表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

471/1004

すれ違う

 曹昂達が豫洲で治安改善に努めている頃。


 都である許昌では、多くの流民が来ていた。

 劉辟が汝南郡にて暴れた事で、住処を無くした者達が都にも押し掛けていた。

 皆着る物を碌に持たない状態で、門を守る兵士に尋問を受けていた。

 そこでする事は通行証を持っているかいないかを聞き、持っているのであればそのまま通し、持っていないのであれば屯所に向かい詰問を行い、其処でも怪しいと分かれば拷問を行い素性を問い質すという事を行っていた。

 兵達は都に入ろうとする者達の中で、二人の男性が居た。

 着ている服は裾はボロボロで、破れた所もあるのに修繕されていなかった。

 流石に寒いのか、寒さ対策の為か汚れた布を頭から被っていた。

「良し、行って良いぞ。次」

 兵がそう言って並んでいた者達は都に入って行った。

 そして、ようやく男達の番となった。

 頭から布を被っているので顔が見えないので、兵達は少し警戒していた。

「通行証は持っているか?」

 兵の問い掛けに、男の一人が答えた。

「は、はい。こちらに・・・」

 そう言って手に持っている符を取り出した。

 兵は持っている符を男が差し出した符と合わせた。

 二つの符はピッタリと重なった。

「問題ないが、行く前にその前に顔を見せろ」

 兵がそう言うと、男達は身体を震わせた。

 その反応を見て兵達は不審に思った。

 誰か呼ぶべきかと思っている所に、男の一人が兵に近付いた。

「別に私共は怪しい者ではありません。どうか、このままお通しを。これは気持ちです」

 そう言って男は兵達の手に何かを握らせた。

 兵達はその握られた物の感触で思わず顔がにやけた。

「良し。行ってよし」

 兵が通って良いという許可を貰い、男達は兵達に礼を述べて門を潜った。


 門を潜った男達は暫く沿道を歩き、路地に入った。

 其処でようやく被っている布を退けた。

「何とか都に入る事が出来たな・・・」

 そう言うのは袁紹の元に居た劉備であった。

「はい。後は奥方様方が何処にいるのか調べるだけですね」

 そう答えたのは簡雍であった。

 袁紹から暗殺命令が下された後、劉備は逃亡して州境で簡雍と運良く合流出来た。

 その後は袁紹が放った追手に見つからない様に山に隠れ、野原で眠り粗末な物を食べながら逃亡し続けた。

 そのお陰で、何とか豫洲にまで辿り着いた。

「此処に妻達が居ると聞いた。妻達を助ければ、関羽も私の元に戻って来るであろう」

「大丈夫でしょうか?」

 劉備は自信ありげに言うが、簡雍は不安そうな顔をしていた。

「大丈夫だ。関羽と私は桃園で義兄弟の契りを交わし生死を共にすると誓ったのだ。必ず来るっ」

「分かりました。私が奥方様方が何処にいるのか調べます。殿は適当な所で身を休めて下され」

 そう言った簡雍は懐から袁紹の元から逃亡する時に持って行った金を全て劉備に渡した後、一礼し出て行った。 

 劉備は布を被り直し、取り敢えず服を手に入れ宿で身を休ませる事にした。

 

 二日後。


 劉備が泊まっている宿に簡雍がやって来た。

「殿。奥方様方を見つけましたぞ」

「おお、でかした」

「警備の兵はおりませんでしたが、昼行けば目立つかも知れません。此処は夜になってから向かいましょう」

「そうだな。ああ、ようやく妻達に会えるな・・・」

 劉備はようやく妻達に会える事に喜んでいた。

 簡雍もそんな劉備を見て喜んでいた。

 主従は喜びながら酒を交わした。

 

 その夜。


 夜の帳に包まれている中で見張りの兵に見つからない様に進む劉備達。

 暫く歩いた後、簡雍がある館を指差した。

「此処です」

「此処がそうか」

 簡雍が指差した館を見る劉備。

 既に夜遅いので、門は閉じられているが警備の兵が立ってはいなかった。

「正面から行っても開けてもらえるか分かりません、塀をよじ登りましょう」

「それが良いな」

 簡雍の提案に劉備は素直に従った。

 劉備達が塀がある所まで行くと、簡雍が四つんばいになり劉備がその背に乗り塀をよじ登っていく。

「済まんな。お前を踏み台にして」

「お気になさらずに」

 劉備は流石に悪いと思ったのか謝りの一言を言うと、簡雍は特に気にした様子を見せなかった。

 そして、劉備が塀に手を掛けて登りきると、簡雍に手を差し伸ばした。

 簡雍はその手を取り塀を昇った。

 二人は庭に入ると、物陰に隠れつつ館を見た。

 誰か外に出て来ないかなと思い見ていると、二人の思いが通じたのか孫乾が出て来た。

 関羽が居ない間は孫乾が代わりに、二人の夫人の側に着く事になっていた。

「……殿も関羽殿も張飛殿も今は何処におられるのだろうか……」

 夜空を見上げながら溜め息を吐く孫乾。

 憂鬱そうな表情を浮かべていると、庭の隅から何かが動く音が聞こえて来た。

「誰だ⁉」

 孫乾が誰何の声を上げると、劉備達が姿を見せた。

「私だ。孫乾」

「と、と、殿‼」

 劉備の姿を見た孫乾は目が飛び出しそうな程に驚いていた。


 孫乾は直ぐに劉備達を館に通して、夫人達を呼んだ。

 そして、劉備は久しぶりに会う夫人達と涙を交わしながら抱き締め合った。

 麋夫人を抱き締めていると、ふと後ろを見た。 

 其処には張飛の妻である夏侯淑姫の姿があった。

「・・・・・・お、おおお、お主は淑姫ではないか。久しいのう」

「お、お久しぶりです。義兄上様」

 少し面食らった劉備であったが、取り敢えず挨拶を交わした。

 淑姫の方もまさか劉備に出会えるとは思っていなかったので驚いていた。

 淑姫は張飛の妻であったという事で、劉備の夫人達は一応義理の兄嫁に当たる存在であった。

 その為、何か理由をつけて会いに来たり、贈り物を届けたりしていた。

 夫人達も淑姫の事は妹同然に思い何かと可愛がっていた。

「殿も御無事で何よりです。これで、関羽殿と張飛殿が居れば、最早文句もありませんな・・・」

 孫乾は涙を流しながら、その光景が見れる事を楽しみにしている風に言った。

「おお、そうだ。関羽だ。孫乾。お主に聞きたい。関羽は曹操に降ったと聞いたが、真か?」

「・・・はい。真にございます」

 孫乾がそう認めるのを聞いて、劉備は衝撃を受けていた。

「ですが、それも奥方様達を助けるが為にございます。関羽殿は心ならずも曹操に降ったのです」

「そうか、そうであったかっ」

 孫乾が降った理由を述べると、劉備は安堵した表情を浮かべていた。

「殿。このまま、この地に居れば曹操に見つかるかも知れません。此処は南陽郡へと逃げましょう」

 簡雍がそう提案して来た。

「南陽郡? 何故だ?」

「私が奥方様達を探している時に、噂で南陽郡の県の一つを張飛が占領したと流れておりました」

「おお、本当かっ」

「はい。何処の県かまでは分かりませんが、現地に行けば分かると思います」

「そうか。良し、南陽郡へ向かうとしよう」

「お待ちを。どうやって、この都から出るおつもりか?」

 劉備が南陽郡へ向かおうと言うと、孫乾が止めた。

 人質である劉備の夫人達を逃がす事など誰もさせないだろうと直ぐに分かったからだ。

 孫乾の意見に劉備達は唸った。

 皆、どうしたものかと頭を捻っていると。

「私に考えがあります」

 其処に淑姫が手を挙げた。

 その話を聞いた劉備達は賛成し、直ぐに準備に取り掛かった。


 数日後。

 天蓋が欠けられた一台の馬車が都の門へと向かっていた。

 護衛として兜を深く被った三人の兵士がその馬車に寄り添っていた。

 門まで来ると、馬車の足が止まった。

 門を守る兵達が馬車に近付いて行く。

「何者か⁉」

 兵の一人がそう訊ねると、馬車から淑姫が手で帳を開けた。

「わたしは夏侯一門の淑姫です」

「夏侯一門のっ。失礼いたしました」

 兵達は慌てて一礼した。

「して、本日はどの様な用事で外に出るのですか?」

「親戚の葬儀で故郷に向かう事となりました。此処に割符もあります」

 そう言って淑姫は手に持っている割符を見せた。

 兵の一人がその割符を受け取り、自分の割符と合わせた。

「・・・・・・どうする?」

「相手は夏侯一族の者だし、下手に楯突けば後々面倒だからな・・・」

 兵達は通すべきか話し合った。

 割符は問題無いので、通しても問題無いと言えた。

「通しても良いんじゃないか?」

「・・・・・・そうだな。オホン、お通り下さい」

 兵達は通しても問題無いと思い、門が開けられ淑姫達は通された。

「お勤めご苦労様です」

 淑姫は門を潜る際、兵達にそう言って通って行った。

 そして、門を潜り終え暫く進んだ後で、護衛の兵士達は兜を脱いだ。

「ふっ、どうにか通り抜ける事が出来たな」

「はい」

「いやぁ、無事に通り抜ける事が出来て良かったですな~」

 兵士達は劉備、孫乾、簡雍の三人であった。

 そして、三人は馬車を見た。馬車の中には淑姫だけではなく、劉備の夫人達も居た。

 淑姫の提案は自分が何かしらの理由をつけて都を出るので、その時に一緒に出ようという事であった。

 更には劉備達の正体が露見しない様に、鎧兜まで用意してくれた。

「これで問題無く南陽郡に行けるな」

「はっ。ところで、曹操から送られてきた財宝を残して良かったのですか?」

「あれは、関羽が曹操から貰った物だ。義兄とは言え、私が貰っては義が立たぬであろう」

「左様ですか」

「それに、置手紙だけあれば関羽も直ぐに来てくれるであろう」

「関羽殿であれば、そうでしょうな」

「であろう。よし、我等は南陽郡へと向かうぞっ」

 劉備が号令を下すと、南陽郡へと向かう。


 同じ頃。

 関羽は丁度、許昌の側に来ていた。

 曹昂の命令で曹操の下に向かう途中であった。

 其処で関羽は馬の足を止めて考えた。

「ふむ。曹操殿の元に向かう前に、奥方様方に一言挨拶した方が良いか?」

 長く側を離れているので、心細くされていないだろうかと思った関羽。

 挨拶をした方が良いかと思ったが、直ぐに首を振った。

「兄者がおらなければ、私がどれだけ元気づけても無駄であろう。此処は曹操殿の元に向かうか・・・」

 そう思い直した関羽は北上を再開した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 468話の劉備のボヤきを見て劉備と関羽の間に(劉備から一方的な)決裂フラグが立ったかと思ったけど、フラグを立てるにはまだ足りなかったか……
[一言] ザルぅ!と言いたいが、パッパよりも悪辣息子曹昂にしたら色々関羽を曹操陣に正規登用される策に使いそう。 関羽が劉備との契りを見限る決定的な展開期待したいw
[一言] 三毒はいそうだし、張飛の嫁の動きはどうなんだろうね?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ