話のついでに
呼び出された曹昂は直ぐに護衛の者達と共に丞相府へと向かった。
(さて、また女性問題か? それとも何か面倒な事でも押し付けられるのか?)
そんな事を思いながら丞相府に向かう曹昂。
やがて、丞相府に着くと門を守る衛兵に一言言い、建物の中に入っていくと、程なく使用人が出迎えてくれた。
事前に言われていたのか、使用人は「丞相がお待ちです。どうぞ、こちらへ」と言って手でついて来る様に合図を送り歩き出した。
曹昂はその使用人の後に付いて行った。
廊下を暫し歩き続けた後、ある部屋の前で使用人が止まると「此処でお待ちを」と一言断りを入れてから、部屋に入って行った。
少しすると、使用人が戻ってくると「どうぞ、丞相が中におります」と言って、手で入るように促した。
促された曹昂はそのまま部屋の中に入って行った。
部屋に入ると、椅子に座ってる曹操の隣に卞蓮の姿があった。
(珍しいな。あまり、屋敷から出ない人なのに)
曹操が戦に赴く際は付いて来る事もあるが、普段は丁薔の奥向きの差配の手伝いをしており屋敷から出る事があまりなかった。
まして、丞相府に来る事など今までないのではと思うと同時にこれは女性問題ではないなと思う曹昂。
(女性問題ではないとすると、何かあったのかな?)
「急に呼び出してすまんな。お前にも一言言っておいた方が良いと思ってな」
「いえ、お気になさらずに」
卞蓮が居る事を不思議に思いつつも、何かしらの用事があって呼んだのだろうと思い答える曹昂。
「お前を呼んだのは他でもない。丕の事だ」
「丕が何かしましたか?」
何か問題を起こしたとは聞いていないが、何かしたかと思いつつ訊ねる曹昂。
「あ奴も今年で十五歳だ。そろそろ、妻を娶っても良いと思うのだが。どう思う?」
曹操がそう言うのを聞いて、曹昂は何かに納得したような顔をしていた。
(そう言えば、曹丕って甄洛を妻に娶る前に、妻が居たって、何かの本で読んだな)
字も名も不詳で、地方の名門という事しか分からない任氏。
だが、曹丕の好みではないのか、それとも馬が合わないのか婚姻して暫くすると離縁して追い出されるという女性であった。
流石に可哀そうだと思いはするが、だが相性というのがあるので離縁するのも無理ないかと考える曹昂。
「・・・・・・相手はどんな女性で?」
「わたしの従妹が嫁いだ任峻は知っているな。あやつの一族から年頃の娘が居るそうなので、その者にするつもりだ」
「父上がそうお決めであればそれで良いと思います。卞夫人はどうお考えで?」
「う~ん。丕にはまだ早いと思うけど、もう話は通っているのでしょう?」
「ああ、もう話は通してる」
「であれば、仕方がないわ。お任せします」
卞蓮は少し不安そうであったが、最終的には話を受け入れた。
「そうか。話は終わりだ。下がって良いぞ」
曹操が下がって良いと言うのを聞いて、曹昂は下がろうとしたが、こうして会えたのでついでに例の話をする事にした。
「・・・・・・父上。御話しをしたい事があります」
本作では曹丕の妻であった任氏は任峻の親戚とします。