曹操帰還
曹昂が許昌に帰還し、暫くすると曹操がそろそろ戻って来るという先触れが参った。
「そちらの戦況はどうなっているのだ?」
「はっ。甘寧殿の指揮する部隊で黎陽を陥落させる事は出来たのですが、そろそろ冬になる季節なので程昱殿が一度都に戻り大勢を整えるべきだと進言しました所、丞相がその進言を聞き入れて河の警備に少し兵を残し帰還する事となりました」
「そうか。報告ご苦労」
先触れの兵の報告を聞いた荀彧は兵に労い下がらせた。
兵が一礼し離れると、荀彧は部屋に居る曹昂に声を掛ける。
「若君。お聞きの通りです。丞相は敵に打撃を与える事が出来ましたな」
「そうですね。此処は盛大に出迎えねばなりませんね」
「まさしく。ならば、帰還してきた丞相が見るなり喜ぶものを用意するべきです」
「……それは一体、何でしょうか?」
曹昂は少し考えたが分からなかった。
分からないので荀彧に訊ねてみた。
訊ねられた荀彧は微笑んだ。
「簡単な事ですよ。出迎えの時に関羽を連れて行けば、丞相は大層お喜びになるでしょう」
「成程。言われてみればその通りですね」
部下にしたいと熱望していたので、会わせたら喜ぶだろうと思い頷く曹昂。
「では、早速手配を」
「私は出迎えの準備を致します」
曹昂は関羽に声を掛ける為にその場を離れて行った。
数日後。
曹操軍が許昌へ帰還した。
黎陽を陥落させる事が出来たので、多くの戦利品を手に入れる事が出来た。
馬車に戦利品がうず高く積まれていた。
長く対陣していたが、勝利して帰還する事が出来たからか、兵達の顔は明るかった。
兵を率いる将達も勝てた事が嬉しいのか、顔を緩ませていた。
将兵を指揮する曹操も勝利できた事を喜んでいるのか、緩んだ空気を出している将兵に対して、何も言わなかった。
やがて、城門前まで来ると、出迎えの者達は万歳を三唱し楽隊は楽器を鳴らした。
出迎えの者達の列の間に挟まれる様に荀彧と曹昂が居た。
曹昂の後ろには関羽が控えていた。
(・・・・・・う~ん。何か、後ろに関羽が居ると落ち着かないな)
一応、関羽が凶行に及ぶかも知れないと思い、呂布と趙雲を関羽の左右に控えさせていた。
二人が居れば大丈夫だろうと思ったのだが、不安な気持ちは消えなかった。
早く終われと思いながら、曹操が来るのを待つ曹昂。
やがて、曹昂達の前に馬に乗っている曹操がやって来た。
曹操を見るなり、曹昂達は頭を下げた。
「父上。御無事の御帰還。嬉しく思います」
「子脩よ。お前も見事、徐州を劉備から奪い返す事が出来たそうだな。見事だ」
「有り難きお言葉にございます」
曹操が称えるので、曹昂はただ深く頭を下げた。
曹昂との話を終えた曹操は後ろに控えている関羽を見た。
「おお、関羽よ。よく来てくれたっ」
「はっ」
「お主が我が下に来てくれるとは嬉しい限りだぞっ」
曹操がそう言い終えるなり、馬から降りて関羽の下まで来た。
そして、曹操は跪く関羽を立たせる。
「関羽よ。その武勇を我が下で存分に振るってくれ」
「はっ」
短く返事をするだけであったが、関羽も軍門に降った以上は、武将としての務めは疎かにはしないという思いを込めて答えていた。
曹操もその返事を聞いて満足そうに頷いた。
「では、共に参ろうぞ」
「は、はっ?」
曹操が共に行こうと言うのを聞いて関羽は困った顔をした。
自分は降将という身分なのに、丞相の地位に就いている曹操と共に城内に入って良いのかと思ったからだ。
関羽も良いのか?という確認の為に、荀彧と曹昂を見た。
荀彧と曹昂の二人は困った様に溜め息を吐いた後、曹操に従うようにという思いを込めて頷いた。
二人が頷いたのを見て関羽も良いと判断した。
「・・・お言葉に従います」
「うむうむ。誰ぞ、関羽に馬を」
関羽の返事を聞いて喜色満面の曹操。
兵に関羽へ馬を与える様に命じ、自分は馬に跨った。
曹操が馬に跨る頃には、兵が良馬を連れて来た。
その馬の手綱を関羽に渡すと、関羽は馬に跨った。
「では、参ろうか」
「はっ」
曹操は関羽を伴って城内に入って行った。
曹昂達はその後に続いた。
城内の沿道には多くの民が詰め掛けていた。
喜ぶ民の視線には、曹操と共に城に入って来た関羽が目に付いた。
どうして、劉備の義弟が曹操と共に居るのか分からなかったが、曹操の配下に加わったのだろうと思い民達は関羽にも手を振っていた。