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閑話 遺言

 袁紹と曹操が争っている中。


 揚州の孫策は袁紹と同盟を結び、曹操と敵対する事に決めた。

 州内の反乱の鎮圧が終わり次第、軍勢を持って曹操が支配している州に攻め込む予定であったが。

 未だに、各地に派遣した将達は戻ってこなかった。

「ええいっ。各地に派遣している諸将達はまだ戻らんのか⁉」

 曲阿県の城内の一室で孫策は兵に怒鳴りながら訊ねた。

「はっ。未だに鎮圧できていないと報告が来ております」

 兵の報告を訊いた孫策は目を尖らせながら何事か言おうとしたが、何か思い立ったのか目を瞑り息を吐いた。

「・・・焦らせても仕方がない。各将達には出来るだけ早く鎮圧し戻って来る様に使者を送るのだ」

 焦って兵を減らす様な愚行をすれば、曹操との戦いで敗れるかも知れないと思った孫策は兵に出来るだけ早く戻って来いと伝える事にした。

「はっ。承知しました」

 兵は一礼すると、その場を後にした。

 表情こそ落ち着いているが、腹の中では怒りの炎が渦巻いている孫策。

 気晴らしに酒でも飲もうかと思っている所に、警備の兵が孫策の元に来た。

「申し上げます。仲謀様が参られました」

「孫権が? 通せ」

 弟が来たと聞いた孫策は部屋に通すように命じた。

 兵が一礼した後、部屋を出て行くと孫権を連れて来た。

「では」

 兵はそう言い、一礼し部屋を出て行った。

 兵が出て行った後、孫権は孫策に一礼した。

 髭は生やしていないが、顎が張って、口が大きく、瞳にはキラキラとした光があり堂々とした風采の持ち主であった。

 瞳も水色であった。

(どう見ても、二十代にしか見えんが。こいつはこれで十代なんだよな)

 孫権を見ていると、常々そう思う孫策。

「兄上?」

「何でもない。それで、何の用だ。孫権」

「お忙しいと思いましたが、少々お話ししたい事があり参りました」

「ほぅ、何の話だ?」

「袁紹と同盟を結んだそうですが、良いのですか?」

「曹操を討つ為には必要な事だったのだ。それの何が問題ある?」

 孫策の答えに、孫権は拳を握り締めた。

「・・・お忘れですか? 袁紹は劉表と同盟を結んでいるのですよっ」

 怒り混じりの声でそう訊ねる孫権。

 訊ねられた孫策も直ぐに返事をする事が出来ず、言葉を詰まらせていた。

 孫策・孫権兄弟にとって、劉表は父孫堅の仇であった。

 今も荊州の江夏郡に攻め込み、郡の半分を征服していた。

「兄上。袁紹と曹操が戦っている間に、我等は荊州に攻め込むのです。さすれば、父の仇を討つ事が出来る上に荊州を手にする事が出来ます。揚州と荊州を手にすれば、曹操にも袁紹にも勝る勢力を持つ事が出来ますっ」

 孫権は自分なりの意見を孫策にぶつけた。

 話を聞いていた孫策は直ぐに孫権が何を言いたいのか分かった。

「袁紹との同盟を解消し、荊州に攻め込むべきと言いたいのか?」

「はい。その通りです」

 孫策が孫権の代わりに言うと、孫権がその通りとばかりに頷いた。

「それも一つの手ではある。だが、領地が増えた所で、朝廷は曹操が掌握している。我等が領地を増やしたところで、曹操に逆賊に仕立てられれば、瞬く間に失うぞ?」

「そうかも知れません。然れど、曹操の領地に攻め込んで攻略に失敗する可能性もありますが、私の案は失敗する事は無いと思います」

「私が曹操に負けると言いたいのか?」

 孫策はギロっと孫権を睨んだ。

 刃の様に鋭い視線を受けても孫権はどうと思ってもいなかった。

「いえ、そうは言いません。ただ、そういう可能性もあると思い述べただけです」

「ふんっ、まぁ、お前の気持ちも分からんでもない。だが、もう決めた事だ。変更するつもりはない」

 孫策がキッパリとそう告げると、孫権は孫策の意思が固いと見て、これ以上の説得を諦めた。

「分かりました。では、これで」

「待て。孫権」

 一礼し部屋を出て行こうとした孫権を呼び止める孫策。

「まだ、何か?」

「お前は私が失敗するかもしれないと言ったな?」

「はい」

 孫策の問い掛けに、孫権は頷いた。

「では、私が遠征で死ぬかもしれないという事だな」

「兄上。何という不吉な事を」

 孫権は言葉を続けようとしたが、孫策が手で止めた。

「まぁ、聞け。私が死んだ場合は、お前が後を継ぐだろう。我が子孫紹はまだ幼い。だから、私が死んだ場合、お前が継ぐしかないだろう」

「・・・・・・確かにそうですが」

「その時は家臣達と協力し家を盛り立てるのだぞ。外交で困った事があれば周瑜に相談しろ。内政だと・・・・・・誰か頼る者は居るか?」

 孫策がそう訊いて来るので、孫権は返事に困っていた。

「我が家は武官が多いので、文官よりも武官の発言力が強いですからね・・・」

 困ったものだと思う孫権。

「まぁ、私が死んだ場合は、内政はお前が頼りにする者達に頼ると良い」

「・・・出来れば、そうならないと良いのですが」

「ははは、そうだな」

 其処まで話した後、孫権は部屋を出て行った。


 数日後。

 孫策が暗殺された。

 そして、孫権は家臣達と話し合い、孫家は孫権が継ぐ事となった。

(兄上。本当に話していた通りの状況になりましたよ)

 孫権は兄孫策が座っていた上座に座り、政務を行っているとふとそう思った。

この話で第10章は終わりです。

次話から第11章となります。

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― 新着の感想 ―
[一言] 曹昂の引き抜き工作はほんまエグイとこついてますねぇ…武官も引き抜くけれども有能な内政、文官をごっそりスカウト、FAさせまくって孫呉も成立しないやろなぁ。揚州、南部諸豪族帯みたいになりそう
[一言] フィクションに於ける遺言は、ある種の死亡フラグですので。
[一言] 呉の内政の中心人物がいない。 張昭、顧雍をはじめとする人材がいないと厳しい。
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