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一歩引いて二歩進む

 曹昂軍が袁尚軍に勝利したという報は直ぐに曹操の下に届けられた。

 伝令が曹操の下に着く頃には、陰安県の攻略はされていた。

 城で一息ついていると、曹昂から送られてきた伝令が来たと聞いて、曹操は大広間にて面会していた。

「ほぅ、五万の袁尚軍を野戦にして打ち破り、援軍として来た審配の軍も撃退したのか」

「はっ。討ち取った兵は一万以上。捕虜にした者達は数千以上。戦利品は武具、馬、旗などが山の様に積まれております」

「そうか。下がって良いぞ」

「はっ」

 伝令を下がるように命じると、伝令は一礼して部屋を出て行った。

「ははは、大戦果ではないか。流石は我が息子だっ。」

 伝令の背を見送ると、齎された報告を訊いた曹操は嬉しそうに大笑していた。

「いや、流石は若君ですな」

「呂布といった癖が強い家臣を見事に統率できているという事ですね」

「確かに」

 その場に居る家臣達も曹操の勝利を称賛していた。

「して、息子は今どうしている?」

「殿は袁尚軍の追撃を止めて、魏県に駐屯しております」

「そうか。てっきり、敵を撃破した勢いに乗って、鄴に攻め込むかと思ったが・・・」

 曹操は曹昂がどうしてそのように動いたのか分からず呟くと、郭嘉が口を開いた。

「恐らく、若君は袁尚の動きを警戒したのではないでしょうか? 今袁尚軍の一部は南皮に居る袁譚を包囲しておりますので。袁尚がその軍と合流して包囲を解いたら、我が軍の後背に襲い掛かって来るかも知れません」

「成程な。良し、此処は一気に袁尚を叩くというのは如何だ?」

「いえ、今は止めておきましょう。包囲している袁尚軍の居る密偵からの報告で包囲軍を指揮している呂曠、呂翔両将軍が辛毗の調略により、包囲軍ごと袁譚軍に寝返りましたので」

「ふっ、それは袁尚に取って大打撃になるであろうな」

「はい。加えて、鄴に潜んでいる密偵からも、耳を疑う報告が齎されました」

「どんな事が起こったのだ?」

「袁尚が参謀の逢紀を此度の敗戦の責任を取るという形で処刑したそうです。加えて、鄴にいる逢紀の妻子一族も処刑されたとの事です」

「確かか?」

「はい。鄴にいる密偵達から同じような報告が齎されているので間違いないかと」

「・・・・・・愚かな事をする。それでは、自分の手足を斬るようなものではないか」

「その通りです。丞相」

 曹操が袁尚の行いに呆れていると、郭嘉も同意とばかりに頷いていた。

「だが、これで袁尚は軍の立て直しに時間が掛かるであろう。此処は一気に鄴に攻め込むべきだな」

 曹操は進軍の準備を取るように命じようとしたが、郭嘉が止めた。

「丞相。今、鄴を攻めれば、勝っても負けても我々は不利となります」

「何故そうなる?」

「南皮に居る袁譚が我等の隙を虎視眈々と狙っているからです」

「・・・・・・ああ、そうなるか」

 郭嘉の指摘を聞いて曹操は納得した。

「援軍と合流しようとした袁尚軍を撃破した後、軍備を整えつつ我等と鄴に籠もる審配との戦を観るでしょう。我等が破れそうになれば、袁譚は我等を攻撃してくるでしょう。逆に審配の軍が破られそうになった時は、我等の隙を突いて鄴を占領するかも知れません」

「だろうな。ならば、どうする?」

「此処は袁譚に鄴を攻撃させるのは如何でしょうか?」

「鄴を? どうやって攻撃させるのだ?」

「我等が撤退したフリをすれば、袁譚はこれ幸いとばかりに鄴に攻め込むと思います」

「そう、上手くいくかどうか分からんが。それでいくか」

 曹操が郭嘉の献策を採用すると、郭嘉がもう一つとばかりに提案した。

「丞相。今、袁譚の配下には優れた者がおります。この者達に、我等に味方する様に文を送っても宜しいでしょうか?」

「誰に送るのだ?」

「そうですね。王修叔治。辛評仲治。その辛評の弟の辛毗佐治。後は呂曠、呂翔兄弟といった所でしょうね」

「うん? 郭図はどうした?」

「あやつは止めた方が良いと思います。私の遠縁で袁紹に仕えるまでは親しくしていましたが、目端が利くものの、欲深く立てた策を台無しにする男です。その様な者を家中に置いても百害あって一利無しでございます」

「そうか。では、袁譚と共に討ち取っても良いのだな」

「はい。問題ありません。郭図を加えるぐらいなら、呂兄弟を配下にした方が遥かに良いです」

「分かった。調略はお主に任せる」

「ありがとうございます」

「ところで、お主と辛兄弟は親しいのか?」

「はい。私と辛評は同郷で同じ県の生まれで、十五歳年上の友人なのです。ですので、その性格も分かっております」

「そうか。では、任せたぞ。ついでに、鄴の方にも何か揺さぶるような事をしろ」

「承知しました」

 調略を郭嘉に任せた曹操は家臣達に述べた。

「曹昂に伝令を送れ。黎陽まで後退しろ。我等も黎陽に向かい、曹昂軍と合流する」

「「「はっ」」」

 曹操の命に従い家臣達は進軍の準備に取り掛かった。

訂正

本作では辛評の生年は170年→160年。

辛毗は175年→165年とします。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 辛毗はともかく、辛評は袁紹軍の出ると負けな疫病神と一緒に審配を陥れようとしたりとアレだからなあ…… 辛評を味方にすると、逢紀一族の件で袁尚から心が離れるフラグが立ちそうな審配の離反…
[一言] 郭嘉、やっぱり有能。曹操陣は勇将・将軍も豊富ながら史実以上に参謀団が充実してすばらしい。戦況に応じてタイプ別に参謀使えそう。 郭嘉さんが病むほど働かせずにいけるような気もする。これからも曹昂…
[一言] 郭嘉の死が響いたのが、最後まで祟ったので、死なせないように動いて欲しい。 袁兄弟を上手く捕殺できればいいのだが。
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