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これは良い物だ

 翌日。


 曹昂は自分の屋敷にある自室で横になっていた。

「う、うう・・・・・・呑み過ぎた・・・・・・」

 昨夜、父の命令により、折角出来た赤兎の仔馬を関羽にやる事となった上に、武人なので武器を送ったら喜ばれるだろうと言うので、武器を作る様に命じられたので、ヤケ酒を飲んでいた。

 かなり痛飲した様で寝台から起き上がる事が出来ない様であった。

 あまりに辛いので、朝廷には人を遣り体調不良により休むと言伝を伝えた。

「旦那様。お水をお持ちしました」

 横になっている曹昂を甲斐甲斐しく世話をする貂蝉。 

 董白達は子供がいるので、曹昂の面倒を見る事が出来なかった。練師は三人が産んだ子供の面倒を見ていた。

 程丹は父親の元に行っていたので、貂蝉が曹昂を診る事となった。

「あ、ああ、悪いね・・・・・・」

 貂蝉の手から水が入った容器を受け取り、口に含む曹昂。

 普段と違って弱弱しい雰囲気を出しているので、貂蝉は心配そうな顔をしていた。

「大丈夫ですか?」

「ああ、うん。ただの宿酔(二日酔いの事)だから・・・」

「そうですか。・・・・ふふふ」

 心配そうな顔をしていた貂蝉がいきなり微笑するので、曹昂は不思議そうに首を傾げていた。

「どうかしたの?」

「いえ、ただ、こうして、旦那様の世話をするのも懐かしいなと思いまして」

「・・・・・・そうだな」

 容器を両手で持ちながら曹昂は懐かしそうに呟いた。

 父曹操と共に従軍し、黄巾の乱の終結に尽力した。その功績を貰う為に洛陽に赴いた時に、曹操に連れられ市に向かうと、丁度奴隷売買が行われていた。

 其処で貂蝉を見つけた曹昂。

 それを見た曹操が貂蝉を買い、曹昂付きの侍女とした。

 以来、何処に行くのも一緒であった。

 曹昂は最初、貂蝉を妹の様な存在だと認識していた。

 月日が経つと、何時の間にかその存在が大きくなっていき、今では妾の一人になっていた。

「・・・・・・貂蝉」

「はい」

「今は幸せかな?」

「はい」

 貂蝉が本心からそう思っている様な笑顔で答えた。

 それを聞いた曹昂はそれ以上、何も訊かず黙って水を飲んでいた。

 貂蝉も何も言わず曹昂の側にいた。

 暫くすると、子の面倒を乳母に任せた董白が曹昂の部屋に来た。

 董白の声質なのか、それとも曹昂の体調が心配で声が大きくなってしまったのか、董白が喋る度に曹昂は頭が痛そうな顔をしていた。

 曹昂が苦しんでいるのを見て貂蝉が董白に「少し休めば大丈夫だから、貴女は子の面倒を見た方が良い」と暗に部屋から出て行けと言う。

 それを聞いた董白はムッとしたのか、貂蝉に難癖を付けだした。

 しまいには二人は口論を始めだした。

 二人が口論しだしたのを見た曹昂は溜め息を吐いた。

(やれやれ、二人共大人になったのだから落ち着きが出て来たと思ったんだけどな・・・)

 二人がよく口喧嘩をしている事を曹昂には隠しているつもりだったのだろうが、曹昂は偶に見掛ける事があった。

 可愛い悪戯はしていたが、特に実害が無い事と手は出してないので良いかと思い曹昂はほっといていた。

 ここ最近は見ていなかったが、落ち着いたのだろうと思っていたがこうして口論をする二人を見て呆れていた。

「・・・・・・まぁ、良いか」

 五月蠅くはあるがこれと言って実害が無いので曹昂は水を飲み終えると、容器を近くの卓に置いて眠る事にした。

 寝ていたら、その内収まるだろうと思ったからだ。

 曹昂は目を瞑りそのまま眠りについた。

 余談だが、二人の口論は屋敷に帰って来た程丹が仲裁するまで続いていた。


 数十日後。


 曹昂は許昌にある鍛冶屋に来ていた。

 その鍛冶屋は曹昂が『帝虎』『竜皇』などの製造に携わった職人の弟子の一人がやっている店であった。

 その弟子は武器製造の方が得意で張飛が持つ蛇矛を作ったのは、この者であった。

「若君。よくぞお越しに」

 弟子が店に訪ねて来た曹昂に一礼しつつ出迎えた。

「注文の品は出来たかな?」

「はい。初めての製法ですので、時間は掛かりましたが何とか」

 曹昂の問い掛けに弟子はゆったりと頷きながら答えた。

 そして、弟子は店の奥に行き、戻ってくると四角い箱を持って出て来た。

「どうぞ。ご確認を」

 弟子はそう言って箱の蓋を取った。

 蓋を取られた箱の中に入っていたのは、幅広く湾曲した大きな刃であった。

 刀身には緑色の竜が彫りこまれていた。

「おお、見事な出来だな」

 箱の中に入っている刃を見た曹昂はその出来栄えに惚れ惚れとしていた。

 刀身全体は、まるで冷たい氷の様でありながら艶があった。

「いやぁ、刀身に竜を彫りこんでくれと言われた時は困りましたが、何とか出来ましたよ」

 弟子は成し遂げた事が嬉しいのか、満足そうな顔をしていた。

 曹昂に刀身に彫刻をしろと言われた時は、最初弟子は言葉の意味が分からなかった。

 刀身に彫刻なんて出来る訳が無いと思ったからだ。

 其処で曹昂が刀身彫刻の方法を教えた。

 弟子は言われるがままに、その方法を行った。すると、刀身に字が彫られていた。

 そして、その技法で弟子は刀身に青竜を彫りこんだのだ。

「ところで、若君。どうして、青竜を彫れと言ったのです?」

 弟子はこの武器を誰に送るのか知らないが、どうして刀身に青竜を彫りこむのか分からず訊ねた。

 聞かれた曹昂はどう言おうか考えた。

(関羽に送るからと言っても無理だよな・・・・・・)

 前世の記憶にある三国志を描いた小説やゲームなどには関羽は青龍偃月刀を持つというイメージがあった。

 なので、そのイメージに従ったとしか思えなかった曹昂。

「・・・・・・四神の青竜は東を守っている。東は太陽が上がる方向だから、あらゆる物事を始めるのに丁度良いという意味があるんだよ」

 曹昂は青竜の由来にこういう意味もあると思い出して話した。

「成程。刀身に彫刻をするという初めて行う技法を始めるという事で青竜を彫ったのですね」

 曹昂の言葉を聞いて、弟子はそういう意味だと取った。

「・・・・・・そ、そういう事さ」

 前世の記憶にある事を言っただけなので、曹昂としてはそれで良いと思う事にした。

 弟子から刃を受け取った曹昂は店を後にし、そのまま屋敷への帰路に着いた。

(武器は受け取ったから、後は仔馬が届くのを待つだけか・・・・・・)

 文には一番良い仔馬を届ける様に書いたので、生まれた仔馬の中で一番良いのが来るだろうなと思いながら曹昂は歩いていた。

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