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口添え

 曹昂一行が許昌近くまで到達すると、曹昂は部下達に。

「少し用を思いだしたので、私は一足先に許昌に戻る。先触れは出さなくても良い」

 と言い、趙雲を供にして先に許昌へと向かった。

 

 都の門を潜り、曹昂達は曹操の屋敷へと向かった。

 屋敷の前に着くと、馬から降りて曹昂が来た事を告げると、屋敷の門が開かれた。

 開かれた門には使用人が出迎えてくれた。

「これは、子脩様。今、お戻りで?」

「うむ。父上はおられるか?」

「いえ、丞相はまだ職務の最中にございます」

「そうか。では、母上は?」

「奥方様でしたら、お部屋に」

「そうか。では、母上に会おう」

「畏まりました」

 使用人がそう言って丁薔が居る部屋へと案内してくれた。


 使用人が部屋に案内し「では、これで」と一言言って部屋を出ると、趙雲も一礼し部屋を出た。

 部屋には曹昂と丁薔だけとなった。

 曹昂は丁薔に深く頭を下げた。

「母上に置かれましては御機嫌麗しゅう。ご尊顔を拝謁できて嬉しく思います」

 頭を下げつつそう挨拶してくる曹昂。

 そんな曹昂を見て、丁薔は目を細めた。

(また、何かしたのかしら?)

 血は繋がっていなくても長年可愛がり育てて来た子であるので、丁薔は曹昂の態度を見て直ぐに悟った。

(文が来た時から、何かあると思っていたけど。今度は何をしたのかしら?)

 どうせ、面倒な事だろうなと思い溜息を漏らす丁薔。

 丁薔が溜め息を漏らすので、曹昂はまだ、何も話していないのだけどなと思った。

「・・・それで、今日は何の用で此処に来たの?」

「はっ。実は母上にご相談したき事がありまして」

「それは、文で書かれていたから知っているわ。それで、どんな相談をしたいのかしら?」

 丁薔が訊ねると、曹昂は目を泳がせた後、一度頷いた後口を開いた。

「実は、袁尚に仕掛けた策により、袁紹の妻の劉夫人を含めた一族の者達を捕まえる事に成功したのです」

 曹昂は其処まで話して、丁薔の顔を見た。

 丁薔は話の続きを聞きたいのか、無言で話の続きを促した。

「その袁紹の一族の者達の中で、・・・・・・その、一際美しい者がおりまして・・・・・・」

「ようは、その者が気に入ったので、自分の妻妾にしたいと?」

「簡単に言いますと、そうなります・・・」

 曹昂がそう言うと、丁薔は何を悩んでいるのか分からないという顔をしていた。

「ならば、自分の妻妾にしなさい。敵とは言え、捕まえた者を自分の妾にするのは特に問題無いでしょう」

 丁薔からしたら、息子が気に入ったのであれば誰であろうと妻妾に加える事に反対する気は無いようであった。

「それが、その・・・・・・その者は袁煕の妻でして・・・・・・」

「人妻という事?」

 丁薔がそう訊ねるので、曹昂は頷いた。

 すると、ムッとした顔をする丁薔。

「・・・・・・はぁ、貴方も旦那様の子というかしら。とうとう、人妻にまで手を出すとは」

「はぁ、何と言いますか。その、本当に綺麗な者なので・・・・・・」

「だからと言って、貴方まで旦那様と同じ事をする必要はないでしょう。この世には美しい者など、それこそ星の数ほど居るのですから。だから、功績がある者に与えても良いと、母は思います」

 というよりも、与えなさいと言う顔をする丁薔。

「はい。御尤もです。ですが、この袁煕の妻は名は甄洛と言うのですが。この甄洛は父上も狙っているという話がありまして。もし、此度の策で功績ある者に与えれば、その者は父上に睨まれるかも知れません」

「何ですって?」

 曹昂の話を聞いた丁薔が目を細めた。

「それは、本当かしら?」

「はい。何でも、袁紹が袁煕の妻を見るなり、その美貌を絶賛したという話を聞いて、狙っていると」

 前世の記憶でそう書かれていると聞きましたと心の中で言う曹昂。

「まぁ、旦那様は一体どれだけ元人妻を妾に加えたら気が済むのでしょうねっ。今も屋敷には各地の有力者から送られてくる者達で部屋が一杯だというのにっ」

「父上の御立場を考えますと、それは仕方が無き事だと思います」

「しかも、全員元人妻よ。どう見ても旦那様の好みに合わせてだとしか言えないでしょう」

「はぁ、そうですね」

「特にこの間なんかは、袁術の妾であった秦某と言う者を何処からか見つけて来て、自分の側室にしたのよっ。今でさえ、奥向きの差配が大変だと言うのに、これ以上増やされたら、手が回らなくなるわっ」

「・・・そうですね」

 丁薔が愚痴を零すので、曹昂は同意するしかなかった。

(多分、その秦某と言うのは、秦夫人だろうな。成程、袁術の妾であったのか)

 曹操の子供を産んだという事以外、特に何も分からない女性の正体が分かり曹昂は納得していた。

「まぁ、これ以上旦那様の妾を増やされても困るわね。仕方がないわね。此処は貴方が娶りなさい」

「宜しいので?」

「二度は言いません。だけど、その甄洛という者の顔は一度見たいので、許昌に着いて落ち着いたら、私の下まで顔を見せに来なさい」

「承知しました」

 母である丁薔から娶っても良いという許可を貰えたので、曹昂は嬉しそうに返事をした。

 そして、意気揚々に屋敷を出て行った。

 暫くして、曹昂達は許昌に辿り着き、袁紹の妻の劉夫人と袁尚の妻子を曹操に渡したが、袁煕の妻の甄洛だけは曹昂の屋敷へ預けられた。

 甄洛を屋敷の一室に匿った後、曹昂は間者を使って冀州と幽州にある噂を流した。


 曹昂達が許昌に着いて数日程したある日。

 冀州の袁尚の下に驚くべき報告が齎された。

「なにっ、母上と我が妻子が許昌に居るだと⁉」

「はっ。巷では、そういう噂が流れております」

「ぬううっ、だが所詮は噂だ。母上方は何処にいるのか分からないのだ。真実かどうかも分からんであろう」

 袁尚は噂だと聞き流そうとしたが、其処に審配が言いづらそうな顔をしながら報告した。

「それが殿。許昌に居る密偵から、劉夫人と殿の妻子が曹操に捕まったのは本当だという報告が来ております」

「なにいいいっ、どうしてそうなったのだっ」

「それとこれも巷で流れている噂なのですが。どうやら、袁煕様が曹操に降る事にしたので、その手土産として劉夫人と殿の妻子を曹操の下に送ったという話が流れておりますっ」

「何だと⁉ 袁煕の兄者が⁉ おのれ、妾の子だが、私より先に生まれたので兄として立てていたというのにっ」

 袁尚は怒りで顔を赤くし、今にも暴れ出しそうであった。

「その様な事をする者など、最早我が兄に非ずっ。曹操を蹴散らした暁には、その首刎ねてくれるっ」

 袁尚はそう宣言した後、直ぐに袁煕の下に断交状を送りつけて、高幹に共に手を携えて河北を我等二人の者にしようぞと持ち掛けた。


 同じ頃。

 幽州の袁煕の下にも似たような噂が流れていた。

「なに、我が妻が曹操に捕まっだと⁉」

「はい。巷ではその様な噂が流れております」

 報告した部下も本当かどうなのか分からなかった。

「だが、どうやって曹操は我が妻を捕まえたのだ?」

 袁煕の疑問に報告した部下は「飽くまで噂なのですが」と一言断りを入れた。

「何でも、袁尚様が曹操に降る為に手土産として、曹操に送ったという噂ですっ」

「袁尚がっ⁉ ・・・・・・そうか。だから、送ると言っておきながら、妻達を送らなかったのか」

 袁煕は袁尚が持ち掛けてきた話なのに、どうして劉夫人達を送ってこなかったのか理由が分かった。

「あやつめ。父上の仇に降るとは、見下げ果てた奴っ。その様な者に袁家の当主を務める事を認めるは、我が不明であったっ」

 今更ながら、兄袁譚の方を当主として立てるべきであったと痛感する袁煕。

「最早、袁尚は我が弟に非ず! 憎むべき敵である! 兵を集めよ! 曹操と戦う前に、袁尚を討ち取り私が袁家の当主となる!」

 袁煕は部下達にそう宣言した。

 袁煕は兵を集めると同時に、高幹にも文を送った。

 手を結んで河北を二人で統治しようと持ち掛けた。

 袁兄弟の文が届けられた高幹は返事を送らず、日和見を決め込んだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] パッパを出汁に丁ママンにw曹昂きたない!きたないぞ!w先に人妻、家臣にやったらパッパから不興を買うかも(実際そうだろうけど ある意味曹操ぱっぱのおかげで話がまとまったw知られたらへそ曲げるか…
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