表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
530/1006

ちょっと、○○○○してくるか

 曹操が布告を出してから数日が経った。

 北門では袁譚と一緒に妻子の首が掛けられていた。

 悪戯がされない様に見張りの兵士達が傍に立っていた。

 臭いが気になりはするが、これも任務だと思い耐える兵士達。

 その兵士達の前に粗末な白い衣装を纏った男が来た。

 その男は袁譚の首を見るなり、涙を流して拝礼しだした。

「こいつ、何をしている⁉」

「丞相の布告を知らんのか⁉」

 拝礼する男を怒鳴る兵士達。

 既に布令が広まって知らぬ者は居ないと思っていたので、誰も嘆く者は居ないと思い驚いている様でもあった。

「布告を破るとはけしからん奴め! こっちに来いっ」

 兵士達が袁譚の首に拝礼する男を無理矢理立たせて、曹操の下まで連れて行った。

 

 同じ頃。

 曹操は家臣達と顔を突き合わせていた。

「兵糧が心許ないか……」

 報告書を読んだ曹操は不満そうな顔をしていた。

「はい。連戦に次ぐ連戦に加え、南皮まで来ましたので兵糧が後二十日保てば良いところです」

 家臣は不機嫌そうな曹操に申し訳なさそうに報告した。

「流石にそれだけの兵糧では、鄴に着いた所で無くなるかもしれんな」

 これでは戦にならないと思う曹操。

 曹操としては袁譚を討ち取った勢いに乗って、このまま鄴を攻め落とすつもりであった。

 だが、兵糧が心許ないと聞いたので、どうするか考える曹操。

「丞相。兵糧の問題もありますが、兵馬も疲れて来ております。此処は許昌に戻って大勢を整えてから、鄴攻略に望むと言うのはどうでしょうか?」

 郭嘉が此処は一度退こうと言うのを聞いて、曹操は唸った。

(っち、鄴を落した後は、噂の人妻を手に入れようと思っていたのだがな)

 袁紹の息子の袁煕の妻が絶世の美人と聞いていたので、曹操は手に入れたいと思っていた。

 今は亡き袁紹がその妻を一目見るなり「正に傾国の美女だ。袁煕には勿体ない嫁よ」と言っていたと噂が流れる程であった。

(蓮はいるが。そっちはどうとでもなるから問題無いが。鄴を攻め落とす事が出来ないのであれば、行く意味は無いな)

 惜しいと思いはするが、現状を考えて無理だと判断した。

(まぁよい。大勢を整えた後に攻め込めばいい。その時に手に入れれば問題無い)

 そう考えた曹操は許昌に帰還する事を決めた。

 そう命令を下そうとした所で、兵が駆け込んで来た。

「申し上げますっ。丞相の布告が出ている事にもかかわらず、袁譚の首で拝礼し涙する者がおりましたので、連れて参りました!」

「なに?」

 自分が出した布告を無視されたと分かり、曹操は顔を顰めた。

 そして、兵士に連れられて一人の男が曹操の前に突き出された。

 その場で跪かされた男は曹操に頭を下げていた。

「貴様、私が勃海郡全ての県に布告し高札を立てたというのに、見ていないのか?」

「・・・・・・存じております」

 男は頭を下げたまま、そう告げた。

「では、何故袁譚の首を前にして泣いて拝したのだ?」

「恩義があったからです。袁譚様は私を引き立てて下さいました。その御方が武運つたなく敗れたと聞き、こうして駆けつけて参りました。丞相、布告を破り処刑するというのでしたら私は構いません。我が一族全ての者達を処刑しても構いません。ですが、その前に袁譚様とそのご家族の首を私に下さいませ。その首を手厚く葬らせて下さりませ」

「・・・・・・・・・・・・」

 男の願いを聞いて、曹操は黙り込んだ。

 郭嘉を含めたその場に居る者達は曹操が何を言うのか気になり無言で見ていた。

「・・・・・・その願いを叶える前に、お主、名は?」

「はっ。生まれは青州北海郡営陵にて、姓は王。名は修。字を叔治という者にございます」

 男こと王修はそう言うのを聞いて、曹操は目を丸くした。

「ほぅ、お主が。孔融がお主の事を高く評価していたぞ」

 袁紹に追われる前に青州で刺史をしていた孔融からその時の配下の話を聞いていたので、曹操は覚えていた。

「孔融様が。身に余る光栄にございます」

「お主の願いだが聞き入れよう。しかし、袁紹も袁譚もこういう忠義に厚い者を用いなかったから敗れたのであろうな」

 曹操は勿体ないとばかりに言い、直ぐに袁譚とその家族の首を下ろし王修に与える様に命じた。

 その後、曹操は王修に行司金中郎将に封じる様に朝廷に上奏した。

 

 数日後。

 曹操は許昌への撤退の準備を行っていた。

 既に指示は出しているので、曹操自身やる事が無く暇であった。

 暇なので、蓮を呼んで酒でも飲むか。それとも兵法書でも読むかと考えていた。

 其処に護衛の許褚が曹操の下に来た。

「申し上げます。若君が参っております」

「子脩が? ふん。通せ」

 曹昂が来たと聞いて、曹操は何事かと思いながら部屋に通すように命じた。

 少しすると、許褚が曹昂を連れて来た。

 許褚が一礼しその場を離れると、曹昂は一礼した。

「・・・父上。暇そうですね」

 顔を上げた曹昂が曹操の顔を見るなり、そう言いだした。

 事実なので、曹操は怒る事もせず肩を竦めた。

「うむ。私としては、このまま鄴を攻め落としたかったが。いかんせん、兵糧が心許ないからな」

 残念だという気持ちを顔に出す曹操。

「私としても、このまま許昌に退くのは勿体ないと思います。ですので、少し嫌がらせをしたいと思いますので、ご許可を」

「何をするつもりだ?」

「そうですね。敵の兵糧に打撃を与える事です」

「ふっ、面白い。許可してやる。兵は要るか?」

「あまり多くは要りません。指揮は張燕に取らせますので、張燕にどれだけ必要か聞いてからで良いでしょうか」

「構わん。敵に打撃を与えられると言うのであれば、好きにせよ」

「お聞き届け下さりありがとうございます。では、そちらの準備がありますので」

 曹昂は一礼しその場を後にした。

 曹昂を見送った曹操は内心で、今度は何をするつもりであろうか?と思いつつ少しだけ楽しみにしていた。


 数日後の夜。


 冀州魏郡鄴県。

 城門は固く閉められており、城壁には多くの兵が詰めていた。

 既に袁尚の下には袁譚が敗れて討たれたという報が届いていた。

 兄が死んだ事で悲しむ事は無く、むしろ喜んでいる様子を見せた袁尚。

 そんな袁尚に審配は曹操が袁譚を破った勢いに乗って、攻め込んでくるかもしれないので守りを固めるべきだと進言した。

 審配の進言を聞いた袁尚は直ぐに城の守りを固める様に指示した。

 その鉄壁の如く厚く固い守りを前にしては、数万の兵を持ってしても打ち破れないのではと思われた。

 そんな鄴の近くには田畑があった。

 鄴は大きい県でもある為、多くの人が住んでいる。それに比例して田畑も広かった。

 その田畑に近付く者達が居た。

「飛燕様。敵は城の守りだけ固くして、田畑には一人も守りが居ませんぜ」

「そうか。まぁ、居た所で特に問題無いがな」

 張燕は夜の暗がりの中でも田畑をしっかりと見ていた。

「では、手筈通りに行動しろ」

 張燕が手で合図を送ると、男達は手に持っている棒に火打石で火を着けた。

 火が着いた棒を持った男達に将軍が命じた。

「この田畑全て焼き討ちしろという命令だ。全て燃やせ!」

「「「はっ」」」

 張燕の命令に従い、男達は田畑に実っている作物に火を掛けて行った。

 男達の行動を張燕は後方で見ていた。

「ふふふ、鄴が終われば、次は近辺の県の田畑も焼き討ちする様に命じられたからな。袁尚はこれをどう対処するかな」

 張燕は燃える田畑を見ながら、袁尚がどう対処するのか見物だと思い笑っていた。

 やがて、田畑が燃えている事に城壁に居る兵達は気付き大声を上げた。

 だが、城門を開こうにも籠城の為に、城門には大小様々な大量の石が積まれていた。

 これは、袁尚が城門を破られても持ち堪えられる様にと指示したのが原因であった。

 その指示が仇となり、城門から出る事が出来なかった。

 燃える田畑を見て混乱する兵達に、審配が胸壁に縄を掛けて城門から降りる様に命令を出した。

 それでようやく兵達は城の外に出る事が出来て、慌てて消火作業に入った。

 だが、火が消える頃には田畑にあった作物は全て燃やされていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 単なる嫌がらせが袁尚軍の致命傷になりそう。ただでさえ無理して民心離れる、袁譚討ちピに。それで飯も無いっす…反乱の煙もっくもくやね(げっそり 曹丕君はこの世界線では兄に教育されているから史実よ…
[気になる点] 作物は焼き払うだけでなく奪って自軍の兵糧にしなかったのだろうか?
[一言] ヒトヅマニアの曹操はやっぱり曹操だから、それは良いとして王修の「我が一族を全ての者達を処刑しても構いません」って一族からしたらたまったもんじゃありませんね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ