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閃いたので

 建安六年(西暦201年)八月。


 袁譚は南皮に入るなり、城の守りを固めた。

 濠を更に深くし、逆茂木を幾つも作り城壁には多くの兵が詰めていた。

 兵の中には粗末な衣装に鎧だけ纏った老若男女が居た。

 これは、郭図が城内に居る民全てを徴兵して守りを固めるべしと進言した為だ。

 袁譚はその意見を聞き入れて、城内に居る全ての民を徴兵した。

 腰が曲がり歩くのも大変そうな老人、年若く弓を引くのも無理そうな年少の子供、年齢はバラバラだが女性だろうと構わず城壁に配備されていた。

 そうして、集められた者達の殆どは弓を扱う事など出来ないので、その者達の近くには投げるか落とすかに手頃な石や竹で作られた槍などが幾つもあった。

 これで石を投げるか落とすか竹槍を繰り出して敵を撃退しろという事であった。

 槍を渡されなかったのは、槍が用意できなかった為だ。

 何とか防備の準備が整った所で、曹操軍が到着した。

「来たぞ。者共! 死に物狂いで戦え‼」

 袁譚が城壁に居る者達に檄を飛ばした。

 袁譚軍の兵は声をあげるが、徴兵された民達は少し遅れて声を上げた。

 

 城壁に居る袁譚軍の兵達が喊声をあげるのを聞きながら城を見る曹操。

「・・・・・・強情も此処まで来れば哀れだな。兵だけではなく城内に居る民まで使うとは」

 城壁に居る兵達を見て呟いた曹操。

 明らかに兵ではない者達が居た。

 持っている物も竹で作られた槍なので、兵では無い徴兵した民だと直ぐに分かった。

「ですが、降伏しても許さないのでしょう?」

 隣に居た曹昂がそう訊ねると、曹操は当然とばかりに頷いた。

「袁紹の息子だからな。下手に生かしたら、名門の名を使って勢力を立て直すかも知れんからな。禍根を断たねばならん」

「賢明なご判断です」

 同じく側にいた郭嘉も曹操の意見に同意した。

「取り敢えず、城を包囲して攻めるか」

「長丁場になると思いますので、無理な攻めはせずじっくりと攻めましょう」

「であるな。任せたぞ」

「はっ」

 曹操は全軍に城の包囲を命じて、包囲が完了するなり攻撃を仕掛けた。


 南皮の城を包囲して十数日が経過した。

 城は落ちる気配は無かったが、曹操軍は昼夜分かたず根気よく攻め続けた。

 それにより、城内に居る者達は疲れ、士気は落ちていた。

 袁譚も碌に眠れず心身共に疲れていた。

 そんな時に配下の武将で彭安という者が。

「このままでは、我が軍の士気は上がりません。ですので、私が城外に出て敵将と一騎打ちして討ち取って士気を上げたいと思いますっ」

 そう力強く申し出て来た。

 疲れてる袁譚は深く考える事をしないで、その進言を受け入れて彭安を城外へと出したが。

「申し上げます! 彭安様が敵将の徐晃と戦いましたが、十合ほど交えた後に斬り殺されました!」

 兵の報告を訊いて袁譚は自分の軽挙をひどく後悔していた。

「殿。彭安が討たれた事は残念ですが、今は守りを固め、敵が疲れるのを待ちましょう。そして、敵が疲れた時を見計らい全軍で総攻撃をすれば、我が軍の勝利は間違いありませんっ」

 と郭図が励ますので袁譚は気を取り直す事が出来た。

 そして、袁譚は城の守りを更に厚くした。

 その様子を見た曹昂は顎を撫でる。

「守りを固めたか。う~ん。このままだと長引くだけだな・・・」

 長期戦は望む所ではないと思う曹昂。

 何をすれば良いかなと思いつつ考えていると。

 目の前に攻城の準備を行っている兵達が横切った。

 準備で忙しいのか、曹昂の前を横切った事に気付いた様子は無かった。

 曹昂の後ろで控えている趙雲はチラリと曹昂を見たが、何か考えている様で兵達に気付いた様子が無かったので、特に咎める事は無いなと思い安堵していた。

 それよりも、曹昂は兵達が曳いていた荷車を見て何か考えていた。

(荷車・・・車、車輪・・・・・・ちょっと試してみるか)

 曹昂は思いついた事を試してみる事にした。

 

 数日後。

 南皮県城は厚い守りが固められていた。

 城壁に居る兵達は疲れているが、それでも懸命に守っていた。

 曹操軍の兵達は橋を架けて登り続けて行き、登らない兵は矢を射かけて登る兵達を援護していた。

 両軍の攻防が続く中、南門に二騎の騎兵が駆けていた。

 その騎兵達の間には紐で繋がれた車輪があった。

 車輪の間には筒の様な物が挟まれて紐が取り付けられており、その紐には火が着いていた。

 馬が駆ける事で車輪が回り進み続けていく。

 騎兵達が城門にある程度近付いた所で、紐を離した。

 転がっていた車輪は回り続けながら、城門に当たった。

 暫くすると、爆炎と轟音をあげて大爆発した。

 その音の大きさに両軍の兵達は耳を抑えた。

 兵達の耳鳴りが収まる頃には、南門の城門が破壊されていた。


 城を攻めている曹操軍の本陣では、城門が破壊されたのを見て、皆感心した声を上げている。

「ほぅ、火薬を詰め込んだ筒を車輪で挟んで騎兵に運ばせたのか。何とも面白い使い方だな」

「この方法でしたら衝角で城門を攻撃して壊すよりも、人を使いませんし破壊力がありますな」

 皆は曹昂が作った物に感心半分恐れ半分で評価していた。

(騎兵で運んだのは正解だったな。多分自走は無理だろうし)

 曹昂は自分が作った物の破壊力を見てそう判断した。

 曹昂が作ったのはパンジャンドラムという第二次世界大戦中にイギリス軍で開発が行われていたロケット推進式の陸上地雷をこの時代に合わせて作った物だ。

 火薬を詰めた筒を車輪で挟んで自走させず騎兵に運ばせたのは、地面の凸凹で空転したり、予測不能な向きへ方向転換するかも知れないと思い騎兵で途中まで運ばせたのは正解だと思う曹昂。

「見事だな。お前が作った『車輪爆弾』は」

「はい。そうですね」

 思っていたよりも破壊力があるなと思っている曹昂の横で、郭嘉が進言した。

「丞相。今が攻め時ですぞ」

「そうだな。全軍に突撃を命じよ!」

 曹操が号令を下すと、曹操軍は喊声をあげて破壊された南門へと突入した。

 突入する曹操軍を前に袁譚軍は防戦したが、曹操軍の勢いと城門を破壊されたという事が衝撃だったのか袁譚軍の兵達の殆どが戦意を失っていた。

 袁譚軍と曹操軍の兵達が争い城内は両軍入り乱れる戦場となっていた。

 袁譚は城門が破壊されたという報を聞いて仰天したが、此処に居ては捕まるだけだと分かったのか、袁譚は護衛の兵も連れずにただ一騎で逃げ出した。

 南門から一騎で逃亡する袁譚。

 馬蹄で敵味方問わず蹴散らしながら進んでいくが、城門を出た所で門を破壊した車輪爆弾の破片に馬の足が取られてしまった。

 馬は崩れ落ちると共に袁譚は馬から投げ出された。

「おのれ、こんな所で死ねるか・・・」

 袁譚は落馬した事で身体をしたたかに打った為、体中に痛みが走っていた。

 その痛みを我慢しつつ少しでも城から離れようと顔を顰めつつ歩き出す。

 だが、逃げる袁譚を城に突入しようとしていた曹純が見つけて麾下の兵と共に近付いた。

「其処に居る貴様、何者だ⁉」

 曹純は袁譚の顔を知らない為、喚声で消されない様に大きな声で名を訊ねた。

 声を掛けられた袁譚も驚いて身体を震わせたが、曹純を見ても誰なのか分からなかった。

 袁譚の見た所、曹純は名のある武将なのだろうと思い説得する事にした。

「わたしは袁譚顕思だ。お主、何者か知らぬが。此処で私を見逃せば、いずれ、お主を富貴にしてやることができるぞ。どうだ? 悪い話ではなかろう?」

 袁譚は命乞いをしたが、その名を聞いて曹純は一瞬キョトンとした。

 そして、直ぐに真顔になった。

「これは運が良い。袁紹の息子ではないかっ。その首、この曹純が貰い受けるっ」

「ま、まっ」

 袁譚が何か言おうとしたが、曹純は剣を振りかぶり一刀で袁譚の首を斬り落とした。

 曹純は馬から降りて、斬り落とした袁譚の首を掲げた。

「曹純子和、袁紹の息子の袁譚を討ち取ったり‼」

 大声で宣言する曹純。

 周りの部下達と曹操軍の兵達は歓声をあげた。


 袁譚の首が斬り落とされた頃。

 郭図は防戦の指揮を取っていた。

(……これまでか)

 指揮を取っていた郭図は既に自軍の負けが決まったと分かった。

(殿には申し訳ないが。此処は逃げさせてもらおう)

 次の逃亡先は何処にするか考えた所、袁尚の所には仲が悪い審配が居るので駄目だと判断した。

 其処で袁煕か高幹の下に行こうと決めた郭図。

 今ならば、逃げる事が出来ると思い郭図は民に紛れて逃げようと決めた。

 そこら辺に居る民の服を奪おうかと思っている所に流れ矢が飛んで来た。

 その矢は郭図の胸に立った。

「ぶっ、・・・・・・わたしが、こんなところで・・・・・・」

 郭図は口から血を吐きながら、胸壁から落ちて濠へと吸い込まれていった。

 袁譚が討たれ、郭図が落ちたという事が知れ渡り袁譚軍の抵抗は徐々に沈静していった。

 その後、城内の混乱が収まった後、濠に落ちた郭図を捜索した。

 郭図は見つける事は出来たのだが、落ちた際、頭から落ちた為か顔が潰れてしまい誰なのか判別する事が出来なかった。

 落ちる所を見た兵の証言と着ている服と身分を示す物があった為、この死体が郭図なのだろうと判断された。

 その潰れた顔を晒すのは流石に酷と思ったのか、曹操は郭図の遺体は葬るように命じた。

 袁譚の首だけは北門に掛け、その首を見て嘆く者居れば罰すると布告した。

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― 新着の感想 ―
[一言] まさかのパンジャン登場w 袁譚、郭図の主従はあっさり退場コースでしたね。袁尚と袁煕、甥っ子高幹が残っているけれども着々華北制圧へ
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