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誘き出してしまえば

 翌日になっても呂布の罵倒は続いた。

 その上、城を包囲している軍が包囲を解き、城から十里ほど離れた所で陣地を構えた。

 戦場で敵方の城を包囲をしないという事は相手を侮っているのと同じ事であった。

 それが分かっている張飛は劉備に呂布と戦わせて欲しいと願い出るが、劉備は挑発に乗るなと厳命した。


 呂布の罵倒を行う様になって、数日が経った。

 今日も呂布は城から良く見える所で、張飛を罵倒していた。

「どうした? 出て来い。張飛! 私の首を取るつもりはないのかっ。臆病者めっ。義兄の背に隠れなければ、大言も吐く事も出来んのか‼ 卑劣漢め‼」

 何時まで経っても出てこない張飛に嗤う呂布。

 だが、城からは何の反応が無かった。

 その様子を曹昂は陣地から見ていた。

「・・・・・・動かないな」

「ですね」

 曹昂が呟くと、劉巴も同意する様に応えた。

「張飛の事だから、そろそろ出て来ても良いと思うのだがな」

 罵倒されているので、怒りでその内出てくると思ったのだが、中々出てこないので曹昂が焦れて来た。

「しかし、殿。我が軍の兵力と劉備軍は互角。同数での城攻めは止めた方がよいと思います」

「分かっている。しかし、このまま無為に時間を潰すのはな……」

 兵糧を無駄に消費すると思い、曹昂は渋い顔をしていた。

「まぁ、此処は焦らず攻めましょう。広陵郡を制圧した張燕殿が下邳国に攻め込んでいますし、彭城は高順殿が包囲しているので援軍が来る事はありません。ですので、此処はじっくりと攻めるのが良いと思います」

 劉巴は曹昂が上手く策が実行されない事に怒っているので宥める様に言う。

「まぁ、そうだな」

 劉巴に宥められ、曹昂もその通りだと思い気を落ち着かせる事にした。

 既に広陵郡を占領する事が出来た張燕には下邳国に侵攻する様に命じていた。

 ただし、関羽が籠もる下邳県以外を制圧し、それが完了した後で下邳県を包囲し、敵を城から出さない様にしろと命じた。

 これは、呂県を守る劉備が関羽に援軍を求めるかも知れないと思い、援軍を送らせない様にする為に命じたのだ。

(袁紹が徐州に攻め込んでくるのは現時点では無いな。徐州に攻め込むぐらいなら、兗州に攻め込んで許昌を手に入れた方が、天子を手に入れる事が出来るからな。そちらは父上に任せれば大丈夫だ。徐州に攻め込むのは、まずしないな)

 そう考えるとまだ余裕はあるかと思い、曹昂は気が楽になって来た。

(このまま、呂布に罵倒させても効果が出ないからな。そろそろ、作戦を変えるか……んっ?)

 呂布がどれだけ罵倒しても動く気配が無いので、曹昂は作戦を変更しようと思った時、

 城門が音を立てて開きだした。

 開かれた扉から出て来たのは一騎の騎兵であった。

 そして、その騎兵は曹昂がよく知る人物でもあった。

「呂布っ、てめえは良くも好き勝手に言ってくれたな。その口、二度と開かない様にしてやる‼」

「ふん。ようやくか。随分と遅い事だな。まぁ、お前の事だから、劉備の命令に逆らう事が出来なかったのか?」

 呂布が張飛の行動を嗤う様に口元を歪めた。

 嘲られていると分かった張飛は憤慨していた。

「おお、上等だ。三つの家の奴隷め、今日ここで決着をつけてやるっ」

 張飛が得物である蛇矛を振るいながら駆け出した。

「良いだろう。胸を貸してやるっ」

 向かって来る張飛に呂布は相手をする為に馬を駆けさせた。

 駆け出す張飛と呂布。

 互いの得物をぶつけ合い、気合を込めた叫び声を上げながら得物を振るった。

 火花を散らせながら得物をぶつけ合う二人。

 そんな呂布達を見た曹昂は笑みを浮かべた。

「ようやく出て来たか。後は呂布に策通りに動いて貰うか」

「上手くいくと良いですね」

 劉巴は其処だけは心配そうに呟くが、曹昂はそうなったら、別の策を立てるだけだと思うが口には出さなかった。

 まだ考えた策が成功も失敗もしていないのだ。

 まずは、そちらの成否次第で決めるべきだと思ったからだ。

 曹昂は二人の一騎討ちを黙って見た。


 四半時ほど経ったが、呂布と張飛の一騎打ちは続いていた。

 竜虎相討つが如く、激しくぶつかり合う二人。

 両軍の兵達も二人の戦いに見蕩れていた。

 張飛が城を出たと聞いた劉備は一騎打ちを見ながら、城郭から何時引き鉦を鳴らそうか時機を計っていた。

 劉備としては、直ぐにでも引き鉦を鳴らして張飛に戻る様に命じたかったが、互角の戦いをしているのに退かせる理由も無かった。

 下手に退かせれば味方の士気に関わると思い、劉備は何時鳴らすべきか考えていた。

 そんな時に、呂布が鍔迫り合いを切り上げて少し下がった。

「ふんっ、やればできるではないか。今日のところは、このぐらいにしてやろう」

 呂布はそう言って馬首を返して駆け出した。

「呂布っ、逃げるか!」

 駆け出す呂布の背に張飛は罵倒した。

 だが、張飛の罵倒など聞こえないのか呂布はそのまま駆けて行った。

 その駆けて行った先には陣地などは無かった。

「逃がすものか!」

 今まで散々好き勝手な事を言われた張飛は血気に任せて、呂布の後を追い駆けた。

 それを見た劉備が慌てだした。

「張飛! 敵が後退したのだ。もう切り上げよ。戻れ!」 

 劉備が城郭から大声を上げると、張飛の耳には聞こえたのか馬の足を止めた。

 それを見て劉備は安堵したが、

「兄者っ、此処で呂布を逃がしたら面倒な事になる‼ 俺に任せろ!」

 大声でそう叫ぶと張飛は呂布の後を追い駆けていった。

「馬鹿者! 血気に逸るな! 戻れっ! 戻るのだ!」

 劉備が張飛に戻る様に命じるが、張飛は返事もせずに駆け出して行った。

 そんな張飛に怒り、拳を握る劉備。

「馬鹿者め。張飛を助けに行く。兵の準備をっ」

 劉備が兵に進撃を命じようとしたが、麋竺と糜芳が止めた。

「殿。殿はこの城の大将にございます。殿が城を出てはなりません」

「兄上の申す通りです。此処は私にお任せを」

 麋兄弟にそう言われ、劉備もその通りだと省みた。

「そうよな。良し、糜芳。お主に二千の兵を与える。張飛を連れ戻してこい」

「承知しました」

 劉備の命令に糜芳は承諾し、兵の出撃準備に取り掛かろうとした。

 だがそこへ、少し離れた所で陣地を構えていた曹昂軍が城へと進撃していた。

「なっ、曹昂軍が攻めて来たと⁉」

「殿。此処はまず城を守りを固めましょうっ」

「ぬっ、仕方がない。糜芳は西門。麋竺は東門。北門は私が指揮する。南門は簡雍に守る様に命じろ」

「「はっ」」

 劉備の命を受け、麋兄弟は担当する門へと向かった。

 

 同じ頃。

 張飛は逃げる呂布の後を追い駆けていた。

「あの野郎っ、人をおちょくりやがってっ」

 前を掛ける呂布を見ながら、青筋を立てる張飛。

 張飛が乗る馬も良馬ではあるが、呂布の愛馬赤兎の足に追い付く事は無理であった。

 張飛も呂布の後を追い駆けつつ馬が疲れだしてきたら、追うのを止めて城に戻るつもりであった。

 だが、呂布は張飛の前を駆けているが、その距離が絶妙であった。

 追い抜かす事は出来ないが、その後ろに着く事が出来るという速さで駆けていた。

 名馬赤兎の足であれば、自分の馬を振り切る事など簡単に出来る事であった。

 それなのにしない理由など、自分をおちょくっているとしか思えない張飛。

 追い付いたら目に物を見せてやると思う張飛。

 そうして、呂布の後を追い駆けていると、突如呂布は馬の足を止めた。

 張飛は此処で戦うつもりかと思い、蛇矛を構えた。

 だが、呂布は方天画戟を掲げるだけであった。

 戟の刃に日の光が当たり煌めいた。

 その煌めきが、合図であったのか、何処かに隠れていた騎馬部隊が姿を見せた。

 その部隊は『趙』の字が書かれた旗を掲げていた。

「行くぞっ。私に続け!」

 趙雲がそう叫ぶと共に駆け出した。

 駆け出した趙雲隊千騎は張飛を包囲した。

「なっ、此処で伏兵か⁉」

「張飛殿。最早、勝敗は決した。悪い様にはしない。降伏されよ」

 包囲された張飛は周りを見ていると、趙雲が張飛に降伏する様に促した。

「お前は趙雲!」

「お久しぶりですな。元気そうで何よりだ」

「お前っ、曹操の手下になったのかっ⁉ 兄者はお前の事を買っていたというのにっ」

「劉備殿には申し訳ない。だが、曹子脩様には恩禄を下されましたので、その恩義に報いるのが忠義というもの。ですので、どうか御容赦を」

「曹操の息子の手下になるとは、情けない奴っ。兄者に死んで詫びろっ」

 張飛が趙雲に向かっていこうとしたが、趙雲の部隊の兵達が手に輪っかがある縄を握っていた。

 兵達はその紐を回し、張飛へと投げた。

 投げた縄は張飛の身体と馬の首に掛かった。

「引けっ」

 趙雲が一声そう命じると、兵達は縄を引っ張った。

 持てる力の限り縄を引っ張る兵達。

 張飛も抵抗したが、馬は無理であった。

 呂布と一騎打ちをして、そして休む間もなく駆けていたのだ。

 疲れていない筈が無かった。

 馬は兵達の力に対抗する事が出来ず、横に倒れてしまった。

 張飛も馬から投げ出される様に落馬した。

「捕らえよ!」

 趙雲がそう命じると、縄を持っていない兵達が落馬した張飛に槍を突き付けた。

「く、くそ・・・・・・」

 縄で動く事もままならない中で、槍を突き付けられては手も足も出ない張飛。

 武器を取り上げられ、抗う事が出来ずそのまま捕虜の身となるのであった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 歴史とは違いますが、実に張飛らしい行動ですね。鮮明に目に浮かぶ光景です。 しかし捕虜にしても扱いに困りますね。降伏するはずもないし、解放するには危険だし。 暴れて逃げるか脱獄するか、ですか…
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