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悪運が強い

 陽武に布かれている陣地に戻った袁紹は部下からの報告を訊いていた。

 死傷者は数千に及ぶという報告と共に驚くべき事が報告された。

「申し上げます。先鋒の韓猛、中軍の副将の何茂と王摩を討ち取ったのは関羽だそうです」

「なにっ、関羽だと⁉」

 報告を訊くなり袁紹は机を叩いた。

「確かなのか⁉」

「はい。関羽を見た事がある者に確認を取らせました。間違いないそうです」

 兵の報告を訊いた袁紹は歯軋りしていると、郭図が口を開いた。

「やはり、劉備は曹操と通じていたのです。でなければ、この様な事はしません。直ぐに劉備を呼び処罰を与えましょう」

「そうだな。劉備を此処に呼べっ」

 袁紹の命により、兵は一礼した後その場を離れた。

 少しすると、兵は劉備を連れて来た。

「連れて参りました」

「ご苦労」

 連れて来た兵を労った後、袁紹はキッと劉備を睨みつける。

「皇叔いや、劉備よ。貴様、私の恩を仇にして返すとは、この恩知らずが‼」

 袁紹が陣の隅にまで聞こえる程の怒声を挙げる。

 怒声を聞いても劉備は少しも胆を潰す事は無く平静であった。

 むしろ、自分がどうして詰られているのか分からないという顔をしていた。

「お待ち下さい。何故、私が謗られるのでしょうか? 訳が分かりません」

 劉備からしたら、先程の戦いの時は兵を率いてもおらず、防戦にも参加しなかった。

 つまり、何の功績も無いが、咎められる事もしていなかった。

 訳が分からない劉備に袁紹は腹を立てていた。

「まだ言うかっ。貴様の義弟である関羽が曹操軍の先鋒に立ち、我が軍の将兵を倒したのだぞ!」

「え、誠にございますか⁉」

 袁紹の話を聞いて、劉備は関羽が生きている事を知った。

 袁紹が劉備に部下達の情報を遮断していた為、全く知らなかった。

 なので、関羽が曹操軍に居ると知り衝撃を受けていた。

「・・・・・・いえ、袁紹様。それは本当に関羽であったのですか?」

 最初は衝撃を受けた劉備であったが、直ぐに気を取り戻した。

 関羽が曹操軍に居る理由は分からなかったが、何か有るのだろうと思い、此処は誤魔化す事にした劉備。

「悪知恵が働く曹操の事です。関羽に似た偽物を用意したのでは?」

「貴様っ⁉ 私を馬鹿にしているのか⁉ 既に関羽を見た事がある者に確認を取らせたわ‼ その者は間違いなく関羽だと言っていたぞ‼」

「何と⁉」

 袁紹は怒りながら、関羽は偽物ではないと叫んだ。

 そう言われた劉備の頬には汗が流れていた。

「お待ち下さい。私は曹操軍に徐州を追われ、命からがら袁紹殿の元まで逃げて来たのです。今、こうして、袁紹殿の口から、関羽が曹操軍に居ると聞くまで、生きている事も知りませんでした。そんな私が、どうやって曹操と内通したのです!」

「黙れ! 言い訳など聞きたくないっ」

「ですが、関羽の性格であれば、私が此処に居ると知れば、何をおいても駆けつけてくれる男です。私が一筆書いて、関羽に届ければ間違いなく袁紹殿の元に来ます」

「ふんっ、その返事が来るまで生かせと言いたいのか? そうやって、処刑を先伸ばしにさせて、その内姿を消すつもりであろう!」

「その様な事は」

 劉備はそんな事はしないと言おうとしたが、袁紹は怒鳴った。

「最早、貴様の話など聞きたくもないわ! 誰か、此奴の首を斬れ!!」

 袁紹は怒りのまま、劉備を処刑する様に命じた。

 側にいた兵はその命に従い、剣を抜いた。

 振り下ろせば、劉備の首は容易に落ちるという所で、袁紹の側にいた男が袁紹を止めた。

「殿。お待ちを」

 袁紹にそう声を掛けたのは四十代ぐらいの男性であった。

 目も鼻も口も何処も特徴と言える所は無い平凡な顔であった。

 口髭も顎髭も綺麗に整えられているが、特徴の無い顔なのでどうにも、印象が残らない雰囲気をしていた。

 この男の名は陳震。字を孝起と言い、袁紹の側近であった。

 袁紹の命令で、劉備の世話役兼監視役をしていた。

 忠実にして謙虚で慎ましい性格で袁紹の信任が厚く、弁が立つ男であった。

「殿。劉備を殺してはなりません」

「何故だ? 此奴の義弟の所為で我が軍は多大な被害を被ったのだぞ?」

「だからこそです。曹操は悪知恵が働く男です。劉備殿の義弟の関羽が我が軍に被害を与えたとしれば、誰でも劉備を殺そうとするでしょう。もし、そうすれば、曹操は手を叩いて喜びますぞ。劉備を殺されたと知れば、関羽は怒りに燃えて我が軍を攻撃してきますぞ」

「むううう・・・・・・」

 陳震の指摘に袁紹も有り得ると思ったのか、唸り声をあげていた。

「ですので、劉備殿の処刑は止めるべきです」

「ふ~む。それもそうだな。処刑は中止だ」

 陳震の説得に応じて、袁紹は待ったを掛けると、兵は剣を鞘に納めた。

「だが、私は劉備を信用できん。暫くの間、天幕の中で謹慎せよ」

「はっ」

 袁紹はまだ、劉備が曹操と通じていると思っている様で、劉備に用意されている天幕に居る様に命じた。

 処刑されるよりは良いと思ったのか劉備はその命に従った。

 袁紹は劉備に下がるように命じると、劉備は一礼し下がる。その後、陳震が追いかけた。

 陳震は劉備に追いつくと、笑顔で話し掛けてきた。

「いやぁ、危ない所でしたな、皇叔」

「はい。正直に言って、寿命が縮む思いでした」

 兵が警戒の為にそこら中に居るが、二人は和やかに話していた。

 袁紹の命令で劉備の世話役兼監視役をしていた陳震であったが、劉備と接している内に、その人柄に触れて親しくしていた。

 とは言え、袁紹の臣下としての職務は果たしている。劉備の下に関羽達の情報が入らない様にしていた。

「しかし、関羽が曹操の下に居るとは知りませんでした」

「実を言いますと、私も先程初めて知りました」

 陳震は嘘をつくが、劉備は何も言わなかった。

「ですが、どの様な形であれ義弟が生きていると分かり、安堵しております」

「左様ですか」

 劉備は本心から関羽が生きている事が分かり、ほっとしていた。

 二人は暫く歩きながら話していたが、劉備が用意されている天幕の前まで来ると其処で陳震と別れた。


 同じ頃。

 本陣に戻った曹操は関羽の武功を称えていた。

「先鋒を打ち破っただけではなく、中軍に攻め込み武将二人も討ち取るとは、流石は関羽だなっ」

「畏れ多いお言葉です。丞相」

「だが、お主よりも強い者などこの世にいるのか?」

 鬼神の様な武勇を持っている関羽が謙虚な態度を取るので、曹操がそう訊ねると関羽は顔をあげた。

「少なくとも、二人おります」

「ほぅ、二人とな」

 関羽がそう言うのを聞いて、一人は何となくだが呂布だろうなと思った。

「はい。一人は丞相の配下に加わった呂布。もう一人は私の義弟の張飛にございます」

「ほぅ、張飛か・・・・・・・」

 関羽の口から出た名前を聞いて、一人は予想通りであったが、もう一人は張飛とは思わなかった様で、曹操達は目を丸くしていた。

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