一応報告する
洛陽に寄り劉吉達と合流した曹昂は数日掛けて、許昌に到達した。
劉吉達を屋敷に送り届けた後、曹昂はそのまま丞相府へと向かった。
門を守る衛兵に取次ぎを頼むと、少し待ったが直ぐに通された。
謁見を行う部屋に通された曹昂。
上座に座る曹操は不満げな顔をしていた。
(何か気に入らない事があったのかな?)
曹操の顔を見るなりそう思いつつ、曹昂は頭を下げた。
「父上。曹昂ただいま戻りました」
「ああ、帰ったか。それで首尾は?」
何時になく性急に訊ねて来るなと思う曹操に曹昂は司馬懿の処遇について話した。
「ほう~、司馬懿はお前の食客になったか。私の招聘には応じなかったというのにか・・・」
話を聞き終えた曹操はとても不満そうな顔をしていた。
自分の招聘には応じず、訪ねて来た曹昂の頼みに応えたので不満に思うのも無理ない事であった。
そんな曹操を宥める様に曹昂は述べた。
「まぁ、今は仕官したくないと思っている様ですが。その内、心変わりするかも知れませんので、その時に推挙すれば良いと思います」
「ふん。生意気な。まぁ、許昌に居るのだからその内、推挙する事もあるか」
曹操はそう言って自分を納得させる様に言った。
「父上。そろそろ、春になります。劉備には何時頃戦を仕掛けるのですか?」
今後の事を考えて、南陽郡に劉備が居るのは面倒な事が起こると予想できた。
なので、早々に討つか追い出すかすべきであった。
「戦の準備は整いつつあるのだが、少々問題があるのだ」
「どの様な問題があるのですか?」
曹操が困った様に言うので、曹昂は何かあったのかと思いながら訊ねた。
「実はだな。劉備達が居る穣県には夏侯淑姫が居るのだ」
「・・・・・・ああ、そう言えばそうでしたね」
曹操がそう言うまで、その存在をすっかり忘れていた曹昂。
「下手に攻めてあやつが死ぬ事になれば、流石に夏侯淵は黙っておらんだろう」
「確かにそうですね」
「其処で、戦を仕掛ける前に淑姫の返還を求めるつもりだ」
「向こうは応じるでしょうか?」
「それは分からんが。出来るだけ、弁が立つ者が良いな。それでいて、劉備達と親しい者だな」
唸る曹操が出す条件を訊いた曹昂も唸った。
そして、二人は暫し唸っていたが、曹昂は良い人物を思い出したのか手を叩いた。
「徐州の陳珪などは如何ですか?」
「陳珪か。悪くない人選だな。劉備が徐州に居た頃は親しくしていた様だからな。それに、劉備が陳珪を見るなり殺したとしても、特に問題無いからな」
陳珪は今は何の役職にも就いていないので、殺されたとしても特に問題は無かった。
あるとすれば、陳珪の子の陳登がどう思うかであった。
「では、直ぐに陳珪を都に呼び寄せるとしようか」
「それが良いと思います」
曹操の決定を訊いた曹昂はその場を後にした。
部屋を出た曹昂は曹操が不機嫌な理由が気になったので、調べる事にした。
結果、青州を手に入れる事は出来たのだが、人材集めが上手くいかないので苛立っているという事が分かり、曹昂は肩を竦めた。
(太史慈と諸葛亮か。この二人は部下にするのは難しいな。太史慈は忠誠心が厚いし、諸葛亮に至っては荊州に居るからな。劉表にバレない様に使者を送って勧誘するしかないからな)
これで曹操の勢力下にある土地であるならば、曹操自身が向かうべきだと言うのだが、敵の領地に向かうなど自殺行為であった。
(それよりも、他の所に声を掛けた方が良いだろうな。呉は粗方声を掛けたから。次は)
益州方面だなと思う曹昂。
五斗米道の伝手を使えば、誰かしら応じるのではと思い、屋敷に戻ると直ぐに文を認めて、張魯に文を送った。