうだ」

「これは悪くない条件ですな。それで、どうお考えで?」

「このまま、袁尚に仕えていても身の破滅だ。わたしは曹操に寝返る。お主は?」

「わたしも協力いたします」

「おお、そうか」

「ところで、文には寝返る時期は何時頃だと書かれているので?」

「それについては」

 二人は少し話し合った後、準備の為に別れた。


 同じ頃。

 鄴内で暮らしている民達は言うと。

「おい、聞いたか。曹操軍が攻め込んで来るってよ」

「本当か?」

「間違いないぜ。兵士達が戦の準備をしているそうだ」

 民達が色々な所で集まって話し合っていた。

「袁煕様は撃退できたけど、今度は曹操軍か」

「勝てるのかな?」

「それは分かんねえよ。でもよ」

 そう言って話している者の一人が腹を摩っていた。

「此処の所、満足に食べてないからな。いい加減、戦は止めて欲しいぜ」

「だな」

「もう、この地を治めるのは袁尚様でも誰でも良いから、この地を戦場にするのは止めて欲しいぜ」

 その言葉に周りに居る者達は同意するかのように頷いていた。

「はぁ、どうしたものかな~」

 一人が溜め息交じりでそう言い、空を見上げていた。

 

 数十日後。

 曹昂軍は鄴に到達した。

 城壁から曹昂軍を睨む袁尚軍の兵達。

 何時でも攻撃できる様に矢を番えるか、石を落とせる様に用意していた。

 戦える準備をしている袁尚軍を見た曹昂は。

「・・・士気が高そうだな」

「はい。そう簡単に落とせないと思います」

 曹昂の呟きに側にいた劉巴が答えた。

「殿。どの様な策を行うのですか?」

「そうだな。とりあえず、城の包囲をするか」

「分かりました。何処の門を開けますか?」

「そうだな。とりあえず、北門以外を包囲する様に」

「承知しました」

 曹昂が指示すると劉巴は部隊を指揮する者達に命令を伝えるべく離れた。

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