挑発
攻城の為に木を伐採し破城槌を作りながら大量の梯子を用意する顔良軍。
兵達が作業をしている中、南より砂塵が舞い上がっていた。
それを見た兵が作業の手を止めて、手でひさしを作りながら何が来るのか見た。
「……あれは曹操軍の旗!」
見ていた兵が砂塵が舞い上がっている中で、『曹』の字の旗を見つけ大声を挙げた。
「曹操軍の攻撃だ⁉」
「総員、作業中断! 迎撃準備‼」
顏良軍の兵達は慌てて迎撃の準備を取り始めた。
槍を構えて槍衾を作る歩兵の後ろには馬に跨る騎兵が控えていた。何時でも出撃できる様に手綱を握り締めていた。
弓兵は城攻めに一番用いる為か、何時でも城を攻撃できる様に城近くに配備されていたので、曹操軍の襲来を受けたので迎撃に加われという命令を受けて向かっていた。
やがて、舞い上がっていた砂塵から騎兵の姿が見えた。
その騎兵は騎兵用の火槍を装備している竜騎兵団の兵であった。
「放て!」
騎兵長がそう命じると共に点火口に火が付いた棒を入れた瞬間、ドドンという大きな音と共に刀身が飛ばされた。
飛ばされた刀身は槍を構える兵に命中し身体を貫いていった。
加えて初めて聞いた轟音の為か、馬が怯えて騎兵を振り落とさんばかりに暴れた。
「何だ、これは⁉」
「刀が飛んで来た⁉」
顏良軍の兵達は火槍の攻撃を信じられない思いで見ていた。
仲間が倒れるのを見て、兵達は動揺していた。
どう対処すべきか迷っている所に、二発目の装填を終え砲身を顔良軍の兵に向けていた。
「放て!」
騎兵長が命じると共にまた轟音を立てて刀身が放たれた。
放たれた刀身は顔良軍の兵を容易く貫き大地に倒していく。
最初の轟音で怯えていた騎兵の馬達は二度目の轟音を聞いて混乱状態となった。
兵を振り落としながら暴れる。中には馬に踏まれ死ぬ兵も居た。
馬が暴れる事で槍を構える兵達にも混乱が生じた。
火槍の三発目を放とうかいう所で、ようやく弓兵が到着した。
弓兵が来るのが見えたのか騎兵長は馬首を翻した。
「退け! 退け!」
騎兵長がそう命じると、竜騎兵団はその場を離れて行った。
これで襲撃は終わりかと思い安堵する顔良軍の兵達。
「何をしている! 敵が逃げたのだぞ。追撃せぬか⁉」
気を抜いている兵達に顔良は叱りつけた。
その命を聞いても兵達は追撃する事に二の足を踏んでいた。
どんな方法なのか分からなかったが、轟音を立てながら刀身が飛んで来るのだ。
そんな相手に戦うなど誰だって嫌だと思うのも無理なかった。
更に言えば騎兵の馬も轟音で怯えてしまい暫くは落ち着かせねばならなかった。
「ええいっ。不甲斐ない奴等め。もう良い! 呂威璜」
「はっ」
顏良は傍にいる副将の呂威璜に呼んだ。
「私は騎兵を率いて敵の騎兵を打ち倒してくる。それまでに、お前は城攻めの準備を済ませて置け」
「承知しました」
呼ぶなりそう命じた顔良は馬に跨り得物を掲げながら叫んだ。
「あの騎兵を追撃するぞ! ついて参れ‼」
顏良は騎兵三千を率いて竜騎兵団が逃げて行った先に向かって行った。