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常道と言えば常道

 櫓が破壊されたという報告を訊いた袁紹は怒りで拳を握り締めた。

「おのれっ、やってくれるっ」

「生き残った者の報告によりますと、敵が作った投石機は動かす事が出来るそうです」

「であれば、河を渡ろうとすれば、その兵器の餌食になるではないかっ」

 櫓の援護が無くなった事に加えて、敵の新兵器により迂闊に攻め込めばその餌食になると分かり、袁紹はどうしたものかと考える。

 其処に郭図が策を述べ出した。

「地上から進むのが難しいのであれば、地下から進むというのは如何でしょうか?」

「地下? 穴を掘って進めというのか?」

「はい。幸いにも、官渡水は水の量こそ豊富ですが、其処まで深くありません。敵もまさか、河の下を掘って攻め込んで来るとは思わないでしょう」

「成程な。良し、直ぐに掘子軍を編制せよ」

 袁紹がそう命じると、直ぐに兵が編成された。

 この掘子軍とは土竜の様に穴を掘る為に作られた部隊であった。

 穴を掘るだけとは言え、袁紹が手を焼いていた劉虞が籠もる易京を落とすのに貢献していた。

 その部隊が鋤を持って穴を掘って行った。

 幾つもの部隊が穴を掘っていくが、その内の幾つかは誤って河底に穴を開けてしまいに、坑内を水で満たしていき、作業していた兵士達を溺死させていった。

 それでも穴掘りは続いて行ったが、曹操軍の密偵がその作業ぶりを見ていた。


 暫くすると、曹操軍が籠もる官渡の城に報告が齎された。

「敵は穴を掘って、地下から攻め込んでくるようだ」

 報告書を読んだ曹操が集まっている家臣達にそう告げた。

「敵は河の下を掘って進んでいる様だな」

「何とも面倒な事をする」

 地下から攻め込んで来ると分かり、どうしたものかと話し出す家臣達。

 其処に荀攸が簡単に言いだした。

「では、こちらも穴を掘れば良いのです」

「馬鹿なっ。こちらが掘って、都合良く敵が掘っている道が見つかると思っているのか⁉」

 夏候惇が穴を掘ると聞いて、敵の部隊を見つける事かと思い言いだした。

 それを聞いた他の者達は流石にそれは無理があると思った。

 聞いた荀攸もそれは無理があると思い笑った。

「いえ、そうではありません。城の周りに穴を掘り、濠にするのです。さすれば、敵が穴を掘って攻め込んできても、その濠から出て来るでしょう」

「成程。そうであれば、見つけ出すのは簡単だな。直ぐに作業に掛かれっ」

 荀攸の策を聞いた曹操は直ぐに城の周りを穴を掘り、濠を作り出した。

 濠が作られて行くという報告を曹操軍内に居る袁紹軍の密偵から報告を訊いた袁紹は穴掘りの中止を命じた。

「ええいっ。やってくれるわっ」

 袁紹は怒鳴り声を上げて、近くにある物に当たり散らした。

 それで袁紹の怒りが収まるのであれば安いものだと思いながら、郭図と許攸は黙って見ていた。

 やがて、袁紹の怒りが収まり落ち着きだしたので、許攸が話し掛けた。

「我が君。思いますに、このまま攻めても、我が軍の被害は大きくなるばかりです。其処で、此処は敵を混乱させるのが良いと思います」

「混乱だと? 何をさせるつもりだ?」

 袁紹は顎髭を撫でながら、許攸がどんな策を献ずるのだろうと思いつつ耳を傾けていた。

「今我等は劉表と同盟を結んでおりますが、此処は揚州の孫策とも手を結ぶと言うのは如何でしょうか?」

「孫策と? だが、孫策は曹操と親しくしていると聞くが?」

 袁紹が言う通り、この時の曹操は孫策を懐柔しようと孫賁の娘を息子の曹彰の嫁として迎える予定になっていた。

 加えて、曹仁の娘を養女にして孫策の弟の孫匡に嫁がせていた。

 最早親戚と言っても良い関係であった。

「其処は外交でこちらの味方にするのです。孫策も瞬く間に揚州を支配下に抑えたのです。揚州だけで満足しないでしょう。切り取った曹操の領地は好きにして良いと言えば、こちらの味方になるでしょう」

「ふむ。悪い手ではないな」

「更に、此処は殿の出身地である豫州の汝南郡に調略を掛けましょう。さすれば、敵もこちらにだけ集中できなくなるでしょう」

「それは良い手だな。それでいこう。汝南郡の方は私が文を送れば良いとして、孫策の方は誰か使者を送るべきだが、誰を送るべきか・・・・・・」

 袁紹は誰にしようかと考えていると郭図が述べた。

「陳震は如何ですか? あの者はかなり弁が立ちますよ」

「う~む。確かにそうだが。あやつには劉備を監視する役目があるからな」

「そうかも知れませんが、他に適任と言える者はおりません」

「そうか・・・・・・仕方がない。此処は劉備を鄴に戻らせて、審配を監視役にさせるか」

「それが良いと思います」

 郭図がそう言うのを聞いて、袁紹はそう決めた。


 同じ頃。

 袁紹軍に居る密偵から、袁紹が穴を掘るのを止めたと聞いて曹操達は喜んでいた。

「敵の策の一つは潰したが、さてどうするか」

 曹操は此処からどう攻めるべきか考えていると、荀攸が前に出た。

「丞相。敵は大軍です。それはつまり兵糧を我が軍よりも消費するという事です。であれば、兵站を断つのが良いでしょう」

「兵站を断つか、常道ではあるが、敵は黄河を渡って来た。という事は、河を使って兵站を輸送するという事になるな」

「はい。ですので」

 荀攸は家臣達の一人に目を向けた。

 それは甘寧であった。

「此処は甘寧殿に任せるのが良いと思います」

「そうだな……甘寧」

 曹操は甘寧を呼ぶと、甘寧は前に出た。

「はっ」

「話は聞いたな。袁紹軍の兵站を断つ役目、任せても良いか?」

「お任せ下さい」

 甘寧が承諾するのを聞いて、曹操は荀攸を見た。

「如何ほど連れて行ける?」

「……二万。それ以上は無理があります」

「よし。では、甘寧。二万の兵を与える。その兵を連れて、袁紹の兵站を断て」

 曹操はそう命ずると、甘寧は首を振った。

「丞相。それだけの兵を連れて行けば、敵に見つかります。ですので、五千程で十分です」

 甘寧が五千の兵だけで十分と言うのを聞いて、曹操達は驚いた。

「流石にそれは無理があるであろう?」

「敵は四十万。兵站を輸送する兵もどう考えても数万は居る筈だ」

「五千では話にもならん。鼠が虎に挑むようなものだぞ」

 家臣達は無理だと口々に言うが、甘寧は自信ありげに言う。

「丞相。どうか、お任せを」

「・・・・・・甘寧。任せたぞ」

「はっ」

 曹操が許可したので、甘寧は一礼して準備の為に離れて行った。

 

 甘寧が進軍の準備をしている中で、ある木の箱が大量に用意されていた。

「若君から使うかも知れないと言って送られてきたが、此処で役に立つとは」

 曹昂から使い方を記された紙に目を通した時は信じられなかったが、それが本当かどうか分かると思い甘寧はその箱達を運ぶ様に指示を出して、自分の準備に取り掛かった。

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[良い点] 張遼と甘寧が同じ陣営にいること [一言] 張遼と甘寧が同じ陣営にいるのは恐ろしいものがある。 呉はどうなることやら
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