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472/1003

この戦いが終わるまでは

 関羽が曹操の居る官渡の城に戻って間もない頃。


 曹操が自分用に使っている一室の中で、自分の下に荀彧から送られた文を読んでいた。

 その文には夏侯淵の姪である淑姫が都の外に出て行方不明。劉備の夫人達も同じという事が書かれていた。

「むっ・・・これは困った事になったな」

 夏侯淵の姪が行方不明になった事よりも、劉備の夫人達の行方が分からない事に困った声を上げる曹操。

 曹操の下にも張飛が南陽郡にある一つの県を占領したという報告は届いていた。

 劉備の夫人達にも同様の話がその耳に届いていたとしても、正直な話どうにもできないだろうと予想していた。

 夫人達が居る館に見張りも警備の兵も置かなかったのは、都を逃亡するにしても門から出なければならなかった。

 門を守る兵達には劉備の夫人達の似顔絵を渡しておいてある。

 なので、もし逃亡を図ろうとしても門に阻まれるだろうと思っていた。

 しかし、どの様な手段を使ったのか分からないが、劉備の夫人達は都から脱出したのであった。

「・・・・・・どんな手段を使ったのか分からんが、夫人達が居ないのであれば関羽が我が下に居る理由が無くなるな・・・」

 もし、夫人達が居ない事を知れば捜しに出ると言い出しかねなかった。

「何処に行ったのかは明白。恐らく、張飛の元に向かったのであろう。捜しに行く事は構わんが、せめてこの戦が終わるまで待って欲しいものだ」

 関羽が劉備から守るように言われた夫人達が居なくなったので捜しに出ると言えば、曹操も駄目だと言えなかった。

 曹操のお陰で官位に就いた関羽だが、正式に曹操の部下になっておらずあくまで食客であった。

 なので、曹操の下から離れたいと言われれば拒否できなかった。

 だが、現状では戦は長期に及んでいた。そんな中で、関羽程の武勇を持っている者が戦陣から離れては士気に関わる事であった。

「…取り敢えず、この戦が終わるまでは、この件は伏せておこう」

 関羽もこの陣に居るのだから、恐らく劉備の夫人達が都に居ない事を知らないのだろうと思い曹操はこの件は暫く伏せる事にした。

 届いた文を誰にも見られない様に破き、火を付けて完全に消した。

「殿。そろそろ、軍議のお時間です」

「分かった」

 部屋の外に居る護衛の典韋がそう声を掛けて来た。

 曹操は返事をすると、そのまま天幕を出て行った。

 

 部屋を出た曹操は大広間に入った。

 既に家臣達は部屋におり、曹操が来るのを見ると皆頭を下げて一礼した。

 曹操はそのまま進み、上座に座る。

 そして、近くにいる荀攸に目を向けた。

 荀攸は頷いた後、立ち上がった。

「では、これより軍議を行う」

 荀攸は厳かに言った後、近くに広げている地図に持ってる棒を当てた。

「袁紹軍と我が軍の睨み合いが始まって数ヶ月となりました。敵軍の兵站路は甘寧殿の活躍により断たれており、陣地に運び込まれている様子は無いそうです」

 袁紹軍に兵糧が運び込まれていないという報告を訊いても、武将達は良い顔をしなかった。

「では、敵が飢えた様子を見せないのは何故だ?」

 戦っていないとは言え、敵軍同士が睨み合っているのだ。散発的な小競り合いは起こっていた。

 そんな中で、袁紹軍の兵達は飢えた様子を見せていなかった。

「恐らく、敵軍は事前に大量の兵糧を運び込んでいたのでしょう。そうでなければ、敵は痺れを切らして攻め込んで来る筈です」

 荀攸の分析に家臣の皆は納得した。

「対する、我が軍は許昌から届く兵糧の兵站路は袁紹軍により脅かされておりましたが、甘寧殿が時折、敵の後方拠点を襲ってくれるので、不定期ですが兵糧が届けられます。加えて、任峻殿が輸送部隊の防衛を強化した事で袁紹軍が我が軍の輸送部隊を攻撃しなくなりました」

 その報告を訊いても、家臣の皆は喜ばしい顔をしていなかった。

 甘寧から送られてくる兵糧も、許昌から届けられる兵糧もどちらもそう多くはなかった。

 飢えはしないが、何とか食いつないでいるという状況であった。

「殿。このまま持久戦が続けば、我が軍の兵糧が尽きるやもしれません」

「確かにそうだが。だが、此処は踏ん張りどころであろう。此処は耐えるしかなかろう」

 曹操は耐えるしかないと言うが、其処で賈詡が口を挟んだ。

「私見ですが、このまま持久戦が続けば、我が軍の将達の中から良からぬ事を考える者が出るかも知れません」

「良からぬ事だと?」

「はっ。殿に勝ち目は無いので袁紹に寝返ると考えるやもしれません」

 賈詡の一言でその場は騒然となった。

「何を、馬鹿な事をっ」

「命欲しさに殿を裏切るなどっ」

 と家臣達は賈詡を睨みつけた。

「静まれ」

 家臣達の気が立っているので、曹操は一声を掛けた。

「お前達の気持ちは分かるが、賈詡の言葉はあくまでもそういう事も考えられるという事だ。そうであろう」

「はっ。その通りにございます」

 賈詡は頭を下げた。

「だが、荀攸。現状城から出て勝つ可能性はあるか?」

「限りなく低いかと。敵は我が軍よりも多く、士気も高い。その敵軍が守っている陣地に攻め込んだとしても、陣地を打ち破るのは難しいかと」

「そうか。今の所、打つ手なしか・・・」

 曹操は溜め息を吐いた。

 その後も、良い意見が出なかったので、軍議は解散となった。

 部屋に戻った曹操は一筆認めて、人を呼んでその文を持たせた。

 文を渡された者は城を出立すると、そのまま南下していった。

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[一言] 張飛に嫁がせといて存在忘れてるの草
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