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虎を降す

 張遼の部隊が加わった曹昂軍は全軍で下邳へ進軍した。

 数日程すると、下邳に辿り着いた。

 城を前にした曹昂は全軍で城を完全に包囲する様に命じた。

 鼠一匹逃げる事も出来ない様に厳重に城を包囲した。

 これが城攻めであれば、兵法の常道に反する事であるが、今回は城攻めを行うのではないので問題は無かった。

 

 城が完全に包囲されるのを見た関羽は目をこらした。

「…………何と厚い布陣だ。これでは、城から抜け出す事も不可能。あるとすれば、空でも飛ばねば無理か」

 関羽は包囲網を見るなり、強引に突破も出来ぬと判断した。

 側にいる孫乾も同じ思いなのか溜め息を吐いた。

「これでは、城から逃げる事も出来ませんな。いかがいたしますか? 雲長殿」

 孫乾がそう訊ねると、関羽もどうしたものか考えながら髭を撫でた。

「私一人であれば、この城を枕に討死を考えるが、この城には兄者の奥方様方がおられる。兄者から託された以上、何があっても守り抜かねばならぬ」

「その通りです。しかし、どうやってお守り致しましょうか?」

「さて……むっ?」

 関羽が思案していると、包囲している曹昂の軍勢から一騎の騎兵が出て来た。

 その騎兵はそのまま城へと駆けていく。

 そして、騎兵は城門前まで来ると城壁に居る者達に向けて大声を上げた。

「我が名は張遼。字は文遠。関羽殿に話したき事があり参った。開門されたし!」

「張遼か。何用で参った⁉」

 駆けて来た騎兵こと張遼の声を聞いた関羽は城壁から姿を見せて張遼に訊ねた。

「関羽。久しぶりだな。貴殿と話したい事があって参った。城内に入れてくれっ」

「……良かろう。張遼を城内に入れろ」

 話があるようなので関羽は話を聞くために城門を開ける様に命じた。

 だが、孫乾が止めた。

「お待ちください。将軍。張遼が何をしに参ったのかは明白。降伏する様に伝えに来た使者です。城内に入れず話を聞くだけで十分かと思います」

「そうだろう。だが、張遼は友人だ。友人が訪ねて来たと言うのに、話を聞くだけで返しては義理を欠く事になろう」

「確かにそうですが」

「話を聞くだけだ。まぁ、私だけで判断できぬ事が起きたら、お主にも相談する。心配するな」

「承知しました」

 関羽が安心する様に言うので、孫乾も取り敢えずは大丈夫だろうと思い、城内に入れる事にした。

 

 張遼が城内に入ると、そのまま一室に通された。

 既に関羽が席についており、酒宴の準備を整えていた。

 張遼も席に着くと、関羽は手酌で自分の盃に酒を注いだ。

 それを見た張遼も手酌で盃に酒を注いだ。

「では、久しぶりの再会に」

「再会に」

 関羽が盃を掲げると、張遼も盃を掲げた。

 二人はほぼ同時に盃に口をつけて、酒を喉に流し込んだ。

 盃に入っていた酒を飲み終えると張遼が話し掛けて来た。

「関羽よ。お主は劉備殿がどうなったのか知っているのか?」

「いや、孫乾から聞いた限りでは、彭城に向かったというだけだ。その後はどうなっているのか知らぬ」

「そうか。では、教えよう。劉備殿とその一党の者達は今は何処にいるのか分からん」

「真か?」

「うむ。未だに、誰かを捕まえたという報告も殺したという報も聞いていない」

「そうか……」

 死んでいないという事を喜ぶべきか、何処にいるのか分からない事を嘆くべきか分からず、複雑そうな顔をする関羽。

「其処で関羽よ。お主に訊ねる。これからどうするつもりだ?」

「……どうもこうも無い。兄者が兵を率いてこの地に来る、その時までこの城を守り続けるのみ」

 関羽が当然とばかりに言うと、張遼は予想通りの答えだと思いつつ話し出した。

「いやいや、関羽よ。それはつまり、城を枕に討死するという事と同意であろう」

「そうかも知れぬ。だが、兄者からこの城を任された以上、最後までその命に従うのが武人としての務めというもの」

「お主はそうかも知れぬが、劉備殿の奥方はどうするつもりだ? お主が死んだ後は、誰がお守りするのだ?」

「むっ」

 張遼の指摘に関羽は言葉を詰まらせた。

「それに、このまま城に籠もれば、曹昂様はこの城を攻撃し攻め落とすだろう。そうなれば、お主は死ぬかも知れぬ。もし、劉備殿が生きていたら、お主は約束を破る事になるぞ。義に篤いお主がそれで良いのか?」

「ぬぅ……しかし、この状況から助かる方法と言えば、降伏するしか方法が無い。それはつまり、命惜しさに敵に降るも同然。それは兄者との義に背く事になろう」

「だが、死んで劉備殿との約束を破るのと、劉備殿の生存を知る為に一時の恥を受け入れる。どちらが正しいと思う?」

「…………」

 張遼の指摘に関羽は言葉を詰まらせた。

 苦悩している関羽を見つつ、張遼は酒を飲んで関羽の答えを待った。

「……そうよな。お主の言う通りではあるな」

「お主が降伏すると言うのであれば、不肖の身ではあるが、取り計らおう」

「感謝する。だが、降伏すると言うのであれば、今から述べる条件を聞いてもらおう」

「その条件とは?」

「一つ。降るのは、飽くまでも漢王朝。断じて曹操ではない。

 二つ。兄者の奥方達の安全を守る事。

 三つ。兄者が生きておられる事が分かれば、兄者の下に帰参する事。

 この三つを全て受け入れると言うのであれば降伏しよう」

「承知した。では、私に任せろ」

 関羽から降伏する為の条件を聞いた張遼は胸を叩いた。

 そして、張遼は陣地に戻ると、曹昂に関羽が降伏する条件を述べた。

 それを聞いて呂布が憤った。

「あの長髭めっ。これほど厚かましい降伏条件を述べるとはっ」

「確かに、少々厚かましいですな。厚顔と言っても良いですな」

 呂布の言葉に劉巴も同調した。

「確かに。殿。此処は自分の立場というのを分からせるべきでは?」

 刑螂も何かしらの事をすべきと言うが、曹昂は苦笑いした。

「既に父上から、どんな条件をつけられても良いから、部下にしろと言われているからね。全部受け入れるよ」

「ですが、三つ目の条件である劉備の消息が分かれば去るというのは、丞相も困ると思います」

「そこら辺は面倒だから、全部父上に任せよう」

 劉巴が三つ目の条件が問題だと言うが、曹昂は面倒ごとは全部父に任せる事にした。

「殿がそう言うのでしたら」

「良し。では、張遼殿。全ての条件を受け入れると関羽に伝えてきてくれ」

「承知しました」

 曹昂が関羽の条件を全て聞き入れると聞いた張遼は一礼し、城へと向かった。

 暫くすると、張遼が戻って来た。

 少し顔色が悪いので、何かあったな?と思いつつ曹昂は尋ねた。

「それで、関羽は何か言っていたか?」

「はっ。それが、関羽が申すには『奥方に私が降伏する条件を述べたところ、奥方様達はそちらの言葉を信じていない様子。そちらが本当に条件を聞いて貰える証として、城の包囲を解いてくれぬか。さすれば、私は降伏する』との事です」

 張遼がそう言うと、呂布を始めとした家臣達がいきり立った。

「何と傲慢な⁉」

「此処まで厚かましい降伏をする者は見た事がありませんぞ!」

「殿。やはり、此処は一度立場を分からせるべきです!」

 呂布達がいきり立つをの見た曹昂は落ち着く様に声を掛けた。

「落ち着け。向こうもこちらを完全に信じていないから、そんな条件を出したのだろう。ならば、こちらは向こうが信じて貰うように行動するだけだ。ただちに、全軍に城の包囲を解く様に命じろ」

「はっ」

「殿。宜しいのですか?」

「如何に、丞相の命とは言え、此処までせずとも」

「仕方が無いだろう。父上の命なのだから」

 関羽としても自分が出した降伏の条件をすんなりと受け入れると聞いたら、何か罠があるのではと疑うのも無理ない事だと思い曹昂は命令を下した。

 暫くすると城の包囲が解かれた。

 そして、城門が音を立てて開きだした。

 関羽が先頭に立ち城門から出て来た。その後ろには蓋つきの馬車が付いて来た。

 関羽が出て来るのを見て、曹昂は安堵の息を漏らした。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 懐かしい三国志ですね。関羽がどうなるかワクワクします。 [気になる点] 史実だと赤兎馬を曹操はあげてますけど、呂布生きてるからどうするんでしょうか。絶影をあげるのかな? [一言] いつも楽…
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