やっぱり、あいつは疫病神かもしれない
時を少し遡り、冀州魏郡鄴県。
その城内にある大広間の上座に座る袁紹は家臣達の話し合いに耳を傾けていた。
内容は劉備が持って来た文の事であった。
袁紹と親しくしている鄭玄の字で書かれた文の内容は、恨みは忘れ劉備と手を組み曹操を打倒するべし。それが御家の為になると書かれていた。
袁紹としては、袁術から帝位を譲られると思っていた所を、劉備が袁術を攻撃した。それにより、帝位を貰う事が出来なかった。
攻撃された袁術は何処かで病死したという噂で聞いていた。
袁紹としては異母弟の袁術を殺された恨みよりも、帝位を貰う事が出来なかった事に恨みを抱いていた。
其処に鄭玄の文を読み、どうするべきか考えた方が良いと思い家臣を呼び集めた。
「今こそ、曹操を蹴散らし中原を我等の物にすべきだ!」
「いや、今は戦をせず、内政に力を注いで国力を富ましてから戦をすべきだ!」
「臆病者めっ。今が機だと分からんのかっ⁉」
「戦は数と勢いでするのではないっ。十分な兵糧と綿密な軍略を持ってするものだ!」
袁紹の家臣達の意見は二つに分かれた。
田豊、沮授といった者達は兵を出す事に反対した。
郭図、審配といった者達は出陣すべきだと言う。
袁紹としてはどちらの意見を取るか熟考していた。
其処に郭図が袁紹に語り掛けた。
「殿。鄭玄殿が劉備を助けて、曹操を討つべきだと文に書かれております。ならば、此処はその通りにするのが良いと思います」
「……そうよな。今が機かもしれんな」
親しくしている鄭玄が自分を陥れる事などしないと思い袁紹は出兵すべきだと思い始めた。
「良し決めたぞ。儂は劉備と手を組み曹操を討つっ。全軍に出陣の用意をさせよっ」
袁紹が出兵する事を決めると、家臣達はその言葉に従った。
そして、袁紹は直ぐに兵の編成を行った。
総大将を審配と逢紀の二人にし、参軍軍事的な献策をする臨時の参謀役の者に田豊、許攸、沮授が従い、先鋒に顔良が任された。
騎兵歩兵合わせて十万の兵が編成をしていた。
その編成をしている最中、劉備が袁紹の下にやって来た。
何事だと思いながら、話を聞いた所曹昂軍の攻勢の前に徐州を守る事が出来ず逃亡し、袁紹の下に保護を求めて来たと述べた。
(っち、袁術を殺された恨みを忘れて手を組んだと言うのに、守る事も出来ぬとは)
内心舌打ちしながら、劉備の弱さに憤っていた袁紹。
その上、家臣と言える者は一人しか居なかった。
これで、豪傑と名高い張飛と関羽が共にいるのであれば、まだ許せた。
張飛と関羽を使って曹操軍を攻撃する事が出来たのだが、その二人が居ない上に、実力が二人の義弟に比べて劣る劉備だけという事で役に立つか分からなかった。
取り敢えず、袁紹は暫くは食客にして面倒を見て、それで恩を売ってから恩返しという名目で最前線に送り込んで扱き使う事にした。
そうと決めた袁紹は劉備を温かく出迎えた。
その歓待ぶりに、劉備は馬から降りて礼を述べた。
やがて、十万の兵が鄴県を出陣し南下していった。
暫くすると、審配が袁紹の下に戦況の使者を送って来た。
「ほぅ、先鋒が兗州の済陰郡の鄄城県に到達したが、兵が少ないので攻撃せず一部の兵で包囲もせず許昌に向かったと?」
「はっ。報告では千にも満たない兵しか居ない城ですので、落とす価値も無いと思い通過したそうです」
「千にも満たない兵しか居ない城だと? ふん。そんな城を落とす必要もないな」
そんな城を落としても、曹操は何とも思わないだろうと思い袁紹も顔良の判断に怒る事はなかった。
その使者の報告はそれで終わりなのか下がって行った。
「ふふふ、さて、曹操は如何出て来るのであろうな?」
袁紹は曹操が何をするのか楽しみだと言わんばかりに笑った。
その更に数日後。
袁紹の下に使者がやって来た。
「申し上げます! 先鋒の顔良様が敵の計略に嵌まりお亡くなりになりました!」
「何だと⁉」
使者の報告を聞いた袁紹は席を立ちあがり驚きの声を上げた。