旦那は大変だ
その夜。
曹操の屋敷を後にした曹昂は自分の屋敷に戻っていた。
屋敷に戻った曹昂は疲れ切った顔をしていた。
「疲れた……」
曹操との約束の為とは言え、怒れる丁薔と卞蓮を宥めるのにとても時間が掛かったからだ。
最終的には乳液を百本ずつ提供する事で怒りを宥める事に成功した。
もっと早く言えばよかったと帰路に就きながら思った曹昂。
ようやく、屋敷に着き自分の部屋で一息をついた。
曹昂が安堵していると、部屋に董白が入って来た。
「義父上の屋敷に行ったって聞いたけど、何か疲れてないか?」
「……色々とあってね」
疲れた顔をしている曹昂に董白は不思議そうに声を掛けて来るので、曹昂はあまりに話すのが呆れた事なので、言葉を濁した。
「ふ~ん。大変だったんだな」
曹昂の顔を見て、色々とあったんだと察した董白は何も訊かない事にした。
そう話しつつ、曹昂が座っている長椅子に腰を下ろした。
そして、曹昂に肩を寄せる。
「子供は?」
「乳母に預けて来た。だから、大丈夫だよ」
董白は曹昂に甘えるように身体を寄せて来た。
身体がくっつき、そのまま顔を近付けたら口づけが出来そうな程に近かった。
「……あのさ」
「うん?」
「子供が一人じゃあ寂しいからさ、もう一人くらい欲しいな・・・」
董白は顔を赤くしながらそう言うのを聞いた曹昂は可愛いなと思いながら、董白の肩を抱いた。
「ふふっ、そうだね」
曹昂は笑みを浮かべつつ、董白の顔に自分の顔を近付けていく。
後少しで唇と唇が重なるという所で。
「あら、先客がいた様ね」
部屋の仕切りの方から声が聞こえて来た。
その声を聞いた董白は飛びあがらんばかりに驚き、顔を赤らめつつ曹昂から離れた。
「程丹じゃないか。何か用かい?」
部屋に入って来たのが程丹だと分かり、曹昂は何かあったかなと思い訊ねた。
「いえ、父がそろそろ孫の顔が見たいとか、老い先短い老人の頼みだからと言うので、今日は旦那様が居るので床を共にしても良いかと思いまして」
「程昱か。老い先短いとか言うけど、あの人はまだまだ長生きしそうな気がするけどね」
曹昂は丞相府で会った時の程昱の姿を思い出しながら呟く。
「とは言え、父としては早く孫の顔が見たそうです。私としても、父には色々と迷惑を掛けて来たので、叶えてあげたいと思います」
そう述べた程丹はチラリと曹昂を見た。
その視線を見て、これは誘われているのだなと思った曹昂。
曹昂としては乗っても良かったのだが。
「う~~~」
曹昂の隣に居る董白が程丹を睨みながら唸っていた。
絶対に譲らないと言っている様であった。
そんな董白を見て、程丹は笑顔で手を叩いた。
「旦那様。今日は二人一緒に可愛がって下さい」
「「はい?」」
程丹がそう言うのを聞いて、曹昂と董白は目を点にしていた。
曹昂達が困惑してる隙にとばかりに、程丹は曹昂達が座っている長椅子に腰を下ろした。
「良いではないですか。旦那様が初の徐州遠征の行く数日前に、蔡琰と一緒に夜を共にしたではないですか」
程丹が面白そうに笑いながら言う。
「あっ、思い出した。色々と忙しくて忘れていたけど、その事について訊こうと思っていたんだ⁉」
程丹の話を聞いて思い出したのか董白が声をあげた。
「あれは、その……」
それも色々とあったとしか言えないなと思う曹昂。
「まぁ、それよりも可愛がって下さい」
「あっ、てめえ、抜け駆けすんなよっ」
程丹が曹昂に抱き付いたのを見て、董白も慌てて抱き付いた。
翌日。
曹昂は部屋を出て、顔を洗おうとしたら貂蝉に出会った。
貂蝉は曹昂と会うなり「昨日はお楽しみでしたね」と笑いながら言った。
目が全く笑っていなかったので、曹昂は背筋を震わせた。
曹昂が何か言う前に、貂蝉は一礼して離れて行った。
(……後で何か持って行こう)
曹昂は顔を洗うと、厨房に向かい何品か作った後、貂蝉の部屋に行き機嫌を直すように頑張った。
数日後。
丞相府に冀州の南皮県に居る袁譚からの使者として辛毗と名乗る者が来ていた。
使者曰く、袁尚の勢い激しく袁譚様が城に籠もり何とか堪えているが、何時落ちるか分からない。救援を求めると。
使者の話を聞いた曹操は直ぐに兵は送れないが、代わりに救援物資を送る。兵を送るまで耐えよと辛毗に伝えた。
話を聞いた辛毗は曹操の言葉を伝える為に一礼して離れて行った。
曹操は直ぐに救援物資を送る様に命じた後、河北の情報を手に入れる為に間者を放った。