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その頃、冀州では

 時を遡り、袁紹軍が曹操軍に敗北した頃に戻る。

 


 建安五年(西暦200年)十月。

 闘いに敗れた袁紹軍は曹操軍の追撃を受けていた。

 逃げる袁紹軍の将兵の背に容赦なく刃が振り下ろされ討ち取られて行く。

 または、黄河に落ちて溺死する者達も居た。

 中には縄を打たれて捕虜の身になる者も居た。

 曹操軍の追撃だけではなく、野犬か落ち武者狩りの農民に襲われて死ぬ者まで居た。

 その様に多くの犠牲を出しながらも、袁紹軍の将兵達は逃亡し続けた。

 何とか、青州内に入る頃には生き残った兵は二十万を切っていた。

 生き残った将兵達は鄴に戻る前に、青州を統治している袁譚の元に向かい敗戦の報告をした。

 袁譚は報告を訊くなり、驚いて席を立った。

 兵力差から考えてもまず負ける事は無いと思っていたからだ。

 だが、蓋を開けてみれば惨敗であった。

「若君。殿の行方が分からぬ今、此処は青州の州境の守りを固めるべきです」

「そうであるな」

 無事に逃亡できた郭図は袁譚にそう進言した。

 進言を訊くなり袁譚は直ぐに州境に兵を送り、自分も向かう事を部下に命じた。

 部下が命令を行う為に部屋を出て行くと、袁譚は郭図に訊ねた。

「郭図。父上は無事であろうか?」

「そればかりは分かりません。ですが、殿が居ない間は袁家は若君いえ袁譚様が治めるべきです」

「確かに。長子である私が父の代わりに家を治めるのは道理だな。だが、此度の敗戦で青州の州境は不安定だ。安定するまで、私が治めねばならん」

「ご安心下され。この私が殿の代理は袁譚様が務めるべきだと、鄴に居る者達を説き伏せましょう」

「うむ。頼んだぞ」

「はっ」

 そう話し合いを決めて、二人は部屋を出て行った。

 郭図は生き残った将兵達と共に鄴に向かった。


 同年。十一月初旬。

 冀州魏郡鄴県。

 城内では悲しみと怨嗟の声に満ちていた。

 袁紹率いる四十万の大軍が敗れ、袁紹は行方不明。多くの将兵が討ち取られたという報が届いたからだ。

 城内に居る者達は、親が、子が、友が、恋人が、夫が無事である事を祈っていたが、敗残した袁紹軍の兵達が城内に入ると、それらの姿が無い事に落胆した。

 郭図を含めた他家臣達が一緒に袁紹が居ない間、留守を預かっている審配と袁尚に報告した。

「父上が、行方不明だと・・・・・・」

 郭図達の報告を訊いた袁尚は思わず膝をついてしまった。

「若君。お気を確かに」

 愕然としている袁尚に審配は労わるように声をかけた。

「ああ、済まぬ。それで、本当に父上はどうなったのか分からぬのか?」

「はっ。我等は敵の追撃から逃げるので精一杯でして、殿を見つける事が出来ませんでした」

 袁尚が確認の為に訊ねると、郭図は申し訳なさそうに答えた。

「・・・・・・急ぎ捜索隊を編成しなければ」

「いいえ、若君。今は殿の無事よりも、国内の安定を図るのが先です。殿が居ないとなれば、各地で暴れている者達の勢いが増す恐れがあります」

「しかし、父上はどうするのだ?」

「殿が捕まったのであれば、曹操の事です。大々的に捕まえた事を布告する筈です。それをしないという事は、まだ捕まえていないという事でしょう。此処は一刻も早く国内を安定させて、その後で殿を探しましょう」

「うぅむ。郭図、お前はどう思う?」

 袁尚は郭図に意見を求めた。

「此処は審配殿の申す通りでしょう。今、捜索隊を出せば、反乱を起こしている者達はこれ幸いとばかりに勢いを強め、この鄴にまで侵攻してくるかもしれません。此処は素早く反乱を鎮圧し、その後で殿を探しましょう」

 参謀の郭図がそう言うのを聞いて、袁尚は審配の意見に従う事にしたが。

「ただ、その場合ですと、誰が殿の代わりにこの四州の地を統括するのかという事になりますな」

 郭図がそう述べると、審配が代わりに答えた。

「そんなものは決まっているだろう。殿がこの冀州を顕甫様に預けた。即ち、袁顕甫様こそが、殿の代わりを務めるべきであろう」

 審配はこれは当然とばかりに言うが、郭図が首を振った。

「いやいや、父が居ない場合は子が代理を務めるのは分かりますが、その場合であれば長子が代理を務めるのが道理。であれば、此処は袁顕思様こそが相応しいでしょう」

「何を言う、貴様⁉」

「それはこちらの言葉」

 審配と郭図が睨み合うと、その場に居る家臣達も袁尚派か袁譚派に別れた。

 ちなみに、家臣達の中で袁煕を推す者は一人も居なかった。

 数日程すると、袁譚が青州境の防衛を部下に任せ、鄴にやって来た。

「父上が行方不明だという話は聞いている。ならば、父上が不在の間は、長子であるこの私が父上の代理を行うべきであろう」

 袁譚は長男なのだから当然だろうと述べるが、袁尚が真っ向から反対した。

「長子であるからと言って、父上の代理を行う権利が何処にあるのだ! むしろ、兄上よりも私を父上は可愛がっていた。ならば、私が代理を行っても問題無いだろう」

「弟の分際で出しゃばるな!」

 袁譚と袁尚の二人は口角泡飛ばす程の口論を始めた。

 元々兄弟仲が良くなかった所為か、しまいには取っ組み合いの喧嘩にまで発展した。

 家臣達が慌てて、二人の間に割り込んで喧嘩を止めさせたが、二人の仲は冷める一方であった。

 その間も各地で起こっている反乱は鎮圧されず、被害を増すばかりであった。

 そして、幾日か経ったが、相変わらず袁譚と袁尚の二人は互いに歩み寄ろうとはしないで、自分が代理を担うとばかりに意見をぶつけていた。

 そんな話し合いの最中、会議が行われている部屋に兵が駆け込んで来た。

「も、申し上げます。今、城内に・・・・・・」

「なにっ⁉」

「な、なんという事だ・・・・・・」

 兵の報告を訊いた室内に居る者達は言葉を失っていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] この時点で一致団結できていれば袁家もまだまだチャンスはあったと思う。まあ、出来ないんですけどね。
[一言] 大負けした戦いが終結していないから、責任を取る立場になるけど取合いになるのが権力の不思議ですね
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