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433/1006

駄目押し

 暫くすると袁紹の下に、張繍に送った使者が首を斬られ、曹操が送った使者に渡され、張繍は曹操に降る事を決めたという報告が齎された。

「ええいっ、涼州の野蛮人めっ。普通は使者を殺さず送り返すものだろうがっ」

 報告を聞くなり袁紹は歯を食いしばっていた。

「落ち着いて下さい。殿」

 怒る袁紹を許攸は宥めた。

「そうですぞ。所詮は時勢が読めない西涼の田舎者です。勢力としても、荒れ果てた南陽郡を持っているぐらいです。その様な小勢力しか持てぬ者の事など忘れてしまうのが良いでしょう」

 郭図も袁紹の気持ちを宥めるので、袁紹は不満を飲み込む事にした。

「・・・・・・ふん。そうだな。所詮は董卓の残党だ。武勇はあっても、先を見通す事が出来る知恵を持っている者はおらんか」

 袁紹は張繍を馬鹿にすると、許攸達もその通りとばかりに笑う。

「ふん。まぁ、張繍の事はそれで良いが。劉表の方はどうだ?」

「同盟を結ぶのは構わないが。まだ、南部の反乱勢力の抵抗激しく援軍を送る事も、支援も出来ぬとの事です」

「それでは同盟を結ぶ意味が無いであろうがっ」

 劉表の言葉を聞くなり、袁紹は肘置きを叩いた。

「いえ、殿。援軍を送る事は無理でも、劉表と同盟を結んだと事実だけでも曹操は警戒するでしょう。守りを固めるために兵を割くかもしれませんぞ」

「ふむ。そういう使い方もあるか」

 許攸の進言を聞いて、袁紹も同盟を結ぶというのも使い方次第かと思った。

「直ぐに劉表に同盟を結ぶ事を伝える使者を送れ。加えて、国内外に私が劉表と同盟を結んだ事実を伝えるのだ」

「はっ。直ちにそう致します」

 郭図の返事を聞いて、袁紹は満足そうに頷きつつ報告した兵を見た。

「報告は以上か?」

「はっ、…………実は巷でこの様な噂が流れております」

「噂だと?」

 袁紹は聞いた事が無いのか、首を傾げつつ許攸達を見た。

 許攸達も知らないのか首を振る。

「して、どんな噂だ?」

「はっ。ただの噂でして、どの様な根拠があるか知りませんが、所詮は噂は噂なので、信憑性というものが不安なものでして」

「前置きは良い。どんな噂なのだ?」

「・・・・・・先日お亡くなりなられた四男の袁買様は病ではなく、何者かの呪いでお亡くなりになったという話です」

「なんだとっ⁉」

 兵の報告を聞いた袁紹は思わず大声を上げた。

 袁買は病に罹り危篤であった。そのまま、病死してしまった。

 末っ子という事で可愛がっていた四男が呪いで殺されたと聞いた袁紹は席を立ち、剣を持って兵の傍まで来た。

「誰が、その様な事をしたのだ! 知っているのであれば言え‼」

 袁紹は顔を赤くしながら剣を抜いて、その兵の首筋に当てる。

 そのまま剣を引けば、首が斬られるという事が分かっているのか、兵は顔を青くしていた。

「わ、私が聞いた所では、誰かが呪いを掛けたとしか・・・・・・」

「本当か? もし、嘘であれば、その舌を切り取るぞ!」

「ひいいいっ、も、もうしあげます。ですので、どうかっ」

「知っているのであれば、早く言わんか!」

 袁紹は今にも斬り殺しそうな怒気を発した。

 その怒気に押され、兵は震えながら語りだした。

「え、袁買様に呪いを掛けたのは、殿の御子息であられる袁譚様との事です・・・・・・」

「な、にっ・・・・・・」

 兵の報告を聞いた袁紹は目を大きく見開かせていた。

「馬鹿な、袁譚が、弟を呪い殺したと・・・・・・?」

「あ、飽くまで噂ですので、本当かどうかは・・・・・・」

「貴様、出鱈目な事を言うでない‼」

 袁譚の補佐役をしている郭図が兵を叱りつけた。

「しかし、世間ではその様な噂が流れております。加えて、袁買様が病に倒れていた時、袁譚様は祭壇を設けて祈祷していたと言う話が流れております」

「それは弟君の病の快癒を願っての事だ!」

「ですが、噂ではその儀式自体が呪いの儀式だったのだと、専らの噂です」

「何を馬鹿な事を言っている‼」

 兵の報告を聞いて、郭図は怒声を挙げた。

 その声を聞いて、兵は身体を震わせた。

「もう良い! 下がれ!」

 これ以上の話は聞きたくないのか、袁紹は剣を兵から退けて大声で下がる様に命じた。

 怯えた兵は一礼し部屋を出て行くと、袁紹は郭図をねめつける。

「本当に袁譚は祭儀を行ったのか⁉」

「は、はい。ですが、それは弟君の病の快癒を祈って」

「ふんっ。口では何とでも言えるわ!」

 袁紹は剣を鞘に納めつつ、鼻息を荒くしていた。

「ふうっ、全く。私の息子は碌なのがおらん。袁譚は領土をろくに統治が出来ぬ。袁煕は物の役に立たん。袁尚は才と徳が無いときた」

 袁紹は怒りつつ、息子達に対する不満を零しだした。

「お三人はまだ年若いのです。広い目で見ましょう」

「何を言う! 曹操の息子の曹昂を見ろ! 父親の曹操に優るとも劣らない功績を立てているではないか⁉」

 許攸が袁紹の怒りを収めようとしたが、逆にその言葉が気に入らないのか袁紹は怒りを再燃させた。

 そう言われては許攸達は口を噤む事しか出来なかった。

「・・・・・・もう良い。下がれ」

 袁紹はもう話したくないのか、二人に下がる様に命じた。


 数日後。

 青州斉国臨菑県。

 その県は青州の州治を行っている県であった。

 県城内の一室には刺史となった袁譚と郭図の二人が居た。

「なにっ、私が弟の袁買を呪い殺しただと⁉」

「はっ。鄴県内ではかなり広まっているそうです」

「馬鹿なっ。確かに、祭儀を行ったが、それはあくまでも弟の病の快癒を祈祷しただけなのだぞっ」

 袁譚は心外だと言わんばかりに声を荒げる。

 長男である自分が袁紹の後を継ぐのは明白であった。

 なので、弟を呪い殺す必要など無かった。

「恐らくですが、これは袁尚様の謀でしょう」

「謀だと⁉」

「はい。恐らく、自分が袁紹様の後を継ぐ為に袁譚様が邪魔だと思い、評判を落とす事をしたのでしょう」

 袁紹の正室は二人いた。

 最初の妻は子が出来なかった為、離縁した。

 その後、劉氏から娘を貰い、後妻となった。

 その劉氏が長男の袁譚と三男の袁尚を生んだ。

 ちなみに、次男の袁煕は側室が産んだ子であった。

「袁尚が? う~む・・・・・・」

 同母弟がそんな事をしたのではと思うと袁譚の内心はそんな事をしないと信じたい気持ちと、有り得るのではという気持ちがせめぎ合っていた。

 袁譚は取り敢えず何の証拠も無い以上は、事を荒立てても仕方がないと判断し、何もしない事にした。

 だが、この一件以来、袁尚と袁譚は不仲となった。

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