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諦めが悪い

 曹操軍が渡河を行い第一陣が河を渡り終えた頃には、袁譚軍陣地での争いは沈静化していた。

 既に袁譚は逃亡しており、残った兵も抵抗を諦めて降伏していた。

「呆気ないものだ。袁譚がこうも簡単に負けるとはな。袁紹も草葉の陰で泣いているであろうな」

「そうでしょうな」

 曹操率いる本陣も河を渡り終えて、袁譚軍の状況を聞くなり曹操は嘆いていた。

 郭嘉の返事を聞きつつ、内応に答えた部将達を呼んだ。

 暫くすると、呂曠、呂翔、張顗、馬延、梁岐の五将とその後ろに男性が一人居た。

 曹操は自分の前に来た者達を見ていたが、最後の一人を見て首を傾げた。

(この者、何処かで見た覚えがあるような気がする?)

 何処で会ったかなと思いつつ見ていると、隣に居た郭嘉がその者に声を掛けた。

「おお、辛毗殿ではないかっ」

「郭嘉か。久しいな」

「知り合いか?」

「はい。辛評殿の弟の辛毗殿にございます」

「・・・ああ、お前が話していた。そう言えば、袁譚の使者として、許昌に来たな。お主」

「はっ。覚えて頂き恐縮です」

 曹操は以前、辛毗が袁譚の使者として許昌に来た事を思い出した。

「お主の事は郭嘉より聞いている。どうだ? その才、我が下で使う気はないか?」

「・・・はっ。身に余る光栄にございます」

 曹操が勧誘すると、辛毗は頭を下げて曹操に仕えると言った。

(兄者。言われた通りにしましたぞ)

 頭を下げつつ、鄴にいる辛評に言われた通りにしたと思う辛毗。

 辛毗が頭を上げると、曹操は呂曠達を見た。

「よくぞ、我が下に来てくれた。文に書いてあった通り、お主等の身分は保証するぞ」

 曹操が呂曠達にそう告げると、呂曠達は安堵の息を漏らした。

「加えて、呂曠と呂翔の二人には列侯の爵位を与える」

 曹操の宣言を聞いて、呂曠達は驚きの声をあげた。

「ありがとうございますっ」

「これより、丞相の為に粉骨砕身の思いで働きますっ」

 呂曠と呂翔の二人は曹操に感謝の言葉を述べながら頭を下げた。

 そして、呂曠達を下がらせた。

 その場には曹操と郭嘉と辛毗の三人だけ残った。

「丞相。お聞きしても良いでしょうか?」

「何だ?」

「呂曠と呂翔の二人は武勇は優れておりますが、人品卑しいです。爵位の最上位を与える程の者ではないと思います」

「だが、そんな二人でも降伏すれば高い地位に就く事が出来る。そうと分かれば、他の者達も降伏しやすいであろうな」

 辛毗の疑問に曹操は笑いながら答えた。

(成程。丞相は袁家の勢力は出来るだけ取り込むつもりなのだな)

 辛毗は曹操の腹をそう察した。

 であれば、自分の兄も降伏すれば助けて貰えるかも知れないと思い、一縷の希望を持つ事が出来た辛毗。

 そして、降伏した兵を自軍に組み込んだ曹操軍は鄴へと進軍した。


 袁譚が曹操軍に破られたという報は直ぐに鄴に居る辛評の下にも届けられた。

「何と、殿は負けただとっ⁉」

「はっ。敗残兵を纏めて、鄴へと向かっております」

「承知した。出迎えの準備をして待つと殿に伝えてくれ」

「はっ」

 伝令が頭を下げてその場を後にした。

 辛評は直ぐに籠城の準備をしつつ、袁譚の出迎えの支度をした。


 同じ頃。

 鄴の城内にある地下牢。

 その牢の一つに袁尚が入っていた。

 碌に食べ物を食べていないのか、ほっそりとした顔をしており髭はぼうぼうに生やしていた。

 だが、目だけは爛々と輝いていた。

 陰気臭い牢の中で、牢に入っている袁尚は苦々しい顔をしていた。

(くそっ、私はこのまま首を斬られるか。牢で朽ち果てるしかないのか?)

 このままではいられないという思いが胸の中を支配している袁尚。

 一刻も早く牢を出て、袁家の実権を兄から奪い取り曹操と雌雄を決したいと思うのだが、現状では何も出来なかった。

 何も出来ない事が分かっている袁尚はむしゃくしゃしていた。

 そんな折に、牢の前に誰かが立った。

「若君。御無事ですか?」

「・・・・・・審配か?」

 牢の前に来たのは信頼できる家臣の審配であった。

「お主、確か牢の中にいたのでは?」

「知人が牢から出してくれました。若君、今こそ立つ時にございますぞっ」

「なに? しかし、兄上が居るのであろう。どうやって立つのだ?」

「袁譚様は曹操との戦に赴いたそうです。今ならば、鄴を奪い返す事ができますぞっ」

「そうか。良しやろうっ」

 審配の話を聞いて袁尚は立ち上がる事に決めた。

 そして、審配の親戚と知人と審配を慕う兵達が集まり反乱が起きた。

 留守を預かっていた辛評は籠城の準備をしていた為、対処が遅れた。

 城内の重要な拠点を抑えられ、最早城から逃げるしか道が無いと思われた。

(殿から預かった鄴をみすみす奪われて、逃げる事は出来んっ!)

 徹底抗戦すると決めた辛評。

 だが、妻子と辛毗の家族まで巻き込む事は無いと思い、家族達は護衛の兵を付けて西門から脱出させた。

 家族を見送ると辛評は剣を掲げた。

「死にたくない者は降伏せよっ。だが、殿の為に戦う者だけは着いて来るが良い!」

 辛評の檄に応え多くの兵が声をあげた。

 そして、城内に居る審配率いる軍勢とぶつかった。

 最初こそ互角であったのだが、徐々に辛評の軍勢が押し込まれて行った。

 最終的には辛評の軍勢が敗れ、辛評は捕らえられるのであった。

 両軍の軍勢は多くの死傷者を出したが、城内で暮らしている者達も多くの死傷者を出した。

 加えて、失火により多くの家屋が燃え上がっていった。

 だが、袁尚は城内の軍の再編を先に行い、城内の治安については後回しにしていた。

 その為、城内の治安は悪化。

 盗み、殺人が横行して、城から逃げ出す者達が出た。

 その時になって袁尚は城内の治安維持を行いだした。

 だが、行った事は城から逃げ出す者は処刑すると触れ回りながら、衣服などを与えるだけであった。

 食糧を分け与えなかったのは、これから何が起こるか分からないので食糧は備蓄すべきと審配が進言したためだ。

 城内に居る者達は家が焼かれており、食べる物など殆ど無かった。

 腹を空かせても、何も食べる物が無いので悲しそうな顔をするだけであった。

 城内で暮らす民達は、袁紹の統治の時にはこんな事が無かったのにと昔を懐かしんでいた。

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― 新着の感想 ―
[一言] こうしてみると、袁紹って統治者としては大分優秀やったんやな… 人の意見に流されやすくて頑固だけど
[一言] やっぱり袁譚が戻る都、鄴はなくなりそうですね…そして民から怨み買った袁尚もそろって叩き出されるフラグが 辛評も弟が伝手になってくれそうな流れだったのに果たして間に合うかどうか
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