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口八丁

 蔡陽は五十騎の兵を率いて、部下の報告にあった不審な馬車の一団を見かけた所に向かった。

 砂塵を巻き上げながら進んでいくと、件の馬車を見つけた。

 人目を避けて行動したいのか、馬車は普通の道ではなく人が通らない道を進んでいた。

 その馬車の一団の少し離れた後方まで着くと、蔡陽は深く息を吸った。

「其処の馬車の一団‼ 停まれぃぃぃ‼」

 馬上で大声をあげる蔡陽。

 大地を踏む馬蹄の音で消されないように大きな声を出した事でか、馬車は足を止めた。

 馬車の周りにいる護衛達も馬の足を止めた。

 馬車の足が止まった事で、蔡陽達は追い付いて馬車を囲む。

 馬車を守っている護衛達は兜を深く被っているので、顔が見えなかった。

「殿。これでは逃げられません」

「慌てるな。此処は黙って、向こうの話に合わせよう」

 護衛の者達は包囲されながらヒソヒソと話していたが、蔡陽達の耳には届かなかった。

 蔡陽が馬に乗ったまま、近付くと護衛の一人に訊ねた。

「お主等、何用でこの地に参ったのだ。用向きを教えよ‼」

 馬上で居丈高に言う蔡陽。

 護衛の一人が答えるかと思われたが、馬車の天蓋が開き其処から女性が顔を見せた。

「どなたかは存じませんが、私は夏侯一門の者で淑姫と申します」

「やや、夏侯一族の姫でありましたかっ。失礼いたしました」

 顔を見せた人物が夏候惇の一族の者だと知り、蔡陽は慌てて馬上から降りて一礼した。

 蔡陽の部下達も蔡陽に倣うように一礼した。

「して、姫君はこの地に何用で参ったのですか?」

 蔡陽の問い掛けに、淑姫は少し躊躇った後、答えた。

「故郷の沛国譙県に居る親戚の元に訪ねようとしていたのですが、通っている最中、汝南郡で反乱が起きたと聞きまして迂回して進んでいたのです」

「譙県にですか?」

 淑姫の説明を聞いて、首を傾げる蔡陽。

 別に沛国に向かいたいのであれば、南陽郡を通らなくても陳国を通って行けば良いだけであったからだ。

 夏侯一門の者だと名乗っているが蔡陽では真偽を確かめる事が出来なかった。

 取り敢えず、自分が拠点にしている魯陽県まで付いて来てもらい、その存在の真偽を確認しようと思う蔡陽。

「此処は危ないので、ひとまず」

 そう蔡陽が話している最中、何処からか矢が放たれた。

 放たれた矢は蔡陽の部下にあたり、落馬させた。

「何者だ‼」

 部下が倒れるのを見るなり、蔡陽と部下達は得物を構えた。

 すると、隠れていたのか武装した集団が姿を見せて怒声をあげて蔡陽達に襲い掛かった。

 その集団が着ている服は汚れて粗末な上に裾は擦り切れており、持っている得物もボロボロであった。

「山賊か、内乱の残党か分からんが迎え撃て‼」

 蔡陽が号すると、その部下達は得物を振るい喊声をあげて襲い掛かる集団を迎撃した。

 剣戟の音が響き渡り、悲鳴と怒声がその場を支配した。

 集団を迎撃する為にか、馬車の包囲の一部が手薄となった。

「今だ! 逃げるぞ!」

 護衛の一人がそう言うと、馬車と共に手薄となった所を強引突破した。

「なっ、貴様等っ、何処に行くつもりだ⁉」

 蔡陽が呼び止めるが、馬車の一団は足を止めなかった。

 蔡陽も今は襲い掛かる集団を迎撃するのが先だと思ったのか、馬車の事は一度放っておき、襲い掛かる集団を全滅させた後に追い駆ける事にした。


 蔡陽が集団と戦闘している頃。

 道無き道を進む馬車の一団は全速力で駆けていた。

「追手は?」

「今の所見えませんっ」

「どうやら、あの集団の相手に忙しく、こちらに追手を出す余裕は無かった様ですな」

 護衛達はそう話しながら兜をかぶり直した。

 それにより、護衛達の顔が見えた。

 護衛達は劉備、簡雍、孫乾の三人であった。

「危ない所であった。もう少し捕まる所であったな」

「はい。後はこのまま穣県に向かうだけですな」

「もう少しで張飛殿に会えますよ。殿」

「うむ。そうだな」

 孫乾が励ますように言うと、劉備は深く頷いた。

 そして、劉備達はまた進み続けたが、その道の前にみすぼらしい格好をした集団が待ち構えていた。

 その集団は全員、手に剣か槍を持っていた。中には弓矢を持っている者も居た。

 集団は道を塞ぐように居るので、このまま進み続ける事は無理であった。

 かと言って、道を変える事は無理であった。

「どうします? 殿」

「・・・・・・此処は私に任せよ」

 簡雍が突破するかどうか訊ねると、劉備がそう言って馬と共に進んだ。

 その集団から数歩離れた所で止まると、劉備は訊ねた。

「お主等、我等の道を塞ぐのは何のつもりだ⁉」

 劉備が声を張り上げながら訊ねた。

 すると、その集団から一人前に出て来た。

 二十代後半で頭に黄色い布が巻かれていた。

 整っていない口髭を生やし、中肉中背で平凡な顔立ちであった。

 頭に黄色い布が巻かれているので、黄巾賊か?と思いながらその男を見る劉備。

「お前が何者か知らんがっ、命が欲しければ金と持っている物を置いていけ!」

 男がそう叫びながら、持っている剣の切っ先を劉備に向けた。

 それを聞いた劉備は山賊か思いながら話をしだした。

「お主等、山賊の様だな・・・・・・」

 劉備は男の周りに居る者達を見た。

(ざっと見て、数百人はいるな)

 これだけいれば、戦力にはなるなと思い劉備は語りだした。

「お主等、このまま山賊のままで一生を終えるつもりか?」

「なに?」

「もっと、大きな志を持って天下に雄飛しようというつもりは無いのかっ」

「・・・・・・え?」

 劉備にそう言われて、男達は首を傾げるしかなかった。

 その後、劉備は自分の名前を名乗り、これから向かう所は義理の弟が籠もっている城だと言う事。

 そして、いずれ自分は天下を取るという事を強く語っていた。

「お前達はこのまま山賊として一生ビクビク怯えながら生きるつもりか? そんな獣の様な一生を送るくらいならば、私に付いて来い‼ 私と共に天下を取ろうぞ‼」

 劉備が説得してくるので、男達は互いの顔を見合わせていた。

「どうします? 頭?」

「…………」

 山賊達の一人が男にそう訊ねた。

 訊ねられた男は暫し考え込んでいた。

 少しすると、男は劉備の傍まで来るとその場で跪いた。

「劉備様の大志に胸が打たれました。この廖化元倹。劉備様に忠誠を誓いますっ」

 男こと廖化がそう宣言するのを聞いて、山賊の部下達は歓声を上げて喜んだ。

 その後、劉備は廖化達を連れて簡雍達の元に戻って来た。

 劉備は廖化を紹介し配下にすると述べると、簡雍達は山賊を連れて行っても良いものかと思ったが、今は一人でも手勢が欲しいので連れて行く事に賛成した。

 その後、廖化は自分の拠点に戻り残りの部下達を連れて戻って来た。

 総勢五百人の手勢と共に廖化は劉備と共に行動を共にする事となった。

 新たに廖化達を加えた劉備達は張飛が居る穣県へと向かった。

 本作に出てきた廖化の生年は174年とします。

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― 新着の感想 ―
[一言] ここにきて生かす方向性にベクトル動かしまくっていますね。 このまま再結成。そして一勢力として再台頭するのでしょうか? それより、そもそも子脩さんはこうなるのは十分に読めていたでしょうし、そ…
[一言] ことごとく神(作者)が劉備を生かし殺させないw
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