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方針の変換

 陳登が孫権軍を撃退した数日後。


 曹操率いる軍が広陵郡に到達した。

 詳しい話を聞く為、陳登が居る射陽県に入った。


「そうか。よくぞ孫権を撃退した。陳登」

「はっ。お褒め頂きありがとうございます」

 城内の大広間にある上座に座る曹操は陳登から孫権襲来から撃退の経緯を聞いた曹操は陳登の手腕を称えた。

 陳登は礼を述べ頭を下げた。

 そして、頭を上げるなり何かを決めたような顔をしていた。

「つきましては、また孫権が攻め込んで来るかも知れませんので、このまま服喪していられません。ですので、丞相」

「皆まで言うな。職務復帰したいと言いたいのだろう。都に帰った後は私が陛下に上奏しておこう」

「ありがとうございます」

 陳登が礼を述べるのを聞きながら、曹操は内心で溜め息を吐いていた。

(これは方針を変えねばならないな・・・)

 曹操の中では袁紹が死んだので、袁家では内紛状態に入ると思われた。

 その内紛が終わるまでは、袁家は何処かに攻め込むという事は出来ないだろうと予想していた。

 曹操としてはその間に劉表に攻め込んで領土を広げるのも手だと思っていた。

 曹昂に同盟を結ばせようとしているが、それは劉表の目を欺く為であった。

 準備が整い次第、適当な名分を立て荊州へ攻め込もうかと思っていたのだが、今回の孫権が侵攻してきた事を鑑みて曹操は考えてしまった。

 もし、劉表へ攻め込んでいる時に孫権と同盟を結び、また広陵郡に攻め込んで来たらと。

 劉表は孫権の父の仇ではあるが、劉表が倒れれば孫権も自分の身が危ういと思い手を結んでもおかしくはなかった。

 そうなれば、二方面に敵を抱えるという事になる。それは流石にまずいと思う曹操。

(呉越同舟という言葉もあるからな。このまま劉表と同盟を結び、孫権を牽制させるとしよう)

 そう考えた曹操は劉表と孫権よりも先に河北を片付ける事に決めた。

「丞相。私は兵の準備が整い次第、揚州に攻め込みます」

「そうか。徐州から攻め込むという事は九江郡に攻め込む事になるか」

 袁術討伐の折りに九江郡の一部を手に入れたが、その地に居た揚州刺史は孫策が死んだ折りに起きた混乱で死んでしまった。

(陳登の揚州侵攻する際の手助けになるかもしれんからな。都に戻ったら、荀彧と相談して誰か推薦してもらうか)

 曹操は都に戻ったら荀彧と相談しようと決めると、陳登が申し訳なさそうな顔をしながら述べた。

「私が揚州に侵攻している間、孫権は船で広陵郡に攻撃してくる事も考えられます。ですので、何処かに広陵郡の太守に相応しい者はいないでしょうか?」

「お主の配下にはおらんのか?」

「残念ながら」

 陳登は首を振るので、曹操は誰か居るかと考えていると、部屋にいた臧覇が前に出た。

「私の部下で若いが胆略で見通しが利き、器量も備えた優秀な者がおる。その者を太守にしたらどうであろうか?」

「ほぅ、その様な者がおるので。会ってから太守にするかどうか決めても良いでしょうか?」

「別に構わん」

「では、広陵郡の太守を誰にするかは陳登に任せる。もし、臧覇が推薦した者が目に適わないのであれば、私に文を送るが良い」

「承知しました」

 陳登が頭を下げ、話しが終わった曹操は立ち上がった。

「もうこの地に用は無い。都に帰るぞ」

 曹操はそう言った後、兵糧などを調達した後、許昌への帰路に着いた。


 同じ頃。


 荊州南陽郡穣県。


 曹昂は城内にある一室である人物と面会していた。

「お久しぶりです。徳珪様。お変わりないようで何よりです」

「子脩様もご壮健そうで何よりです」

 曹昂と対面していたのは以前、荊州に来た際に知り合った蔡瑁であった。

 曹昂は劉表に文を送っていた。

 文の内容は同盟を結びたいので、誰か穣県に送って欲しいと書かれていた。

 文を送って暫くすると、蔡瑁が三千の兵を率いてやって来た。

 その報告を訊いた曹昂は直ぐに蔡瑁達を城内に入れて、蔡瑁を部屋に通した。

「此度、父の代理として参りました。そちらにも悪い話ではないと思います」

「はっ。文の内容では同盟を結びたいとの事ですが」

「はい。父は皇族であられる景升様と事を構えるつもりはありません。ですので、同盟を結びたいのです」

「話は分かりましたが、具体的にはどの様な内容にするので?」

「そうですね。互いの領地を攻め込まない事、そちらは朝廷に貢物を送る事を約束してくれるのであれば、南陽郡の安衆からは北は我等の土地とし、其処から南は景升様の領地といたしますが、如何でしょうか?」

 曹昂の提案を訊いた蔡瑁は少し考えた。

(悪くはないが。私一人で決めても良い話では無いな)

 そう思った蔡瑁は「一度、殿に文を送りたいと思います」と言うと、曹昂は構わないとばかりに頷いた。

 蔡瑁は一礼し部屋を出た後、部下に命じて文を書かせて劉表の下に送った。

 暫くすると、劉表に送った使者が戻って来た。

 使者には文が持たされていた。

 文には「全ての条件を受け入れる」と書かれていた。

 文を読み終えた蔡瑁は溜め息を吐いた。

 少し前にようやく荊州南部四郡を再び支配下に置く事が出来た。

 これから、荒れ果てた土地の復興と法の整備などしなければならない。その間、治安維持の為に兵を送らねばならなかった。

 その為、今の荊州には何処かと戦争する余裕など無かった。

 蔡瑁は直ぐに曹昂の下に赴き劉表の返事を聞かせた。

「それは良かった。では、後の事は使者を送って話し合うという事で良いでしょうか」

「はい。そちらが使者を送って下されば、正式に同盟を結ぶ事になります」

 蔡瑁の話を聞いて、曹昂は満足そうに頷いた。

 そして、荊州と聞いて一つ思い出し訊ねた。

「そう言えば禰衡はどうしておりますか?」

「ああ、あの者でしたら、今は黄祖の元におります」

 蔡瑁の話を聞いた曹昂は禰衡の所在を聞いて、そろそろ死期が近いなと思った。

(確か、黄祖を馬鹿にして殺されるんだよな。何と言うか変人らしい最期だよな)

 そう思いはするが、曹昂は禰衡を助ける気は無かった。

 その後、曹昂は許昌への帰路に着いた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 三国志の正史と小説の逸話が使われていて面白い作品です。登場人物も現代の価値観と当時の価値観が程よく混ざっていて読みやすい作品になっていて何度も読み返しました。 [気になる点] 方針の変換 …
[一言] 禰衡は泳いでないと死ぬマグロみたいなものよね
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