まず、落すのは
十数日後。
河北に放った間者は許昌に戻って来た。
戻って来た間者達は直ぐ様に曹操に報告に向かった。
「そうか。戦況は袁尚が有利か」
「はっ。袁譚麾下には王修、郭図、辛毗、辛評、劉詢、管統とおりますが。王修、郭図、辛毗、辛評は参謀で、武将は劉詢と管統しかおりません。対する袁尚麾下には審配を始めとした蘇由、張顗、馬延、梁岐、呂曠、呂翔と言った武将が揃っており、兵の数も袁尚の方が多いので負けるのも仕方がない事でしょう」
「将も足りず、兵も足りずでは流石に負けるであろうな」
「はい。袁譚軍は敗れ続け、袁尚率いる軍は燎原の火の勢いで袁譚が居る南皮に迫っているそうです」
思っていたよりも袁譚の勢力は負けているなと曹操は思いつつ、他の報告を訊く事にした。
「幽州と并州はどうなった?」
「両州で起きた反乱はようやく沈静化したようです。ただ、冀州で起きた反乱だけは未だに鎮圧も沈静も出来ていない様です」
「そうか。報告ご苦労であった。下がれ」
間者を労った後下がらせた曹操は荀彧達を呼んだ。
暫くすると、荀彧達が曹操の居る部屋に集まった。
「丞相。お呼びとの事で参りました」
荀彧が頭を下げて一礼すると、他の者達も倣った。
「うむ。お主等の意見を聞きたくてな。袁譚と袁尚との争いだが。袁譚が負けている様だ」
曹操は間者から聞いた報告を簡単に荀彧達に教えた。
「左様でしたか。まぁ、我々からしたら、勢力が拮抗して争いが長引けば長引くほど有利になるのですが。そう上手くいかなかった様ですな」
話を聞いた程昱が顎髭を撫でながら、仕方がないとばかりに首を振る。
「であれば、兵を出すのは急ぐべきでしょうか?」
荀攸がそう訊ねるのを聞いた曹操が荀彧を見た。
「もう暫く兵馬を休ませれば、問題なく戦をする事が出来ます」
荀彧がそう言うのを聞いて曹操は頷いた。
「では、兵を出すとしたらどうします? 袁譚の救援に向かいますか?」
郭嘉が兵を出すのであれば、どうするのかと訊ねて来た。
「それでは袁尚軍を打ち破る事は出来ても、鄴などの重要な土地を落とす事が難しくなりますな。丞相、此処は黎陽に攻め込むのが良いと思います」
賈詡がそう進言するので、曹昂もその意見に乗った。
「わたしも賈詡殿の意見に賛成です。南皮県に兵を送るよりも、黎陽を攻略するのが良いと思います」
賈詡と曹昂が同じ意見なのを聞いた荀彧達も問題無いのか頷いたので、曹操も頷いた。
「良し、それでいくぞ。準備に取り掛かれ」
「「「はっ」」」
曹操の命令に従い曹昂達は行動を開始した。
それから数十日後。
兵馬の疲れも取れたので、兵の準備を進ませる曹操。
其処に袁譚からの使者がまたやって来た。
袁譚が籠もる南皮県が袁尚軍に包囲されて、奮戦しているが城は風前の灯火。直ちに援軍を求めると使者は述べた。
「ははは、安心せよ。直ぐに袁尚軍を追い払ってやる。それまで耐えよと袁譚に伝えよ」
「は、はいっ。殿にそう申し上げます!」
曹操が兵を出すと告げたのを聞いて、使者は喜んだ顔をしていた。
使者が袁譚に報告する為にその場を後にすると、丞相府を出て自分の屋敷へと向かった。
屋敷に入ると、自分の妻子を呼び河北に出陣する事を告げた。
暫く屋敷に戻らないと言うと、丁薔が。
「分かりました。御家の事はお任せを。ですが、旦那様を世話する者も居るでしょう。蓮」
「はい。姉さん」
丁薔が卞蓮を呼ぶと、卞蓮は返事をするなり頭を下げた。
「蓮。貴女は旦那様に付いて行きなさい。世話を欠かさない様に」
「お任せを」
丁薔が卞蓮にそう言うと、卞蓮は承知とばかりに頷いた。
「えっ? いや、遠征だから付いて来なくても」
「出先で子持ちの人妻とか未亡人を見つけて持って帰るくらいならば、蓮が世話をした方が良いでしょう」
曹操は付いて来なくても良いと言おうとしたが、丁薔が笑顔でそう言った。
曹操は言葉を詰まらせた。
(これは、まだ根に持っているな……)
曹昂が宥めたので大丈夫かと思ったが、これは当分機嫌が悪そうだと察する曹操。
「では、旦那様。御武運を」
「う、うむ。後は頼んだぞ」
丁薔が頭を深く下げたのを見て、曹操は返事をした後屋敷を後にした。
曹操は総勢十万の兵を率いて北へと出陣した。