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戦は始める前から始まっている

 馬騰と劉備を除いた血判状に名を連ねた者達は董椿を除き一族皆殺しとなってから半月後。

 曹昂は自分の屋敷で自分直属の密偵部隊である『三毒』の報告を聞いていた。

「申し上げます。文を貰った臧覇殿は兵の準備を整え、一月後には青州への侵攻を開始します」

「あくまでも、陽動だが、隙あれば攻め込んでも良いと伝えたか?」

「はい。臧覇殿も心得たと申しておりました」

「良し。幽州の方はどうだ?」

「子脩様が渡した文を読んでから返事が来るまでは、もう少し時間が掛かると思います」

 その報告を聞いた曹昂は満足そうに頷いた。

 つい先日、幽州の閻柔から使者が送られてきた。

 曹操はまだ朝廷の綱紀の引き締めを行っていたので、代わりに曹昂が応対した。

 使者は挨拶をした後に、持っている文を曹昂に渡した。

 渡された文には『近い内に袁紹が兵を挙げる模様。用心されたし』と書かれていた。

 袁紹の支配下に入っている幽州の豪族がその様な文を送る理由が分からず、曹昂は詰問した。

 使者曰く、主である閻柔は未だに亡き劉虞の事を慕っており、いずれ劉虞の復仇をしたいと言っていた事。加えて、幽州の多くの豪族達が主と同じ気持ちである事と語った。

 それを聞いた曹昂は武具と兵糧を送るので、反乱を起こして欲しいと伝えてくれと告げて使者にその旨を書いた文を渡した。

 話を聞いた使者は「必ずや主に伝えます」と言って風の様に去って行った。

「こちらも問題無しか。後は并州の方はどうなっている?」

 青州、幽州に比べるとこちらの方が色々と難しいと思う曹昂。

 今の并州には刺史として袁紹の甥である高幹が赴任し、袁紹の代わりとして当地を治めていた。

 并州には嘗て前漢の時代で国境を暴れ回った匈奴が分裂して出来た南匈奴が暮らしていた。

 曹昂からしたら、知っているのはそれぐらいであった。

 その并州でも何かしらの騒ぎを起こしたいと曹昂は思うのだが。

「申し訳ありません。何の伝手も手立てもありません」

「そうか・・・・・・じゃあ、このぐらいで我慢するとするか」

 曹昂は并州でも反乱か騒ぎを起こして、来たる袁紹との決戦の際に戦力を下げたいと思っていたが、手立てがない以上諦めるしかないと思った。

 報告して来た『三毒』の者達を下がらせた曹昂は気晴らしに妻妾達の元に向かう事にした。

(そう言えば、呂布が并州出身だったな。誰か良い知り合いがいないか聞いて見るか? ・・・・・・うん?)

 考え事をしながら廊下を歩いていると、前から侍女達を連れて来た董白がやって来た。

「どうかしたのかな?」

「・・・・・・いや、この子が父親に会いたいと思って・・・・・・」

 董白は自分の後ろに控えている乳母とその腕の中に居る自分の子を見た。

「そうか。それは良いな」

 何か言い訳の様に聞こえるなと思いつつ、曹昂は乳母の腕の中に居る自分の子を貰い抱き上げた。

「・・・・・・」

 どうやら眠っている様で、曹昂の腕の中でもすやすやとしていた。

「寝ているのに、会いに来させたのか?」

「良いんだよっ。じゃないと、会いに行けないだろうっ」

 董白は子を起こさないように小さい声で怒鳴るという器用な事をした。

「・・・・・・まぁ、そうだね」

 別に特に用事が無くても会いに来ればいいのにと思いつつ曹昂は腕の中にいる子をあやした。

「そんな事よりも、仕事は良いのか?」

「今は気晴らしがしたいんだ。并州の問題は片付かないから」

「并州? あそこで何がしたいんだ?」

「ちょっとした事。まぁ、知り合いがいないから出来ないんだけどね~」

 曹昂は溜め息を吐きながら言う。

「知り合いが欲しいのか? 何なら、あたしが紹介しようか?」

「はい?」

 董白が何の事も無いように言うのを聞いた曹昂は間の抜けた顔をして呆けていた。

「祖父ちゃんの伝手で、知人が沢山居るぞ。今でもあたしと交流ある奴はいるけど」

 董白がそう言うのを聞いた曹昂は呆けていたが、直ぐにはっと気を取り戻した。

 その後で、曹昂は腕の中に居る自分の子を乳母に渡すと、董白を抱き締めた。

「な、なんだよ。いきなりっ」

 いきなり抱き締められて董白は驚きと恥ずかしさで顔を赤くした。

「今日ほど君を妻に迎えて良かったと思う日は無いよっ。うん」

 曹昂は嬉しくてぎゅうと抱き締めると、董白はますます顔を赤くしていった。

「こ、こういうことは、ひとがいないところで、やれよ・・・・・・・・・・・・」

 か細い声でそういう董白。 

 あまりに小さい声なので、曹昂の耳には届かなかった。

 二人の仲良い姿に董白の侍女達は面白そうに笑っていた。

 

 それから一月後。

 都はようやく落ち着きを取り戻しだした頃。

 そんな中で曹操は丞相府に文武百官を集めて、袁紹についての軍議を行っていた。

「董承一味を皆殺しにした事で、朝廷には丞相の不穏分子はほぼ居なくなりました。これで、後顧の憂い無く袁紹との戦いに臨めます」

 荀彧が現状を話しながら、暗に袁紹と戦うべきだと告げた。

 曹操としても戦う事に異論が無いのか、何も言わなかった。

「荀彧殿。それは些か早計では?」

 其処に孔融が口を挟んで来た。

「何故ですかな?」

「袁紹は冀州、并州、青州、幽州を治めております。動員できる兵数は我等の倍以上です。加えて、今は春。兵糧が戦をできる程あるかどうか」

 孔融の指摘に荀彧も黙った。

 事実、孔融の指摘通り去年も何度も戦があったので、その分兵糧を消費した。

 加えて、張繍が下った事で、南陽郡が曹操の支配下に入ったが、土地は荒れ果てているので、税を取るよりも土地の開拓が必要で、その開拓には金が必要であった。

 それにより、何とか南陽郡で暮らす人々は飢えを凌ぐ事は出来た。

 加えて、曹昂の策で幽州に大量の武具と兵糧が送られていた。その為か戦の為に備蓄していた諸々が消えた。

 現在許昌にある倉には心許ない量の兵糧しか無いと、典農中郎将である任峻が報告に上げていた。

「兵糧が心許ないのであれば、速戦で決めればよい!」

「相手は数十万の兵を動員する事が出来るのだぞっ。短期決戦で勝てる訳が無かろう‼」

 荀彧と孔融は激しい激論を交わしていた。

 二人の激論は熱を帯びて行く中、曹操は冷静に二人の意見を聞いていた。

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