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弟の不満を宥めるのも兄の役目

 数日後。


 張繍は賈詡と麾下の兵を引き連れて、許昌に辿り着いた。

 許昌の城門前には多くの宮臣が出迎えに来ていた。

 その中には曹操の姿もあった。

 曹操の姿を見るなり、張繍は馬から降りてその場で拝礼した。

 そんな張繍に曹操は近付いて、張繍の手を取り立たせて笑顔で来てくれた事に感謝を述べた。

 そして、曹操は張繍と賈詡を伴い、献帝に謁見させた。

 曹操は献帝に上奏し、張繍を列侯に封じ揚武将軍の職を、賈詡には執金吾の職が与えられた。

 謁見が終わると、曹操は宴を開いた。

 その席には曹昂は参加していたが、曹丕の姿は無かった。

 欠席する理由は調子が悪いとの事であったが、曹操は特に怒る事はしなかった。

 

 宴を終え、張繍達が迎賓館に戻るのを確認すると、曹昂は土産を持って曹操の屋敷へと向かった。

 屋敷に入ると、夫人達に挨拶せずに曹丕の部屋へと向かった。

 部屋の前には使用人が居たので、曹昂は声を掛けた。

「丕は部屋に居るか?」

「はい。少々お待ちを」

 使用人は一礼し部屋に入って行った。

 何事か話した後、戻って来た。

「申し訳ありません。今日は気分が悪いので話したくないそうです」

「そうか」

 使用人は申し訳なさそうに言うのを聞いた曹昂は肩を竦めた後、使用人の脇を通り部屋に入って行った。

 使用人が呼び止めようとしたが、声を掛ける前に曹昂は部屋に入って行った。

 部屋に入ると、曹丕は窓から外を見上げていた。

「丕。調子はどうだい?」

「・・・・・・」

 曹昂が声を掛けても、曹丕は曹昂に背を向けたままであった。

(これは相当機嫌が悪いな・・・)

 何時もであれば、声を掛ければ素直に反応していた。無視をするのを見てそう判断する曹昂。

 宴に参加しなかったのを見て、これは相当機嫌が悪いなと予想していた曹昂は土産を掲げた。

「調子が悪いと聞いたから、葡萄酒を持ってきたぞ」

「・・・っ⁉」

 曹昂が手に持っている瓶を揺らすと、たぽたぽと揺れていた。

 その音を聞いて身体を震わせる曹丕。

 以前、葡萄酒を飲んだ事がある曹丕は余程気に入った様で、何かめでたい事があると飲んでいると丁薔から聞いていた。

 機嫌が悪くても好物を持って来れば話は出来るだろうと思い持って来たが、曹丕の反応から予想通りとほくそ笑む曹昂。

「・・・・・・酒を飲むのは身体に悪いと思うのですが?」

「酒は百薬の長という言葉もあるだろう。まぁ、飲みたくないと言うのであれば、持って帰って私が飲むだけだが」

 曹丕が振り返り飲みたそうだが、我慢するという複雑そうな顔をしながら言うが、曹昂は残念そうに言いながら、瓶を振る。

「・・・ゴクリ。まぁ、兄上が用意してくれたのですから、頂かないのは失礼に当たりますよね」

 言い訳をしながら曹丕は椅子に座り飲む体勢を取った。

(素直じゃないな・・・・・・)

 飲みたいと素直に言わない弟を見て苦笑いしつつ曹昂は椅子に座り、卓に瓶を置いた。

 そして、部屋の外に居る使用人に声を掛けて盃を持ってきて貰った。

 二つの盃を卓に置くと、使用人が下がると曹昂が瓶を持ち盃に赤紫色の液体が注がれていった。

「前と同じく蜂蜜と水で割ったから、飲みやすいと思うぞ」

「原酒では飲めないのですか?」

「丕にはまだ早い」

 この時代では飲酒年齢などあってないようなものだが、流石にまだ十二歳の曹丕に飲ませるのは早いと思った曹昂は出来た葡萄酒を蜂蜜と水で割った物を持って来たのだ。

「原酒はどんな味なのですか?」

「・・・好みがあるかな?」

 米で作られた酒よりも酸味があった。

 曹昂としては、前世が日本人であった為か、葡萄酒よりも米で作った酒の方が好きであった。

「僕はこちらの方が好きですけどね・・・・・・んん~」

 曹丕は盃に口をつけて喉に流し込み、その味に耽溺していた。

 喜びで頬を赤くしている曹丕を見ながら、曹昂は盃に口をつけた。

 その後、二人は無言で葡萄酒を飲んでいた。

「・・・・・・」

 曹昂が何も言わないで酒を飲んでいるので、曹丕は盃を持ちながらチラチラと見てきた。

(ふふふ、気にしてるな・・・・・)

 部屋に訪ねて来て、何を話すでもなく酒を飲んでいれば気にならない方が無理と言えた。

 曹昂は悶々としている曹丕を横目で見つつ酒を飲んでいた。

「・・・・・・何も聞かないのですか?」

「何を?」

 曹丕が我慢できなくなったのか、曹昂に話し掛けてきた。

 曹昂は内心で掛かったと思いながら訊ね返した。

「・・・その、今日の宴に参加しなかった事について聞きに来たのでは?」

「調子が悪かっただけだろう?」

 曹昂がそう訊ねると、曹丕は何か言い辛そうな顔をしていた。

 そんな曹丕を見て笑いながら、頭を撫でる曹昂。

「まぁ、気持ちは分かる。曹浩を殺した奴を招いた宴になど参加したくなかったんだろう?」

 曹昂がそう訊ねると、曹丕は言葉を詰まらせていた。

 分かりやすい反応だなと思う曹昂。

「だが、こんな時代だ、何時までも怨讐に囚われていては、勢力の拡大が望めないぞ」

「そうかも知れません。ですが」

「まぁ、恨みを忘れろと言うのは難しいだろうな。でも、時には水に流す事で度量の広さを知らしめる事が出来る。父上はそう判断し、張繍達をあれだけ厚遇したんだ」

「それは分かります。ですが、死んだ曹浩の事を思うと」

「仲良くなる事は出来ない?」

「はい」

 曹昂の問い掛けに、曹丕は即答した。

「其処は仕方がないな。人には相性というものがある。だから、無理して仲良くなる事はしなくて良い」

「良いのですか?」

「無理して仲良くなるぐらいなら、仲が悪くても問題無いと思うんだ。私は」

「はぁ、そうですか」

「其処から仲良くなるかならないかは、時機次第だ」

「・・・・・・分かりました」

 曹丕はそう言うなり、また盃に口をつけた。

「明日、父上に顔を見せに行こう。そうすれば、父上も安心するだろう」

 曹丕が宴に参加しなかった事を曹操は気にしている風であったので、父を安心させる為に顔を見せに行こうと誘う曹昂。

 曹丕は返事はしなかったが、こくりと頷いた。

 その後、二人は酒が無くなるまで話し合いながら酒を飲んでいた。

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