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黄河の戦い 前

 袁紹軍と曹操軍が睨み合う中、鄴から兵糧を運搬する部隊が黎陽に辿り着いた。

 黎陽は以前、甘寧の攻撃により完全に破壊されていたが、何とか再建が出来ていた。

 城壁や城の設備を優先的に再建していた為、城内の家などは手つかずで何も建てられていない土地が多かった。

 その黎陽を守っているのは蔣義渠と言い、袁紹軍の部将の蔣奇の親戚であった。

 城の倉の中には、米や塩漬けにした肉や麦などが山の様に積まれていた。

 蔣義渠は自ら目録をつけていき、どれがどれだけあるのか詳しく調べていた。

 其処に陽武に居る袁紹から伝令が来た。

 その伝令は口頭で陽武に兵糧を送って欲しいと蔣義渠に伝えた。

 命令を受けた蔣義渠は直ぐに部隊と兵糧を準備し、近くの港に繋いでいる船に運ばせた。

 袁紹が布陣している陽武は黄河の向こう側にある上に、濮水と陰溝水のそれらの河に近いので船で運んだ方が良いと郭図が進言し、袁紹も受け入れたため兵糧をそのように運ぶ事となった。

 数日程すると、港にある船に兵糧がうず高く積まれた。

 護衛の兵達も船に乗り込むと、舫が解かれ船が陽武へと向かった。


 その数日後。

 蔣義渠の元に驚くべき報告が齎された。

「申し上げます。河を渡っている途中で、敵の水軍の襲撃を受けました。兵糧は焼かれるか奪われ、護衛していた兵達も逃げるか討ち取られました‼」

 兵糧を運んでいた船に乗っていた兵が傷だらけの身体でそう報告して来た。

「なっ、敵に水軍が居ると言うのか⁉」

「は、はい。船には曹の字の旗が掲げられてました。他には甘の字の旗も」

「甘? 何処かでその名の将を聞いた覚えが・・・・・・」

 蔣義渠は思い出そうと、頻りに頭を振った。

 其処に側にいた部下が告げた。

「恐らく、この黎陽を落とした甘寧という者では?」

「おおっ、思い出した。そうだ。何でも、鳳爆糞とかいう物を使ってこの城を落としたとか聞いたな」

 他にも空から攻撃を受けたとか、空から槍が振って来たという話を蔣義渠は聞いていたが、負けた者が腹いせに嘘八百を並べ立てただけだろうと思い聞き流していた。

 だが、どの様な方法であれ、甘寧という者が兵を率いて黎陽を落とした事は確かであった。

「むうっ、であれば、その者を退けなければ、殿に兵糧を送る事は出来ぬな・・・・」

 黎陽の対岸に渡り陸路で送るという方法もあるが、其処は曹操の勢力圏に入っていた。

 その為、襲撃を受ける事は目に見えていた。

「であれば、直ぐに水軍の用意しましょう」

「分かっている。直ぐに準備を」

 蔣義渠は直ぐに部下に命じて黎陽に居る兵と船を調達させた。

 黎陽には兵糧を輸送する為の多くの兵が詰めていたので、直ぐに兵は集める事が出来た。

 その代わりに船の調達に時間が掛かる事となった。


 数日後。

 黎陽近くの港には斥候(せっこう)船十隻。赤馬(せきば)五百隻。先登(せんとう)船五十隻。露橈(ろとう)船百隻。闘艦(とうかん)二百隻。最後に楼船一隻が繋がれていた。

 斥候船はその名の通り水戦において、高い櫓が立てられ、敵の数や陣形などを窺うのに使用され、戦闘時には戦局を見て、味方に正確な状況と指示を伝える役を担う船であった。

 赤馬は水戦に使う小舟の事で、船体に赤い塗料を塗る為そう名前が付けられた。

 ちなみに赤い塗料を塗る理由は、水に沈んでいる船底部分への水からの悪影響を避ける為であった。

 何の対策もしなかった場合、あっという間に多くの水棲生物が船底に付着してしまうのだ。

 そして、船底に大量に生物が付着すると、船自体の重さが増してしまいスピードが落ちるのに加え、船を動かすために余計な動力を消費する羽目になり、舵の部分に付着すれば、船の舵取りにも支障が出て、航行に重大な悪影響を及ぼす。

 赤色の塗料は亜酸化銅を使っている。亜酸化銅は水棲生物が嫌う化学物質であり、これが塗ってあることで船底に寄って来なくなる。

 ちなみに、現代の船にも船底部分に赤色の塗料が塗られている船も存在する。

 先登船は先陣を切る小型の軍船で多くの兵が乗り組み、素早く敵船団に突入し敵の陣形を乱し、機先を制する働きをする。その為、敵船に乗り移るための梯子や投げ縄を搭載していた。

 露橈船は船の側面に櫂が長く突き出した手漕ぎ船。漕ぎ手は板で保護され、櫂のみが出ていたのでこう呼ばれた。

 この船は楼船を守る為の船であった。

 次に闘艦は船上には幾つもの櫓を搭載し、そこから敵の船へ火矢や弓などで攻撃を仕掛ける大型の船であった。

 最後の楼船は指揮官が乗る周囲に板を立て並べて、矢石を防ぐように作られた大型船であった。

 この船は指揮官が乗り込み全体を指揮するため水戦では一番後ろに陣取る。

 そして、その船には蔣義渠が乗り込んだ。

「兵の数は?」

「はっ。全ての船の乗組員と兵を合わせますと、二万となります」

「よし。これだけ居れば十分であろう。出陣だ‼」

 蔣義渠がそう命じると、兵達は直ぐに行動し船を繋いでいる舫を次々に解いていき、港から出港していった。


 司隸河南郡巻県。


 其処に甘寧が配下の兵と共に居た。

 拠点という訳ではないが、この県に居れば、袁紹軍の情報が手に入れる事が出来たので仮の拠点にしていた。

 その県の城に甘寧が黎陽に放っていた密偵が戻って来た。

「お頭! 報告です!」

「馬鹿野郎⁉ いい加減、甘将軍と言え‼」

 報告に来た部下にそう怒鳴る甘寧。

 怒鳴られた兵は頭を掻きながら笑っていた。

「すいやせん。それで、かしじゃなかった。将軍。敵が動き始めましたぜ」

 謝った後、癖で「頭」と言いそうになったが、甘寧が睨むので慌てて言い直した。

「そうか。それで、どれぐらいの兵を動かした?」

「調べた所、二万との事です」

 密偵の報告を訊いて、甘寧の部下達はざわめいた。

「二万か。かなり多いな」

「こっちは五千。流石に厳しいな」

「どうしますか? 将軍?」

 部下達が甘寧を見ながら訊ねて来た。

「何を言っている。迎え撃つに決まっているだろうが。出陣の準備をしろ‼」

 甘寧がそう命じると、部下達は歓声を挙げた。

 数刻後。甘寧は港にある船を全て連れて出陣した。

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