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攻め込むのはなぁ

 数日後。

 

 蔡陽率いる八千の兵が、劉備が籠もる穣県に辿り着いた。

 対する劉備軍は野戦ではなく城に籠もっていた。

「敵は籠城するようですな」

「ふんっ。守りを固めて、我等が攻め疲れてきた頃を見計らって攻め込むつもりか。だが、そうはさせん」

 蔡陽は兵を四つに分けた。

 内三つは城の北門、西門、東門を攻撃する部隊。

 残りの一つは本隊と予備戦力を兼ねた部隊とした。

「城を包囲した後に、総攻撃を仕掛ける」

「はっ」

 蔡陽の命に従い、兵達は城の包囲に掛かった。

 そして、包囲が完了すると同時に蔡陽軍の兵士達は本隊の蔡陽の元に伝令を送った。

「北門の包囲完了しました」

「西門包囲完了しました」

「東門の包囲完了致しました」

 伝令の報告を訊いた蔡陽は馬上で手を振り下ろした。

 と同時に太鼓が叩かれた。

 二度轟音が響いた後、各門を包囲していた蔡陽軍の兵達は城に突撃した。

 弓を持っている者は矢を射かけ、他の者達は梯子か板を持って怒声をあげて城へと突撃していた。

 城壁に居る劉備軍の兵達も敵を近付かせぬとばかりに、矢を放つ。

 矢が飛び交う戦場で、悲鳴と喊声が響いた。

 両軍の兵達は矢が突き刺さり倒れて行く。

 城を守る劉備軍の兵達の数が少ない為か、蔡陽軍が放つ矢の数に比べると少なかった。

「此処が踏ん張り所だ。奮戦せよ!」

 各門を守る孫乾、麋竺、糜芳の三名はそう叫びながら兵達を励ましていた。

 ちなみに、南門を守っているのは簡雍であった。

 劉備軍の兵達は懸命に守る事で、蔡陽軍の攻撃を何とか防いでいた。

 梯子を掛けられても、石を落とすか槍で突いて兵の侵入を防いでいた。

 懸命に城を守る劉備軍を本陣から見ている蔡陽はほくそ笑んでいた。

「ふふふ、無駄な足掻きを。所詮は一時しのぎだ。このまま攻勢を続ければ、向こうも守るのが難しくなるだろう」

 蔡陽は攻撃している各門に援軍を送り、攻勢を強めさせた。

 そのお陰か、城壁に掛かる梯子が増えて行き、梯子を上っていく兵も増えて行った。

「くくく、もう少しで城を落とせるな」

 このまま攻めれば城を落とせると思った蔡陽は後は劉備を捕らえて、首を斬るか許昌に届けるだけだと思っていた所に。

「報告! 後方より砂塵が上がっておりますっ」

「なにっ⁉」

 その報告を訊いた蔡陽は後方を見ると、砂塵が二つ上がっていた。

 その砂塵を上がっている所には、それぞれ旗が上がっていた。

 一つは廖。もう一つは龔と書かれた字の旗が掛かっていた。

 そして、その旗を掲げた一団は蔡陽軍の後方に襲い掛かった。

「敵の伏兵かっ」

「数は然程多くない様です」

「小癪な。本隊に残っている戦力を迎撃に当てよっ」

「はっ」

 蔡陽の命令により、本隊を形成する兵の半分が後方から襲い掛かる部隊の迎撃に向かった。

 その為、蔡陽が居る本隊は五百騎程しかいなかった。

 後方で戦闘が行われると同時に、北門の城門が音を立てて開かれた。

「おおっ、ついに城内にまで達したか。良し、開けられた城門から城内へ攻め込め‼」

 城門が開けられたので蔡陽は西門か東門を攻撃している部隊が城内に入ったのだと思い、北門を攻撃している兵達に命じた。

 その命令に従い、兵達は城内に入り込もうとしたが、城門から騎兵数百騎が出て来た。

「退け退け! この蛇矛の切れ味をその身で味わいたいか⁉」

 騎兵の先頭に居る者が怒声を上げながら持っている得物を振り回した。

 その駆けて来る騎兵の先頭にいる者を見た蔡陽は声を上げた。

「此処で張飛だと⁉」

 後少しで城を落せるという所で、城門から張飛が攻め込んで来るのを見た蔡陽は自分の守りを固めさせた。

 だが、張飛の前には、その守りはあまりに脆かった。

 張飛は蛇矛を振るい敵を打ち倒していった。

「あの者を討ち取れ! 討ち取れば、丞相に奏上して恩賞を渡すぞ!」

 蔡陽は攻め掛かって来る張飛を見て、兵達を奮起させようと声をあげた。

 恩賞に釣られたのか、兵達は目に色を変えて張飛に向かって行った。

 欲の皮が突っ張った兵達は張飛に向かっていく中で、その横を通り抜ける数十騎の兵が居た。

「蔡陽、覚悟せよ!」

「貴様、劉備っ⁉」

 自分に向かって来る劉備を見るなり、蔡陽は目が飛び出しそうな程に驚いていた。

「大将自ら攻め込むとは浅はかなり。此処で討ち取ってくれるっ」

「お主に出来るか⁉」

 蔡陽は驚いたものの、直ぐに劉備を討ち取れば曹操から恩賞をたんまり貰えると思い、馬を駆けさせた。

 そして、蔡陽と劉備は剣戟を交えた。

 十合ほど交えたが、劉備の一撃が蔡陽の得物の槍の棒を切り裂き、蔡陽を袈裟懸けに切り伏せた。

「敵将蔡陽、劉備が討ち取った‼」

 劉備が名乗りを上げると、劉備軍の兵達は歓声をあげた。

 そして、蔡陽軍の兵達の士気は下がり逃げ出し始めた。

「敵を逃がすな! 追撃せよ‼」

 劉備が血で濡れた剣を掲げて、追撃を命じると、城からも兵が繰り出していき、逃げる蔡陽軍の兵達に襲い掛かった。



 同じ頃。

 豫洲汝南郡陽安県。

 其処には曹昂が居た。

 汝南郡の反乱もほぼ鎮圧出来たので、情報の整理の為に陽安県にいたのだ。

 上がって来る報告を訊いていた所に蔡陽の甥で部将をしている秦琪が面会を求めて来たので、曹昂は会う事にした。

 そして、秦琪は面会するなり、曹昂に蔡陽が穣県に出陣した事と、曹昂にも加勢する様に命じられた事を伝えた。

「穣県に攻め込むか……」

 話を聞いた曹昂は目を瞑り考えていた。

「何卒、お願い致します」

「……気持ちは分かるが、今から出陣してもな」

 もう季節は十一月に入っていた。

 これから寒くなる時期なので、兵站の確保が難しくなる。

 加えて、兵の士気の低下も考えられた。

(それにもう一つ懸念があるんだよな……)

 二つの問題に加えて、穣県へ出陣するという事は荊州の劉表を刺激する可能性があった。

 荊州南部にいる桓階からの文では、反乱を起こした張羨が病に倒れたとの事だ。

 病状は良くなる見込みは無く悪化しており、張羨の代わりに息子の張懌が指揮を取っているが、戦況は悪化しているとも書かれていた。

(これはその内、反乱は鎮圧される)

 文の内容からそう確信する曹昂。

 であれば、劉備を攻撃して劉表が出て来るような事態は控えた方が良いなと思った。

 加えて官渡の戦いは曹操軍が勝利したという報告も曹昂の元に届いていた。

 その際、袁紹を討ち取ったとも聞いていた。

 これにより、冀州は跡目問題で揉めると予想できた。

(反乱を鎮圧して国力は落ちているが、健在な劉表が居る荊州を獲るよりも、跡目問題で揉めている河北四州を奪った方が良い)

 そう考えた曹昂は劉表を刺激するのは控えた方が良いと思った。

「申し訳ないが、この城に居る兵はそう多くない。方々に散っている我が軍が戻るまで、加勢に行く事は出来ない」

「そうですか……」

 今は援軍を送るのは無理だと曹昂が言うと、秦琪もそれ以上、何も言わなかった。

 秦琪は曹昂に一礼した後、その場を後にして蔡陽の元へと戻って行った。

 数日後。

 曹昂の元に、蔡陽が劉備に討たれ、率いていた軍の多くは討ち取られるか捕まるか逃げたという報告が齎された。

「捕まらなかった兵は何処に行ったのか分かるか?」

「はっ。逃げた兵の多くは蔡将軍が拠点にしていた魯陽県に戻ったです。数は三千程だそうです」

「……将が居ない以上、誰か将を送り込むべきか。今、この城に将は居るか?」

 曹昂が傍にいる劉巴に訊ねた。

「殿以外ですと、李通様だけにございます」

「李通殿は汝南郡を守ってもらう必要があるからな。仕方がない、此処は私が向かおう」

「殿がですか。しかし、今いる配下の者は劉辟だけです」

「そうだな。李通殿の家来で見所が居る者達が二人いたな。その者達を借りよう」

「その者達の名は?」

「確か・・・趙儼と陳到とか言ったな」

「分かりました。李通殿に貸して貰いましょう」

「頼む」

 曹昂は劉巴に命じた後、天井を見上げた。

(秦琪も魯陽県に居るのかな? まぁ、行ってみたら分かるか)

 直ぐに曹昂は出立の準備に取り掛かった。

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