衝撃が再び
曹昂達が陳留に到着し数日程すると、張燕一行が到着した。
曹昂は城内の大広間に張燕を呼んだ。
「張燕飛燕。ご命令通りに劉夫人達を連れて参りましたっ」
「ご苦労であった。私の期待に応えてくれて嬉しく思う」
「はっ。身に余るお言葉にございます」
跪きながら頭を垂れる張燕。
「して、劉夫人達の様子は如何だ?」
「はっ。薬から目を覚ました時には、多少文句を言ってきましたが、もう袁家に戻れないと分かると大人しくなりました」
「そうか。では、様子を見に行こうか」
曹昂は立ち上がり、護衛の趙雲と陳到と張燕を連れて劉夫人達の下に向かった。
城内にある一室。
その部屋の前に曹昂達が来た。
「この部屋か?」
「はい。開けよ」
曹昂が訊ねると、張燕が部屋の前に居る見張りの者達に扉を開けるように命じた。
鍵が開けられ扉が開かれた。
扉が開かれると、趙雲と陳到が先に入る。
安全が確認されると、曹昂と張燕が部屋に入って来た。
部屋に入ると、御年配の女性が一人に若い女性達と小さい子がいた。小さい子は女性の一人にしがみついていた。
「この方が劉夫人か?」
「はい。その通りです」
御年配の女性を見ながら張燕に訊ねた曹昂。
そして、頷いた後、その女性の後ろに居る女性達について訊ねた。
「あの者達は袁尚の妻妾達です。小さい子は袁尚の子です」
「成程。では、袁煕の妻は何処にいる?」
曹昂は劉夫人達の後ろに居る女性達を見回した。
そう見回していると、一際目立つ女性が居た。
白く美しい肌に明るく澄んだ瞳に細く切れ長の眼。柳眉に線の細い顔をしていた。
青糸の髪を頭頂部付近まで巻き上げて大きなお団子作って纏めていた。
身の丈は七尺程で、服の上からでも分かる程に大きく育った果実に加え、柳の様な腰に胸に比べても負けない位に大きい桃尻を持っていた。
「・・・・・・えっ⁉」
曹昂はその女性を見るなり、驚きの声をあげた。
思わず、その女性の顔をマジマジと見てしまった。
(・・・・・・嘘だろうっ)
その女性の顔を見ながら、信じられないという思いしかなかった曹昂。
女性の顔が、前世の自分の担当をしてくれた女医そっくりであったからだ。
流石に転生してから年月が経った為、女医の名前までは思い出せなかったが、その女性の顔はハッキリと覚えていた。
何せ、亡くなる直前まで顔を合わせていたのだから。
前世のそっくりは蔡親子だけだと思っていたので、曹昂は驚きのあまり言葉を失っていた。
「殿。如何なさいました?」
陳到が心配そうに声を掛けて来るので、曹昂はハッとした。
「あ~、おほんおほん。こちらの方が袁煕の奥方様であられるのか?」
「・・・・・・その通りです。名を甄洛。字を昭姫と申します」
「な、成程。流石は噂になるだけはある・・・・・・」
劉夫人が隠す事が出来ないと悟ったのか、曹昂が見ている女性の名を明かした。
曹昂は噂になる程の美貌に納得していた。
「ああ、貴女方はこれから許昌に行って貰います。拒否は出来ませんので、あしからず」
曹昂の言葉を聞いて、覚悟を決めたのか劉夫人達は何も言わなかった。
目的は終えたのでその場を後にした。
部屋を出た曹昂は自分用に使う部屋に入ると、椅子に座り深く息を吐いていた。
(どうしよう? 甄洛をこのまま父上に献上してもいいものか)
曹昂は最初に一目見たら、曹操に献上するつもりであった。
史実に倣って曹丕に与える事も考えたが、碌な最期を迎えないので代わりに曹操に与えようと決めていた。
人妻を自分の妻になどすれば、父曹操は「お前も私の息子だな。はっははは」と笑うのが目に見えていた。
更には、母である丁薔が良い顔をしないのは簡単に予想できた。
(とはいえ、前世で世話になった女医さんのそっくりさんを父上に献上するのもな~)
そっくりではあるが、別に本人ではないと曹昂は分かっているのだが、それでも曹操に献上する事に、もやっとするのであった。
どうしたものかと考える曹昂。
暫く考え続けたが、答えが出なかった。
これ以上考えても無駄なだけだと分かった曹昂は考えるのを止めて、許昌へ戻る事にした。
道中、劉夫人達を連れて行軍している間、考えたが答えは出なかった。
(・・・・・・女性の事は女性に聞くか)
考えた結果、そう結論づけた曹昂は許昌にある人物に文を送る事にした。
本作の甄氏の名前は甄洛とします。