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緒戦は

 建安五年(西暦二百年)四月。


 陽武に布陣した袁紹軍は陣地を守る兵を残し、多くの兵を連れて南下した。

 袁紹軍が出陣したと物見櫓に居る兵から報告を受けた曹操も七万の兵と共に出陣した。

 先鋒は関羽であった。

 曹操より借り受けた爪黄飛電に跨り、旗には『関』の字が書かれた旗が掲げられていた。

 関羽が跨っている爪黄飛電は栗毛だが、被毛には金属の様な光沢があった。

 まるで、黄金の馬の様であった。

 関羽の後ろに付いて行っている兵達はその黄金の様な毛並みに見惚れていた。

 

 両軍が出陣し、少しすると両軍は黄河の支流である濮水と官渡水の間にある平野で睨み合った。

 曹操と袁紹は敵軍を見るなり、直ぐに布陣を変えた。

 布陣を変え終えると、曹操が護衛の許褚と典韋を連れて駆けて行った。

「袁紹。出て来い。話がある!」

 曹操は大音声で、袁紹軍の全兵に聞こえる様に叫んだ。

 すると、袁紹も護衛の兵を連れて陣から出て来た。

「曹操。何用か?」

 袁紹は余裕綽々な体で尋ねて来た。

 そんな袁紹に曹操は声高に叫んだ。

「君と私は長年の友人にして、共に漢王朝を守護し奉った仲である。天子に奏じて、大将軍の地位と河北の土地を守らせていたと言うのに、何故兵を率いて攻め込んできたのだ!」

「黙れ。姦賊‼ 畏れ多くも天子の詔を私利私欲に使い、朝廷を己の意のままに操るとは、許し難き行いぞ。天をも恐れぬ逆臣め。この漢王朝第一の直臣にして四世三公を輩出した名門袁家の当主であるこの袁紹が天に変わって汝を討つ!」

 袁紹の宣言を聞いた曹操は鼻で笑った。

「名門袁家も地に落ちた物だ。お前が当主になるぐらいだからな」

「何をっ⁉」

「逆賊はお前だ。袁紹‼ 天子の命により、貴様を討つ!」

「黙れ‼ その首を刎ねて二度とそのような口を叩けぬようにしてくれるわ‼」

 言いたい事は言い終えたのか、曹操達も袁紹達も馬を返すと、互いの陣へと戻って行った。

「先鋒の韓猛に攻撃を命じろ‼」

 陣に戻った袁紹は傍にいる兵にそう命じた。

 此度の遠征で連れて来た者達は逢紀、許攸、郭図、張郃、高覧、韓猛、蔣奇、淳于瓊、辛明、孟岱、そして今は牢に入れられている沮授であった。

 信任が厚い審配は息子の袁尚と共に冀州を守らせていた。

 幽州は袁煕が、青州は袁譚が、并州は甥の高幹に守らせていた。

 袁紹の命令により、韓猛は先鋒と共に曹操軍へと駆けて行った。

 袁紹軍が向かって来るのを見て、曹操も命じた。

「先鋒に攻撃を命じよ‼」

 曹操の命により、関羽が兵と共に駆けて行った。

 やがて、ぶつかり合う両軍。

 兵達は喚声と共に敵を殺そうと得物を振るう。

 両軍の兵は悲鳴を上げながら、大地に倒れ血で赤く染めていく。

 そんな両軍入り乱れる中で、曹操軍の先鋒を任された関羽は近付く袁紹軍の兵達を青龍偃月刀で切り伏せて行く。

「おおおおおっっっ!!」

 気合と共に放たれる一閃。

 それだけで、数人の兵は胴体を真っ二つにしていく。

「敵将は何処に居るか!! この関羽と勝負せよ‼」

 掛け声を挙げながら、次の獲物を求め偃月刀を上段に構えながら駆ける関羽。

 そんな関羽の声が聞こえたのか、袁紹軍の先鋒である韓猛が向かって来た。

「関羽だと⁉ どうせ、偽物だろうっ」

 劉備が自軍に居るのに、義弟である関羽が攻撃する訳が無いと思った韓猛は馬を関羽の方に向ける。

「其処の者‼ この韓猛が相手をしてくれるわ‼」

 韓猛は駆け出しながら、得物である槍を扱いた。

 間合いに入るなり、槍を繰り出そうとしたが。

「そいやあああっっっ!」

 関羽が上段から振り落とした偃月刀の方が先に韓猛の身体に届いた。

 振り下ろされる偃月刀の速さに加えて、韓猛は攻撃をしようとしていた為かとっさに防御する事が出来なかった。

 韓猛は頭から真っ二つに斬られ、落馬した。

「韓猛様が討たれたぞ!」

「退け、退け!」

 先鋒の将が討たれたので、袁紹軍の兵達は後退しだした。

「このまま、袁紹軍の本陣へと突っ込むぞ! 続けい‼ 者共‼」

 関羽は血塗られた偃月刀を掲げながらそう宣言すると、曹操軍の兵達は喊声を上げた。

 そして、袁紹軍へ駆け出して行った。

 関羽は駆け出す前に近くにいた騎兵に曹操軍の本陣に韓猛を討ち取ったと伝令をする様に命じた後、駆け出していった。

 伝令は命じられた通りに、曹操軍の本陣へと向かった。

 曹操はその伝令の報告を訊いて、大層喜んでいた。

「ははははは、流石は関羽といった所か。見事、我が期待に応えてくれたな」

「ですな。それに加えて、韓猛という男は余程向こう意気が強くて敵を軽んじる男だったようですな」

 曹操の側にいた荀攸は先鋒の韓猛をそう評した。

「そうかも知れんな。良し、此処は好機だ。全軍、進軍を命じよ!」

「はっ」

 曹操は好機と見たのか、全軍に進軍を命じた。

 その命に従い、曹操軍は前進を始めた。

 

 曹操軍が進軍している頃、関羽は袁紹軍の先鋒を打ち破り、中軍を攻撃していた。

 近付く者は青龍偃月刀の餌食になるという事で、袁紹軍の兵達は近付く事が出来なかった。

 それを見て、中軍を預かる逢紀の副将である何茂と王摩が関羽に襲い掛かった。

「おのれ、好き勝手に暴れおってっ」

「我等が相手だ!」

 何茂と王摩の二人は同時に得物を繰り出していくが、関羽は攻撃されても余裕で笑っていた。

「その様な攻撃では蠅すら殺す事もできんわ‼ せりゃあああっ」

 関羽は偃月刀を二回振るうと、何茂達は一撃で斬り殺された。

「ぐっ、おろかな、わがぐんをてきにするとは・・・」

 何茂はそう呟いた後、落馬し事切れた。

「? どういう意味だ?」

 何茂の最期の言葉が気になる関羽。

 足を止めていると、後続の曹操軍が追い付いて来た。

 その後続の兵と共に伝令が関羽の元に来た。

「丞相のご命令です。貴殿は十分に先鋒としての役割を果たした。一度本陣に戻り態勢を整えよとの事です」

「承知した」

 関羽も共に駆けて来た兵達が疲れているのを見て察した様で、曹操の命令に従い本陣へと戻って行った。

 関羽から先鋒の役を担ったのは、曹操軍の武将の中でも一~二を争う猛将である典韋と許褚の二人であった。

 二人が得物を振るう度に、袁紹軍の兵達は数人切り伏せられていき、腕に覚えがある者が二人に掛かって行くが、一瞬で討ち取られていった。

 袁紹軍の兵達の士気が落ちて行くのが目に見えて分かった。

 関羽にばかりに手柄を挙げられてはたまらないとばかりに、奮戦する二人。

 獣の様な雄叫びを上げて、袁紹軍の兵に襲い掛かって行った。

 それを見た参謀の許攸はこれは不味いと思った。

 直ぐに弩弓隊を準備させて、矢を放った。

 間断なく放たれる矢に曹操軍の足が止まる。

 その隙にとばかりに、袁紹軍は態勢を整えだした。

「・・・・・・攻撃している我が軍に後退を命じよ」

 自軍の足が止まり袁紹軍が態勢を整えるのを見た曹操は直ぐに後退を伝える為に、伝令が走った。

 少しすると、曹操軍は後退を始め本陣まで戻って来た。

 その頃には袁紹軍は態勢を整え終えた。

 また、干戈を交えるかと思われたが、両軍は刃を交える事無く自陣へと下がって行った。

 緒戦という事で、曹操と袁紹はあまり被害を出す事は無いと判断した様であった。

 それでも、両軍は数千に及ぶ死傷者を出した。

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