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董承倒れる

 数十日後。


 曹操は関羽が暮らしている館へと赴いた。

 玄関で使用人は、曹操が来た事に驚きながら用向きを尋ねた。

 関羽に会いに来た事を告げると、使用人は慌てて関羽の元へと走った。

 少しすると、関羽が普段着ている着物のまま、玄関へ駆けて来た。

「丞相がわざわざこの様な陋屋(ろうおく)を訪ねずとも、御用があるのであれば、何時でもこちらから参りました」

「なに、丞相府に籠もっていては身体が鈍るのでな、散歩のついでだ」

 出迎えた関羽に曹操は笑顔で手を振った。

「して、今日はどの様な御用で?」

「うむ。今日はお主に贈り物があってな」

「贈り物ですか。感謝いたします」

 関羽は贈り物と聞いて、また金銀財宝か珍しい物だろうかと思いつつ、礼を述べた。

 曹操は後ろに振り返り、手で合図を送った。

 共に付いて来た者達が仔馬と箱を持って、関羽の前に持って来た。

 箱の蓋を取ると、其処には幅広く湾曲した大きな刃が入っており、刀身には緑色の竜が彫りこまれていた。

「これは、見事な刃ですな・・・・・・」

 関羽は箱に入っている武器に見惚れていた。

 刃の下には布が敷かれていたので、関羽は布と刃を一緒に掴みながら持ち上げて掲げた。

 陽光に当たっても、艶がある青く輝いている刃に関羽は目を奪われていた。

「気に入った様だな?」

「は、はい。この刃の銘は何と言うのですか?」

「ああ、そう言えばなかったな。お主が使うのだから、お主が付けたらどうだ?」

「左様ですか。・・・・・・では、冷艶鋸と名付けます」

 関羽は冷艶鋸と名付けた刃を箱の中に仕舞うと、仔馬を見た。

 仔馬なので、体高は六尺《約百四十センチ》ほどであった。

「・・・・・・この毛の色。兎の様な形をした耳。呂布が持つ愛馬赤兎に似ておりますな」

 かなり体高が違うがと思いながら言う関羽。

「鋭いな。似ているのも当然だ。これは呂布が持つ赤兎を親に持つ仔馬なのだからな」

「何と⁉」

 曹操が仔馬の親を明かすと、関羽は目をパチパチさせていた。

「呂布を配下にした時に、ついでに赤兎の血を引く馬を欲しいと思ってな。部下に命じて繁殖の為の牧場を作らせたのだ」

 実際は曹昂が作ったのだが、曹操はそんな事をおくびにも出さなかった。

「流石は丞相ですな。素晴らしい慧眼にございます。そんな貴重な馬を私に下さると?」

「うむ。そうだ」

 曹操の言葉を聞いた関羽はその場で跪いた。

「丞相の温情には、この関羽、頭を下げる事でしか礼を示す事が出来ません」

 そう言った関羽は拝礼しだした。

「ははは、律儀な事よ」

 関羽が今まで一番喜んでいるのを見て曹操は嬉しそうに笑っていた。

 そして、曹操は館を後にした。


 その夜。


 許昌にある董承の屋敷。

 屋敷の一室では、日頃より親しくしている王服、种輯と卓を囲む董承。

「曹操の権力は増すばかりです」

「劉備の義弟の関羽を部下にし、勢いはますます増すばかりです」

 二人の話を聞いた董承は嘆息しだした。

「分かってはいる。だが、今の我等では何もする事ができん」

 反乱を起こそうにも、董承達が声を掛けても集められる兵などたかが知れていた。

 血判状に名を連ねた劉備は袁紹の元に身を寄せており、馬騰に至っては涼州に居るので連絡を取るのが困難であった。

「それに加えて、娘経由であったが、帝から暗殺計画は中止し、血詔を捨てろと告げられたからな」

 帯に仕込んでまで居れた血詔を捨てろと言われ、董承は最初意味が分からなかったが、董承の娘の話では血詔の存在が曹操に近しい者に嗅ぎつけられたと教えてくれた。

 それが誰なのかは、娘も知らないと言うので、董承は困惑した。

 命じられた通りに血詔を処分するか、それとも命に背いて密かに持っているか。

 暫し迷ったが、曹操を討つ為の大義名分になるので処分する事は止めた。

 許昌に居る血判状に名を連ねた者達にも、血詔を処分していない事を教えていた。

「このままでは、曹操は天子を弑逆し自ら天子と名乗るであろう」

 董承があまりに恐ろしい事を述べるので、王服達は恐怖で身体を振るわせていた。

「それを阻止しようにも、我等には力が足りん。帝が危険を冒してでも、血詔を書いて渡してくれた期待に応える事が出来ぬこの身の不甲斐なさを、恨めしく思う・・・・・・」

「「…………」」

 董承の言葉が二人の胸を打ち、言葉を詰まらせていた。


 月日が経ち、年が明けた。

 健安五年。正月。

 年が明けて、官民問わず浮かれている中で、許昌の宮殿の内宮にある献帝の部屋にある一報が齎された。

「申し上げます! 董車騎将軍が倒れられました!」

「なに、董承が⁉」

 献帝は信頼できる家臣であり国舅でもある董承が倒れたと聞いて、唾を飛ばしながら大声を上げた。

「それはいかんっ。太医を、太医の吉平をやるのだっ」

「はっ」

 献帝の命を受けた宮臣は一礼しその場を後にした。

 

 暫くすると、董承邸に献帝が遣わした吉平がやって来た。

「陛下の命により参りました。吉平。字を称平(しょうへい)と申します」

 寝台で横になっている董承に名乗る吉平。

 年齢は五十代後半で少し前髪が後退しており、何本か白髪があった。

 顏には幾つも皺があったが、立派な風采をしていた。

「帝が遣わしてくれるとは、この董承、嬉しく思います」

「陛下の温情に感謝するのであれば、早く病を治すのが良いでしょう。さすれば、陛下もお喜びになるでしょう」

「……ありがたや」

 そして、董承は吉平が調合した薬を飲んだ。

 だが、暫く経っても董承が良くなる様子はなかった。

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― 新着の感想 ―
[一言] しょうへいしょうへいって続いてしまうと、ガキ使思い出してどうしても笑ってしまう。
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