この人、実は人たらしでは?
曹昂は出迎えてくれた荀彧達と共に城の中に入って行った。
城内に入り、率いて来た軍の事は呂布に任せて、曹昂は城の一室で劉馥と話をする事にした。
「いやぁ、子脩殿には赤ん坊の頃に一度しか会っていませんでしたので、まさかこうして会えるとは思いもしませんでしたよ」
「私もお会いできて嬉しく思います」
曹昂と劉馥の二人は卓を囲みながら楽しく話していた。
劉馥は曹昂の生みの母親である劉吉の弟なので、血縁で言えば叔父に当たる人であった。
「しかし、叔父上。父上とも親しいのですから、屋敷を訪ねても問題無かったのでは?」
曹昂は一度も会った事が無い叔父の劉馥に、今まで会いに来なかった理由を尋ねた。
訊ねられた劉馥は頭を掻いた後、息を吐いた。
「姉上が死んで直ぐに側室であった丁夫人が子脩殿達を養子にしたと聞きました。噂では親子の仲は良いと聞いております。そんな所に、叔父とは言え、私が会いに行けば姉上の事が気になるでしょう。しかし、それでは貴方を引き取って育ててくれる丁夫人に申し訳ないと思い、成人するまで会うのは控えようと思ったのです。ですが、そう思っている所で、豫州が戦乱に巻き込まれましたので、今の今まで会う事が出来ませんでした」
劉馥が会いに来なかった理由を聞いて、思っていたよりも実直な性格なのだと分かった曹昂。
「叔父上。こうして、都に来たのですから、これからはちょくちょくお会いしましょう」
「ええ、喜んで」
劉馥が笑うと、曹昂は顔を緩ませた。
その後は劉馥が豫州を出た後、揚州に居たがその際に何処にいたのか話してくれた。
「揚州では劉勲の食客をしておりました。そのお陰で揚州の地理に関しては、それなりに詳しくなりました。その縁である者を丞相に会わせる事が出来ました」
「それは、どなたですか?」
「劉曄。字を子揚と申す者です」
劉馥が言う人物の名前を聞いた曹昂は予想以上の才人を連れて来たので、目を剥いた。
「ええっと、・・・・・・親戚ですか?」
前世の記憶でどんな人物なのか知っているが、まだ世に名を知らしめることをしていないので、曹昂はどんな者なのか分からないフリをした。
「いえ、違います。子揚殿は後漢の光武帝の庶子である阜陵質王の劉延の子孫に当たり、もう亡くなった幽州牧であった劉虞とは同族の方にございます」
「おおおっ、という事は、皇族の一員という事になりますな」
「その通りです。ちなみに劉虞は子揚殿の遠縁だそうです」
「成程」
劉馥の説明を聞いて、曹昂は関心しながら聞いていた。
(史書だと劉曄は劉虞の遠縁と書かれていたかな。だとしたら、劉延の子孫の嫡流は劉虞という事になるのかな?)
聞いてみないと分からないが、劉曄が劉虞の遠縁という事なので、恐らくそうだろうと予想する曹昂。
「どういう経緯で知り合ったのです?」
「このご時世ではよくある話です。子揚殿は己の身を守る為に計略を練り、軍勢を手に入れたのです。ですが、拠点と言える物を持たず軍勢の者達を食わせる程の財も無いので、知人の劉勲に理由を述べて軍勢を預けたのです」
「まぁ、軍勢を手に入れても食わせていける程の財力も無ければ反乱を起こされるのは目に見えていますからね」
以前曹操も揚州で兵を募った時、食糧が手に入らず反乱を起こされた事があった。
軍勢を養う事が出来る程の財力が無ければ、そうするのも一つの手だなと思う曹昂。
「その後は劉勲の配下となっていたのです。ですが、劉勲が多くの兵を手に入れた事で最近江東の小覇王と謳われている孫策に目を付けられた様でして」
「孫策と揉め事が起こったのですか?」
「はい。最初こそ友好的だったのですが、袁術が居た豫章郡で賊が蔓延っていたので、共に討伐しようと持ち掛けて来たのです。子揚殿は反対したのですが、聞き入れて貰えなかったのです。その後、劉勲は豫章郡へ赴いたのですが、その隙にとばかりに孫策は劉勲が本拠としていた皖城を攻め取られたのです。その陥落の際に、子揚殿は逃亡し私の下に来たのです」
「へぇ、そうなのですか」
「はい。まぁ、私もそろそろ丞相に仕えようと思い、皖城を攻め取られる前に劉勲の食客を辞め、許昌に向かう事にしたのです。都への道の途上で袁術軍の部将であった者達と出会いましてな、今朝廷に帰順するのであれば、私が口利きすると言いますと、その者等は私の言葉に従い、軍勢と共に朝廷に帰順したのです。その者達は今では軍に再編成されて、当人達も兵達も喜んでおりました」
「そうなのですか・・・・・・」
よく袁術軍の部将を軍勢ごと帰順する様に説得で来たなと思う曹昂。
(しかし、良く劉曄と知り合う事が出来たな。この人、運が良い上に人たらしなのかもな)
そうでなければ、軍勢を帰順させる事も劉曄も劉馥の下に来る事もなかっただろうなと想像する曹昂。
その後、劉馥は姉であり、曹昂の生みの母である劉吉について話をしてくれた。
話を聞いた事で、生みの母がどんな性格であったのかよく分かり、曹昂は嬉しそうに笑うのであった。